「新鮮組」それは俺のロマン〜蛤御門の変〜
「新鮮組」それは俺のロマンの続編を書いてみました。
俺は常々思っていたなぜ明治維新に立ち会えなかったのかと。
先日俺は副長土方役の金田君、沖田役の岡崎勇一、斉藤一役の木村君、そして局長の俺で新鮮組を結成した。そこで俺たちは「IKEDAYA」を襲撃して成果を挙げたのである。
ある日の学校のお昼の時間、俺は金田君と自分の教室で食事をしていた。
「副長。やはり次は蛤御門を守るべきではないか?」
俺は池田屋事件を成功させて一気に新鮮組の知名度を挙げたと思って鼻息が荒かった。次は蛤御門を守るしかないなと学校の教室の窓の外の景色を見ながら言った。
知らない方がいると思うので説明しよう蛤御門とは京都御苑の門のことであるがそこで蛤御門の変が起こった。新鮮組はそこに参戦して手柄を挙げたのである。新鮮組を名乗るものとしては是が非でも蛤御門は守りたいものである。
「しかしですね。局長。一つ問題があります」
副長の金田君が言った。この男は俺の親友である。メガネ君で、頭がおかっぱで背が低くてやせっぽっちの目立たない人間で、特別特徴のない男である。
「なんだ。副長言って見ろ」
俺は昼ごはんを食べてしまってデザートのアロエヨーグルトを食べながら言った。
「ここから蛤御門までは遠すぎると思います」
「なるほど。もっともだ。確かにここから蛤御門までは遠すぎると思う。しかし、副長お前は相
変わらず頭が固いな。もっと柔軟な発想を見せてみろ」
俺はアロエヨーグルトの蓋の裏部分のヨーグルトも逃さずに食べながら言った。ぶっちゃけ俺はここが一番うまいと思う。
「と。言いますと」
「近くに無いなら作ればいい。それだけではないか。俺はここに宣言する。本日よりこの学校の
裏門は蛤御門とする。本日より新鮮組一同はここの警備に当たることにする。副長放課後、新鮮組を結集させろ。軍議をする」
「は。了解です」
俺はアロエヨーグルトを食べ終え、再び視線を外の景色に戻した。校庭の木々が風でざわめいていた。まるでこれからの波乱の幕開けを予感しているようであった。
放課後、空き教室にて新鮮組の軍議を開いた。局長俺、以下副長金田、沖田役の岡崎が出席した。斉藤役の木村君は持病の肘痛で欠席とのことだった。
「ということで我々はこれより裏門改め蛤御門の警備に当たる」
「あの。ちょい聞いてもいいすかね。なんで裏門なんて警備しなくちゃならないんすか?」
沖田役の岡崎君が聞いてきた。彼は見事な茶髪の長髪、目元はきりっとしていて、顔立ちは恐ろしいほど整っている美男子であり、今日も胸元ははだけさせて何かに対してアピールをしていた。
「裏門ではなく、蛤御門だ。それと新鮮組隊士として蛤御門は天子様を守るために必ず守らなければならない門だ。お主もしや尊王攘夷派ではないだろうな?」
「ああ。もう訳分かんないすからもういいです。とにかく、えー。いがぐり御門とかいうのを守ればいいでしょ?」
「はまぐり御門だ。お主わざと間違ってるだろう。これ以上変なことを言うようなら局中法度に則って粛清するぞ」
俺は沖田君の言動に怒りを覚えていたが、ビジュアル要員をここで失う訳には行かなかったので我慢することにした。
「それでは局長参りましょう」
副長の金田君に促され俺たち新鮮組は学校の裏門改め蛤御門に向かった。
学校の裏門はすぐ後ろが山のためかほとんど使われていなかった。一部の遅刻の生徒や家の場所的な要因で使う人以外は通らないので人通りは皆無に等しかった。俺は副長に用意してものを出させた。
「それは何すかね」
沖田君役の岡崎君が聞いてきたので俺は答えてやることにした。
「これは書道部の海東さんに書いてもらった。蛤御門の看板だ。どうだ。見事な達筆であろう」
俺はわざわざ斉藤役の木村君に頼んで、看板にぴったりの木を探し出させ、全国で入賞経験もあるという海東さんに頼んで「蛤御門」という看板を作らせた。海東さんが何回も「なんでこんなの書かなくちゃならないの?」と言ってきたので何回も説明してやったのは秘密だ。(全て木村君がやってくれたのだが)
「木村のやつ可愛そうに……」
岡崎君の呟きはスルーしてとにかく取り付けにかかった。門に釘で指してこれでこの門はありふれた学校の裏門ではなく今より蛤御門となった。
「おお。これは素晴らしい。よし、記念に写真を取ろうではないか。写メだ。いやムービーの方
がいいかもしれん。ほら俺が特別に取ってやるから。ほら笑わんか」
俺は色んな角度から蛤御門と隊士を取った。金田君は百万ドルの笑顔を見せてくれたが、岡崎君は終始引きつった笑顔だった。
「おし。では今日はこれにて解散だ。では明日は放課後にここで会おう」
「局長。誰か来ます」
解散しようとしたら金田君が誰かを見つけたようだった。俺は振り向いて誰か確認した。
「あれは……。確か、明治維新研究会の村上じゃないか?」
「みたいですね。そして、我々の宿敵です」
今までのほのぼの気分から一転して緊迫ムードになった。明治維新研究会の村上。彼は学内きっての尊王攘夷派であり、彼の口癖は「俺はいつか奇兵隊を作るぜよ」だ。いろんな意味で間違っているし、危険思想の持ち主であるので前々から新鮮組ではブラックリストの一人に入っている一人である。彼はいつもカバンに『高杉晋作の奇兵隊作り方―今日から始める大政奉還への道―』を持っているという噂だ。
「おい! 皆のもの、戦闘準備に入れ。敵は全部で4人か。我々よりも多いな」
俺は早速のピンチで少々焦っていた。まさかこんなに早く蛤御門の変が起こるとは思わなかったからだ。
「局長。これをお付けください」
そう言うと金田君は鉢巻を渡してくれた。
「こ。これは。ついに完成したのだな」
「はい。昨晩完成いたしました。今日に間に合ってよかったです」
俺は前から金田君に何か新鮮組に相応しい身に着けるものを作ってくれとお願いしていた。そして、金田君が作ってくれたものは誠と書いてある鉢巻だった。本当は浅葱色の羽織が良かったのだが、予算の関係で仕方がなかった。
「これがあれば負けはしない。ほら沖田君これを付けないか」
鉢巻を持って嫌そうにしていた岡崎君を俺は促した。こんなにかっこいいのになぜ嫌がっているのか俺には分からなかった。
「……。分かったよ。付ければいいんだろ」
そう悪態をつくと岡崎君はしぶしぶ鉢巻を巻いた。本当は付けたくてしょうがない癖に恥ずかしがり屋さんなんだからまったく。
「沖田君! 君は左翼を守れ。土方君! 君は右翼だ。俺は正面でやつを迎え入れる」
俺たちは万全の体制で村上一派を待ち構えた。村上達は俺たちを見て驚いていたが何も見なかったように装って蛤御門を通り抜けようとしていた。
「待たれい。お主村上とお見受けいたすがこの門を何だと思って通り抜けようとしている?」
「なんぜよ。おんしはおらを誰だと思ってやがる」
村上は俺達に対して反抗的な態度を取ってきた。それと合ってると思っているだろうけどそれは土佐弁だからな。
「長州脱藩の村上であろう。抜け村上、天誅だ」
俺は村上に刀を抜くように促した。しかし、村上は刀を抜こうとしなかった。抜けないのか。いや刀持ってないのか。
「そちらが抜かないのなら、俺が抜こう」
俺は愛刀「虎徹」を抜いた。刀身は30cm、材質はプラスチック100%、サイドにカタカナで「コテツ」と書いている。幕末で維新獅子達を何人も葬った業物だ。俺はこれを田中文具店で購入した。
「今宵の虎徹は血に飢えておる」
俺は近藤勇のセリフをきっちりと決めて天然理心流の構えを取った。
「しかたがない。じゃー」
村上はそう言うと近くにあった木の枝を拾って強度を確かめてから、お付のものに荷物を預けて構えた。(見ただけでは何流か分からんな。要注意だ。)
「局長。気を付けてくださいね。相手は何をやってくるかわかりません」
土方君はアドバイスをくれた。
「局長。がむばれー」
沖田君はメールを打ちながらエールを送ってくれた。あいつはこれが終わったら査問会議にかける。
「いざ! てああああ」
俺は叫ぶと村上に切りかかった。村上は木の棒で俺の「コテツ」を受け止めた。
「村上なかなかやるではないか」
「おんしもな」
俺たちはぱっと離れると摺り足で間合いと取りながら相手の出方を待った。
ジャリ
ジャリ
地面の砂が鳴る音が辺りに響いた。周りの人間は固唾を呑んで見守っていた。沖田君は電話を始めていた。
「隙ありいいい!」
俺は村上の脇腹に一撃を食らわせようと「コテツ」を横に払った。
「見切ったぜよ。近藤おおお」
俺の「コテツ」は村上にスウェーで交わされ、俺は脳天に一撃を食らった。しかし、俺は殆どノーダメージだった。なぜなら鉢巻には鉄板が仕込んであったからだ。
「甘いな。村上いや高杉」
「次は逃がさんぜよ」
俺たちは再び摺り足で間合いを取って行った。しかし、思わぬ邪魔が入った。
「お前らあああ。何をやっとるかああ」
先生がこちらに向かってきたからだ。さすがの近藤もここでは一生徒でしかなかったので撤退することにした。
「撤退だ。」
見るとみんな早々に撤退していた。俺は一歩出遅れたようだった。しかも先生に捕まってこってり絞れてしまった。ちなみに蛤御門の看板も撤去されてしまった。数時間と持たず蛤御門は歴史の舞台から消えてしまった。
俺の傷が癒え始めた数日後、再び軍議のため隊士を結集させた。
今回は隊士全員が集まったようだった。金田君、岡崎君、肘痛明けの木村君も来てくれた。
「皆の者を集めたのは他でもない。我々新鮮組は村上を粛清することにした」
「!!」
一同はざわめいていた。「個人的な恨みじゃねえのか」と言う声が多く聞こえてきたが俺はスルーすることにした。(うるせえよ。そうだよ。個人的な恨みだよ)
「そこで今回の粛清のために参謀を迎えることになった。入れ。田代君」
教室のドアが開いて入って来たのはぐりぐり眼鏡で詰襟タイプの学ランの男だった。手にはノートを持っていた。彼はなぜかブレザーの高校なのに彼だけ詰襟タイプの学ランを好んで着ていた。そして彼も金田君ファミリーの一人ということだった。
「彼には伊東甲太郎役をやってもらうことになった。役割は作戦参謀だ。今回の粛清の作戦は彼
に立ててもらった。ちなみに彼は学年トップで模試では全国でベスト10に入る秀才だからな。では今回の作戦を説明してやってくれないか?」
彼は眼鏡を左手で持ち上げるとノートを開いて喋りだした。俺はその姿を見ていかにも「かあさん俺、東大の医学部に入ってかあさんのこと楽にしてやるからな」といいそうだったが言わなかった。(あたりまえだが)
「では説明させていただきます。今回の件については概ね局長の方から聞かせていただきました。私の方で3つの作戦を立てさせていただきましたので、好みの方法を選んでいただけますか?」
彼は3つの作戦を出した。
「では。ミスターハンサム岡崎。俺たちはこれからどうしたらいいと思うかね。下の選択肢から選んでくれたまえ」
俺は全てを沖田役の岡崎君に委ねることにした。
「って。また俺なの? あと俺のことハンサムとか呼ぶのやめてくんない? うわ。なんか選択肢出てきたじゃんか」
「全ては君に懸かっている。頼んだぞ! 一番隊隊長!」
「マジかよ。あー。わかった。そんじゃあなあ」
一番隊隊長は観念したらしくどうするか考え出した。
一、正面切っての対決(下段Aコースへ)
二、落とし穴(下段Bコースへ)
三、村上が大事にしている『高杉晋作の奇兵隊作り方―今日から始める大政奉還への道―』を盗む(下段Cコースへ)
○Aコース
「ここはやっぱり男らしく正面から対決するしかないっしょ」
岡崎君は力強く宣言した。
「よし。それでは正面から叩き潰すぞ。果たし状が必要になるな。伊東君ここは任せたぞ」
俺は果たし状の文面その他を伊東君に任せることにした。なんて便利なんだ。
「了解しました。お任せください」
そう言うと彼はどこからか習字道具を持ってきてすらすらと達筆で書き出した。
「できました。局長の性格と相手の村上さんの性格を分析いたしましてこの文面が一番いいと思いましたのでこの文面にしました」
そう言うと俺に紙を寄越した。それはこのような文面であった。
村上おめえよお。最近調子に乗ってんじゃねえの?俺が局中法度に則ってなあ。お前のこと粛清してやっから。ぜってえ来いよ。来ねえと。どうなるかわかってんだろうな。いいから来いよ。放課後だかんな
場所 学校裏門 日時放課後○時○分分 新鮮組 局長近藤勇
「……」
「なか……なか。いいじゃないか。さすが参謀伊東甲太郎君だ。私が見込んだけある。よし、これを送るぞ」
田代君の分析結果の詳細が気になったが俺は吹き矢で村上君に手紙を送ってやった。後は人事を尽くしたので天命を待つだけだった。
決戦当日の放課後
俺は全身白で村上を待ち構えていた。上は襦袢に下は袴、頭には誠の文字入りの鉢巻、腰には愛刀「コテツ」を提げて宿敵村上を待った。周りは副長金田君、一番隊隊長岡崎君、二番隊は欠番で三番隊隊長木村君、参謀の田代君は塾でお休みだった。
「やっと来たか」
村上がやってきた。彼は手にこの前の木の棒を持ち学校指定のブレザー姿だった。お付の者A、B、Cも着ていた。
「ゆうた通り来たぜよ」
村上君はそう言うとブレザーの上を脱いで放り投げて、Yシャツ姿になった。
「いざ尋常に勝負!」
俺は叫ぶと摺り足で村上の間合いを計った。村上も摺り足で俺の間合いを計っているようだった。何分か睨み合って周りの者がそろそろ飽き始めてきた頃、俺は攻撃を仕掛けることにした。
「食らえ! 天然理心流バックドロップ!」
俺は切りつけると見せかけて「コテツ」を捨てて、村上の背後に回りこみバックドロップを食らわせてやった。
「ぐはあ」
俺のバックドロップがきれいに決まって村上は撃沈した。「天然理心流にバックドロップはないろーう」とか言う声が聞こえたが無視した。勝てば官軍負ければ賊軍だ。
「粛清は完了した。では参るぞ」
俺は意気揚々と引き上げた。次は隊旗が欲しいなと思った。今度木村君に頼んで作ってもらおうと思った。その後先生に見つかって絞られたのは秘密だ。
○Bコース
「ここは意外性を狙って落とし穴で行くべ」
岡崎君は何弁か分からない言葉で言い出した。
「よし。それでは落とし穴で行こう。その前に村上を釣るための手紙が必要になるな。伊東君頼んだぞ」
俺は彼の頭脳に期待して任せることにした。彼はどこからか習字道具と巻物を持ってきて、硯を磨りながら考えて、すらすらと巻物に書いた。
「できました。村上さんを効率的に誘うために恋文という形にて誘うことにしました。それと村上さんの性格、趣味、属性などを分析いたしましてこの文面が一番いいと思いましたのでこの文面にしました」
そう言うと俺に紙を寄越した。それはこのような文面であった。
別にあんたなんか好きじゃないんだけど、友達がどうしても手紙送れって言うから仕方なく送ったんだけど、別に嫌だったら来なくていいんだからね。でも来てくれたらうれしいかも知れない。私、明日の放課後、学校の裏門の前で待ってるからm9(^Д^)プギャー
あなたをお慕いする○年○組お七より
「……」
「なか……なか。いいじゃねえか。さすが伊東甲太郎だ。私が見込んだだけある。これなら絶対
村上は引っかかるぞ。よしこれを下駄箱に入れるぞ」
俺たちは村上の下駄箱に手紙を入れて穴堀を始めることにした。
「よし。お前たち! 二度と現世に這い上がられないように深く掘れよ!」
「イエッサー!」
隊士の士気も上々だった。俺はそこであることに気付いた。
「ん。沖田君はどうした?」
「そういえばいませんね」
よく見ると沖田役の岡崎君がいないようだった。
ズガガガガ
どこからか地響きのような音がしたかと思うと沖田君がやってきた。後ろにはなんだかトラックなどが付いてきていた。
「沖田君。今まで何をしていた? それとそれは何だね?」
「ああ。これすか。これはですね。ボーリングとかいうやつです。ちょっと穴を掘るの面倒だったのでこれで掘ろうかと思いまして、これならマントルまで掘れますよ」
「そ……。そうか」
その後よく聞くと彼の父親は政治家でコネを使えばいろんなことができるということだった。彼は「親父に泣きつけば一発っすよ」などと言っていた。あいつ「ちゃらい」だけではなく、「ぼんぼん」でもあったのか。それとマントルまでは掘れないからな。
とにかく沖田君のお父上のお力により作業は驚くほど進んだ。
「これ深すぎないですか……」
副長は底の見えない穴を見ながら言った。
「これに蓋をすれば。はい! 終了―。シャアー!」
やけにテンションの高い沖田君が穴に蓋をしてその日の作業は終わった。これ落ちたらどうなるんでしょう。
次の日の放課後、一番背が低い副長が女装して後ろ向きになって穴の少し後ろに立って待っていた。俺たち他のメンバーは建物の影などに隠れて見守ることにした。
「きたぞ! 村上だ」
村上はのこのことやってきていた。あのエロ杉晋作め。まんまと引っかかりやがったな。エロ杉さんは待っている副長を見つけると駆け出した。
「お七さあんー。来ちょうよおお。ああ。ぐああああああああああああああああああ―省略―ああああ……」
村上は落とし穴に引っかかるとどこまでも落ちていった。しばらく叫びがこだましたが途中から聞こえなくなってしまった。
「村上。成仏しろよ。俺はお前のことは決して忘れない。これがお前に対するせめてもの手向けだ」
俺は用意していた。花を穴に投げ入れてやった。
「局長そろそろ」
「ああ。そうだな。これにて粛清終了だ。諸君解散だ。引き上げるぞ」
俺たちは次の戦いのため前へ進んだ。後、村上は噴出したお湯から出てきた。後世このお湯は温泉となり「村上温泉」として学校の名物となったというのはまた別の話である。
○Cコース
「やっぱり大事にしている物を盗むのが一番じゃないですかね」
村上は普通に言った。
「よし。それでは村上の大事にしている『高杉晋作の奇兵隊作り方―今日から始める大政奉還への道―』を盗むぞ。確かあの本は大事に村上がバックに入れて持っているらしいが伊東君いい考えはないか?」
俺は彼の頭脳に期待して任せることにした。彼は少し考えると、どこからか習字道具を持ってきてこう言った。
「簡単ですよ。村上さんとバックを引き剥がせばいいだけです。そのために岡崎さんには少し犠牲になっていただきます」
そう言うと達筆ですらすらと何かを書き出した。
「伊東君。それは何を書いているんだね?」
俺は何をしているのか分からなかったので聞いてみた。
「この手紙を使って大事な本が入ったバックを置いてくるように仕向けるのです。村上さんの性格、趣味、属性などを分析した文面です。これなら必ず成功します」
そう言うと俺に紙を寄越した。それはこのような文面であった。
村上! 俺はお前を一目見たときからお前のことが気になって仕方がなかった。明日の放課後、学校の裏庭に来て欲しい。それと俺はお前にバックをプレゼントしたい。頼むからお前の持っているバックは置いてきてくれ。これはお願いではなく命令だからな。そこの所は間違えないように。いいな絶対に来いよ。
愛は性別をも超える 岡崎勇一
「……」
「なか……なか。いいじゃねえか。さすが伊東甲太郎だ。私が見込んだだけある。BLとは恐れ入った。これなら絶対村上は引っかかるぞ。よしこれを下駄箱に入れるぞ」
俺たちは村上の下駄箱に手紙を入れた。村上があんな趣味があったのは知らなかった。岡崎はブルブルと震えて、俺は絶対にやんないからなと駄々を捏ねていた。見かねて副長が岡崎を別室に連れて行った。帰ってきたら岡崎は「やらさせていただきます」と涙目になりながら言った。これで全ての舞台は整った。あとは明日を待つだけだ。
次の日の放課後、岡崎は震えながら村上を待っていた。あれが噂の武者ぶるいというやつなのか。俺たちは建物の影から様子を見ていた。
「来たぞ! 村上だ」
村上は顔に苦悶の表情を浮かべながらやってきた。律儀なやつめ。しかし、村上はバックを持っていた。
「村上! お前、バックは持って来るなと書いてあっただろう。なぜ持って来やがった!」
岡崎君はのっけからエンジン全開で攻めた。
「あしはおまさんからバックをもらう理由もないからバックを持って来たんぜよ。ほれと無視するがもかわいそうやき来てあげたんぜよ。それでも感謝して欲しいくらいぜよ。ああ。気持ちわりぃ」
村上は腕を抱えて震えているような仕草を取った。岡崎君はそれで完全に切れしまったようで、村上に鉄拳を食らわせていた。
「ふざけるなよ! きもいのはお前だろうが。この歴史オタク野郎が!」
「うふうう」
村上は吹っ飛んだ。そこで岡崎君は村上のバックから『高杉晋作の奇兵隊作り方―今日から始める大政奉還への道―』を取り出した。
「こんなものはこうだあああ!」
岡崎君は村上君の本をびりびりと破いた。本を破いている人なんてテレビでしか見たことなかったので俺はものすごく興奮した。村上を見ると落ち込んでいるのかと思ったが不敵に笑っていた。
「それで勝ったつもりながか。岡崎!」
「なんだと。この野郎。どういうことだ」
村上はそう言うと懐から本を取り出した。それは先ほど破いたはずの『高杉晋作の奇兵隊作り方―今日から始める大政奉還への道―』だった。
「なんで……それがもう一冊ある」
「さっき破ったが布教用で今持っちゅうのが観賞用だあ!。それとおらにゃ男色の気など一切な
いぜよ。あるのはツンデレ属性と妹属性だ。新鮮組敗れたりい。」
岡崎はショックで膝を付いて呆然としていた。後には村上の高笑いだけがこだましていた。
「な。なんだと分析ミスか。伊東君これはどういうことだ?」
「僕これから塾に行かないと行けなかったんだ。じゃあねえ」
伊東君は一目散に逃げるように塾に向かった。
「副長。伊東君には明日腹を切ってもらうことにする」
「承知いたしました。では介錯は私が」
伊藤君は二度も腹を切る羽目になったのだった。歴史は繰り返す。誰も望まないとしても。
ご拝読ありがとうございました。こんな形で司馬遼太郎を読んだのが役に立つとは思いませんでした。最後まで読んでいただけた方どうもありがとうございました。
次回はアクセス数1000行きましたら投稿しようかと思います。4月15日現在で82アクセスです。1000アクセス行く日を夢見てネタを練ることにいたします。
なにとぞよろしくお願いいたします。