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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

モノクロ探偵

そこにあるはずのもの

作者: 真波馨

この作品は現代の東京を舞台にしたフィクションであり、作中に登場する人物名、建物名(駅名、警察署名を除く)は架空のものであることをご承知おきください。

※作者は東京住まいではないため、万一地名、駅名等に誤りを発見されましたらご指摘ください。

1


 千代田区内神田に店を構える「カフェ・エリーゼ」2階の一室。窓から燦々と差し込む日光は11月も半ばを過ぎたとは思えぬほど暖かく、私は睡魔に抗うどころかすっかり身を預けていた。テーブルの上に置いていた携帯電話が、非情な着信音で夢見心地を打ち破るまでは。

「新橋駅近くのビルで遺体が見つかった。明らかな他殺体だ。お前も来い」

 挨拶も抜きに、物騒な用件を淡々とした声で告げられた。半覚醒状態のまま、「新橋駅」「ビル」「他殺体」というキーワードを口の中で繰り返す。

「お前、今起きただろ。エリーゼの自室で惰眠を貪っていたんじゃねえのか」

 電話口の向こうで呆れ交じりの溜息。通話の相手は、ここ数ヶ月の間に知り合った私立探偵の黒瀬真実だ。真実と書いて「しんじつ」と読む。「まこと」ではない。ちなみに私は白浪理というフルネームで、理と書いて「ことわり」と読む。本業は売れない推理作家だが、白浪理はペンネームではなく本名だ。

「明らかな他殺体って言ったけど、どんな様子なの」

「来て見りゃ判るさ。現実じゃ滅多にお目にかかれない仏さんだぜ」

 多摩川でタマちゃんを見かけたから来ないか、みたいなノリで殺人事件の捜査に駆り出されては困るのだが……などと考えていると、

「住所はメールする」

 一方的に通話を切られてしまった。締め切りの迫った仕事があるわけではないし、黒瀬の独裁支配ぶりはいつものことだ。だが、小春日和のぽかぽかと心地よい日に人間の死体など見たくない。ぐずぐずとテーブルにしがみついていると、携帯電話が震えた。独裁者からの出陣命令だ。

 新橋2丁目、三善(みよし)ビル4階、首無し死体

 末尾の文字を目にした瞬間、心臓がドクリと脈打つ音を聞いた。



 新橋駅から徒歩5分強。三善ビルは大通りから路地にちょっと入り込んだ場所に建っていた。表に出ている看板によると、1階、4階、6階がテナント募集中のようだ。階段で4階までたどり着くと、黄色のテープを張った部屋が目に留まる。

「……それで、ご家族にな……ああ、気が重いだろうが、よろしく頼む」

 テープの下を潜りながら部屋から男が出てきた。卵のような丸々とした体躯で、頭もゆで卵のようにつるりと禿げあがっている。スーツを身にまとった卵男は、私に気付くと小さく右手を挙げた。

「これはこれは、白浪先生。ご足労をおかけします」

「桃川警部こそ、ご苦労様です」

 警視庁捜査一課に所属する桃川警部は、私に向かって右手で手招きをし、スマホを持ったままの左手で今しがた出てきた方向を指す。首無し死体が置き去りにされた場所、という恐ろしい字面に反して、小奇麗に掃除された部屋だったことに思わず拍子抜けした。天井の真新しい蛍光灯が明々と室内を照らしている。デスクや棚といった一切の備品がなく殺風景なきらいはあるが、埃臭くもなければ蜘蛛の巣やネズミの姿も見当たらない。

 そんな伽藍洞な空間の中で異様な存在感を放っているのが、部屋の中央に横たわった人間の死体。遠目でもすぐに判別できる。その死体には首がなかった。

「白浪先生の小説じゃ、首無し死体はよく出てくるのでしょう。実は自分も、現実で対面したのは初めてだったり」

 桃川警部が、奥様の世間話みたいな調子で話しかけてきた。肌艶の良い丸顔には、死体のある現場に不釣り合いな微笑みさえ浮かんでいる。

「いえ、僕も小説の中で首無し死体を扱うことはほとんどないですよ。今までの作品だって一度しかない」

「ほう。参考程度までに、どのような作品か拝聴したいですな」

「たしか……犯人は芸術家崩れの男でした。そして被害者もやはり芸術家なのですが、犯人とは違い世間に広く名の知られている画家でして。彫刻家の犯人は、被害者の首を持ち去ることで『自分の最後の芸術作品を完成させた』というメッセージを残したんです。まあ、単に自己顕示欲の強い犯人だったという面白みもない結末ですよ」

 本当は加害者の過去にも仄暗いものがあり、凶行に至るまでの複雑な心の葛藤を丁寧に描いた――本人はそのつもりだ――作品なのだが、話し出すと長いので割愛する。

「なるほど、自己顕示欲の強い犯人ねえ」

「桃川警部。犯人像の分析よりも、まずは現状報告を彼に」

 部屋の中を行来していた男が、警部にびしりと言い放つ。すらりとした痩身に黒い薄手のコートをまとい、中世ヨーロッパの音楽家みたいな巻き毛がトレードマーク。高く通った鼻筋に彫りの深い横顔も西洋人めいており、欧州から日本に留学している社会人学生、と偽っても通用しそうな容貌。この男こそ、私立探偵の黒瀬真実その人である。ちなみに東京生まれの純日本人だ。

 一回り以上も年下、しかも民間人の不躾な態度にも、ハンプティダンプティ似の男はどこ吹く風といった様子でスーツの内ポケットから手帳を取り出す。

「遺留品から免許証と名刺が見つかっています。それによりますと、被害者は近藤集(こんどうあつむ)、38歳。台東区東上野4丁目で『ノンバーバル』というカフェを経営。職場付近でマンションを借りているようです」

 被害者のプロフィールに、私は首を捻る。「上野に住む被害者が、新橋で殺されたのですか」

「ここで殺されたとは限らないだろ」

 黒瀬がにべもなく言ってのける。

「別の場所で殺害して、ここに運び込んだのか。でも」

 足元の遺体を瞬時見下ろして、すぐ顔をそむける。頭部がすっぱりと斬られた、人間の死体。拙作でも一度ながら登場させたし、他作品では何度もお目にかかったことのある場面だ。だが、想像上の首無し死体と現実のそれとでは、グロテスクの度合いは比較にならない。頭があったはずの空間に乾ききった血溜まりが歪んだ円状に広がっているのを目の端に捉えたが、それ以上は正視に耐えなかった。

「でも……じゃあ、犯人はどこで首を切断したんだろう。血溜まりを見る限りここで作業した可能性が高いように思えるけど」

「緑川さん。この小説家坊ちゃんのために遺体の状態をもう一度ご説明ください」

 医師と話し込んでいた人物が、黒瀬を振り返る。目深に被った帽子の下から縁なし眼鏡がのぞいた。

「おや、白浪くん。首無し死体の見物か。きみも物好きだね」

「緑川検視官、勘違いされるようなこと言わないでください」

 警視庁鑑識課の熟練検視官は、喉の奥で小さく笑うとダンディな渋い声で検視結果を教えてくれた。

「死亡推定時刻は昨夜の6時から10時の間。遺体の首はきれいさっぱりなくなっているが、頸部には索条痕が残っていた」

「首がないのに、索条痕が見つかったんですか」

「正確に言えば、頭部切断。顎の下ぎりぎりの部分で切断していて頸部は胴体にくっついたままだったのさ。索条痕から見るに、細い紐状のもので締め上げられたんだろう。首の骨が折れていたからおそらく絞殺だろうが、顔が見られないから断定はできんな。頭部に一撃を食らわせた後、死因をカムフラージュするためにつけたのかもしれない。頸部以外に目立った外傷はなし。遺体の状態から、死後すぐに頭部を切断したと見ていいだろう。また、死斑の具合から遺体は死後動かされたと想定できる。つまり、ここでない別の場所で斬首してから遺体を移動させた」

 こめかみをペン先で掻いて、緑川検視官は言葉を切る。

「床にはかなりの量の血痕が溜まっていますが、これはどう説明すれば」

「犯人の偽装工作って線があるだろ。遺体をここに運び込んで、さもこの場で切断したかのように被害者の血液を床にぶちまける」

 私のポンコツな疑問に、黒瀬が鼻で笑って答える。検視結果を理解した私は、引き続き桃川警部から現状で判明している事実を口述してもらった。

「この部屋を含めて鑑識がビル内の空き室すべてをルミノール検査しましたが、強い反応が出た部屋はありませんでした。やはり被害者は、このビルの外で殺されたと見ていいでしょう」

「遺留品に免許証があったとのことですが、被害者は車を所有していたのですか」

「ええ。ただ、遺体発見時は上野の自宅にあったことが判っています」

「ということは、少なくとも殺害現場に自分の車で向かったわけではないのですね」

「そういうことになりますね。遺体の第一発見者についてですが、このビルの管理人をしている三善功(みよしいさお)という男性です。三善氏によると、もともとこの部屋は空き物件だったが新しく事務所が入るためここ数日は定期的に出入りしていたようです。遺体を発見し、死亡しているのは明白だったので即警察に通報。通信指令本部に110番が入ったのは11時17分です」

 首を斬られて生きている人間などいれば、それはもう人間ではない。

「遺体は財布を所持していました。免許証のほか、現金およそ5万円とクレジットカードも手付かずのまま。自宅のものと思われる鍵も財布から見つかっています。ただし、スマートフォンや携帯電話の類はなし。犯人が持ち去った可能性が高いですな」

「現金やクレジットカードが無事なら、もの盗りの可能性は低い。免許証が残ったままということは、遺体の身元を隠すために頭部を持ち去ったたわけでもない」

「仰るとおりです」

「遺体の頭部は、まだ見つかっていないのですよね」

「ええ。わざわざ切断したのにそこらに転がしておかないでしょうから」

 犯人は、まだ頭部を手元に置いているのだろうか。あるいは、頭部自体に用はなく切断することのみが目的であれば、すでに処分しているかもしれない。いずれにせよ残酷極まりない行為だ。

「頭部がないとなると、遺体の身元確認も辛いでしょうね」

 身近な人間の首無し死体を見たときの心情たるや、想像を絶する。他人事ながら気が滅入りそうだ。然しもの警部も真顔になり、

「自分も、刑事人生の中で数え切れんほどの遺体を見てきましたがね。初見はさすがにショッキングでした。まるでスプラッタ映画のワンシーンを観ているみたいで、現実味がなくて。近親者ともなれば尚更でしょう。お気持ちお察しします、なんて軽々しく言えませんわ」

「桃川警部。説明は終わりましたか」

 淀んだ空気を払うように、黒瀬のしゃきりとした声が室内に響き渡った。床にしゃがんで近藤集と思われる遺体をまじまじと見分している。大した度胸だ。並外れた鋼のメンタルの持ち主に違いない。

「ええ、一通り。先ほど青山から、近藤集の両親と連絡が取れたと報告がありました。これから遺体を運び出し、自分はご両親とともに身元確認に立ち会ってきます。おふたりはどうされますか」

「遺体の第一発見者への聴取は」背中を向けたままの黒瀬に「青山を呼び戻します」とハンプティダンプティ警部。針金がスーツを着込んだような外見の男を思い出し、独りにやけそうになる。桃川警部と並ぶと漫才コンビにしか見えない体型差から、警視庁内では名物の凸凹コンビだと小耳に挟んでいた。

「では、青山さんに同行して話を聞きます。お前もだぞ」

 有無を言わせぬ物言いに、頷く以外の選択肢はなかった。



「たまったもんじゃないですよ。首無し死体なんてねえ」

 三善功は、遺体発見時の驚きを強調するかのように、両の目をぎょろりと剥く。青山警部補は手帳にペンを走らせながら、

「遺体が見つかった部屋には、新しく事務所が入るとのことでしたが」

「もちろん、今となってはそれどころじゃありません。まったくはた迷惑なものです。これじゃ空き部屋荒らしの被害に遭ったほうがまだマシだ」

 憤慨する第一発見者に、フレームの細い眼鏡をかけた警部補は微塵の同情も感じられない声で「どのような事務所が入る予定だったのですか」

「株式会社オールウェイズという、インターネット関連の会社です。本社は東北にあるらしく、東京に初めてできたオフィスだと聞きました」

「テナント契約を行ったのは、株式会社オールウェイズの責任者ですか」

「そうですよ。タブチヤスオさんという男性です」

 三善氏に教えられ、手帳に「田渕保夫」と書き込む青山警部補。その背後から黒瀬が聴取に割り込む。

「今朝、遺体のあった部屋を訪れた理由は何でしょう」

「今週にはオールウェイズの事務所が入る予定でしたので、先週から日を分けて掃除や点検をしておったんです」

 後頭部に生えた白髪を梳きながら、初老の管理人は素直に受け答えする。

「ビルの鍵は、あなたが管理を?」

「合鍵も含めて、私がまとめて管理しております。もちろん、事務所が入っている部屋については借主にも鍵をお渡ししていますが」

「遺体を見つけたとき、部屋の鍵は施錠されていましたか」

 黒瀬をちらと振り向き、思い切り顔をしかめる青山警部補。「聴取の邪魔をするな」とその目が強く訴えていたが、当人は知らんぷりを決め込んでいる。

「いえ、鍵は壊されていましたよ。廊下に消火器が転がっていて、多分それで叩き壊したんではないですかね。おかしいなあと思って部屋を覗いてみたら、あの有様ですわ」

「ふむ……ところで、このビルはどの階にどんな事務所が入っているのですか」

「1階と6階は完全に空いていますが、2階、3階、5階にはちらほら事務所が入っています。たしか、2階は法律事務所、3階はマッサージサロン、5階は金融機関の子会社だったと記憶しています」

 警部補の右手が物凄いスピードでペンを動かしている。肩越しに覗き込むと、教科書の楷書みたいな美しい字が羅列していて我が目を疑った。

「先ほど、部屋荒らしの話をされましたが、よくあることなんですか」

「いや、たまにですがね。最近だと、2ヶ月くらい前だったかな。1階の部屋がやられましてね。鍵も窓も派手に破壊されて」

 そのときの空き部屋荒らしの犯人は、酒に酔った大学生だったとか。

「1階と6階には、新規で事務所が入る予定はあるのですか」僭越ながら私も口を挟ませてもらう。

「いいえ。新規の契約者は、直近だと田渕さんだけですよ」

「今日を含めて、最近このあたりで不審な人物や車を見たことはないですか」

 ここで訊き手は警部補に戻る。

「さあねえ。私も、四六時中このビルを監視しているわけじゃないですから」

「そうですか。では、こちらの人物に見覚えはありますか」

 手帳に挟めていた写真を差し出す。黒髪を肩まで伸ばし、無造作にくくったヘアスタイルの男が正面を向いていた。目、鼻、口すべてのパーツが大きく、全体的に主張が激しい。顔の輪郭はベース型で、首もがっちり太くいかにも男らしい容貌である。日焼けした肌はサーファーを連想させるが、南国でカフェやレストランを経営していると言われても納得できそうだ。

「さあ、見かけない顔ですね。この方が、あの首無し死体の?」

「まだ断定はできませんが」

 慎重な返答だ。三善氏は「はあ、それはそれは」と写真に憐れみの視線を投げる。最後に警視庁の名刺を渡した青山警部補は、「また何か思い出したことがありましたら、ご連絡ください」と丁重に頭を下げた。



「犯人は、なぜ事務所が入る予定の4階に遺体を運び入れたのでしょうか。事務所が入ることを知らなかったんですかね」

 青山警部補に尋ねたつもりだが、返事をしたのは黒瀬だった。

「遺体を運び込んだのが突発的なことだったとすれば、事務所が入ることを知らなかったとしても自然だろう。逆に、三善ビルに遺体を遺棄することまで計画に含めた犯行だとすると、うっかり失念していたかあるいは」

「遺体を発見してもらうことも、計算済みだった……ということか。遺体発見を遅らせるつもりなら、最上階の6階に運んだはずだもんね。いくら空き部屋しかないとはいえ、1階は人目につきそうだし」

 運転席の青山警部補が、バックミラー越しに私を一瞥する。

「三善ビルにはエレベーターが設置されていますが、事件当時は故障中で使えない状態でした。1階では遺体がすぐ発見されかねないと危惧し6階まで運ぼうとしたが、エレベーターが動かないことを知り自力で運べる限界の4階を遺体遺棄の場所に選んだ。そういう見方もできます」

 筋の通る理論だ。いくら頭部がないといえ、人間ひとり、しかも成人男性を抱えて6階まで階段を上るのはかなりの重労働である。4階で力尽きたとしても不自然ではない。

「三善ビルは大通りから細い路地に入った場所にある。土地勘のない者が遺体を遺棄する場所としては、相応しいとは思えない」黒瀬が独り言つ。警部補の視線が私から助手席へとスライドした。

「新橋付近に土地勘のある者の犯行、とおっしゃりたいのですか」

「あくまで可能性の話です。ところで、現場付近での聞き込みは順調ですか」

「今のところ、成果は芳しくありません。路地を抜ければ大通りですから、ある程度の時間帯までは人気もありますが。遺体を遺棄した時間が深夜遅くだとすると、有力な目撃証言は期待薄ですね」

 私は運転席と助手席の間から顔を突き出すと、

「桃川警部によると、現場からも犯人につながる物証は見つからなかったそうですし、かなり警戒していたのでしょう」

「だが、死後にわざわざ頭部を切断し、運び込んだ先では犯行現場に見せかけるための細工まで施した。どこぞの大学生のような部屋荒らし犯がビルに侵入するかもしれない、というリスクを背負いながら」中世の音楽家のような巻き毛を掻き回す黒瀬。

「犯人は、なぜ手間を増やしてまであの場所で切断したように見せかけたんだろう」

「その点に関しては、さほど難しく考える必要もないのでは」

 針金警部補が冷めた声で割って入る。

「要するに、アリバイ工作でしょう。被害者の死亡推定時刻は昨夜の6時から10時の間。もし、犯行現場が三善ビルだと警察が誤認すれば、その時間三善ビルにいなければ容疑者圏外に出られます。たとえば、上野で昨夜の6時に被害者を殺害した後、すぐアリバイを確保する。そして10時を過ぎてから新橋へと遺体を遺棄しに行く。こうすれば、昨夜の6時から10時の間に新橋にいなかった、という確実なアリバイを生み出せるわけです」

「なるほど! さすが青山警部補」

「さしもの現役推理作家も、現役の刑事さんにはかなわないってか」

 助手席の男は皮肉を垂らしたが、慣れっこなので華麗に黙殺する。

「警視庁を舐めてもらっては困りますから……あ、ここですね」

 警部補は右手で窓をコツコツと叩いた。イタリア街からほど近くにあるマンション、その一室に田渕保夫は居住している。最寄り駅は汐留なので、被害者が暮らす上野とは逆方向だ。仮に、田渕犯人説を採用するならば、上野まで足を運ぶよりも汐留に呼び出して殺害し三善ビルに遺体を運ぶほうが効率的だな、と邪推する。

「スカイライン汐留」の7階、702号室を訪問する。田渕はIT会社の社長らしく、薄手のタートルネックセーターにダメージジーンズというラフな服装が様になる男だった。黒髪のソバージュヘアにべっ甲フレームの眼鏡をかけ、顎髭を生やしているが不潔な印象はない。

「散々ですよ。折角いい立地の物件を見つけたかと思えば、死体が捨ててあったなんて」

 男4人を詰め込んでもなお、部屋は広々として開放感があった。リビング兼ダイニングはベージュを基調とし、調度品はネイビーで統一されている。まるでマンションカタログの見本みたいだ。

「三善ビルと契約されたのは、いつ頃でしょうか」

 田渕の隣に腰を落ち着かせた青山警部補は、早速手帳とペンを準備する。

「物件自体を見つけたのは3ヶ月ほど前で、正式に契約したのは2ヶ月前です」

「三善ビルにあなたの会社が入ることを、外部の者に話したことは」

「ないですね。親しい友人には、新橋にオフィスを構えることになったとは報告しましたけど、ビル名までは特定していない」

「そうですか。では、こちらの男性に見覚えはありますか」

 手渡された近藤集の写真に、じっと視線を注ぐ。

「いえ……知らないですね。この人が何か」

「まだ断定はできませんが、事件に関与している可能性があります」

「犯人、ということですか」田渕は両目を微かに見開く。警部補は眼鏡をくいと持ち上げて「そうとも限りません」

 首無し死体となった被害者であることは、まだ伏せておくらしい。私も黒瀬も、無言で2人のやりとりを見守る。

「もったいぶりますね。ところで、こういう場合ってあれですよね。アリバイってやつを訊かれるんでしょう」

「大小なりとも事件に関わった方には、形式的にお尋ねしています。ご協力いただけますか」

「もちろん。後ろめたいことなんて何もありませんから」

「では、昨夜の午後6時から10時の間、どこで何をしていましたか」

「昨日の6時から8時までは、知人と汐留駅近くの飲み屋にいました。8時すぎには店を出て、東新橋にあるホテル内のバーで飲みなおして……それから帰宅しました。ここに着いたのは、正確には覚えていませんが、たしか10時前だったかな」

「東新橋のバーでは、誰かと一緒でしたか」

「いや、ひとりです。でも店員に顔見知りがいるから、そいつが俺のアリバイを立証してくれるんじゃないかな。店名と場所、教えますね」

 汐留と東新橋の店情報を、手近にあったメモ帳に走り書きする。警部補は小さく会釈してそれを受け取った。

「三善ビルには、ここ最近定期的に出入りしているのですか」

「定期的といっても、このひと月で3、4回くらいです」

「三善ビル付近を訪れた際、怪しい人物を目撃しませんでしたか」

「さあ。周りを歩いている人たちをいちいち観察なんてしませんから」

「それもそうですね……最後にもうひとつ。田渕さんは、上野方面へ出かけることはありますか」

「上野? 距離があるから頻繁には行きませんが、たまに美術館や博物館を覗き見るくらいです」

「上野へ繰り出したときは、やはり近辺でランチやディナーをすることもあるのでしょうね」

「暇があれば」

「ノンバーバル、というカフェに入店されたことは?」

 田渕はきょとんとした顔で敏腕警部補を眺める。

「さあ、記憶にないですが。そのカフェがどうかしたのですか」

「実は、友人から頼まれていまして。今度上野でランチをするからおすすめの店を教えてほしい、と」

 なかなか達者な演技である。カフェノンバーバルは、近藤集がシェフを務めていた店だ。店名にどのような反応を示すか試しているのだろう。

「そういうことですか。俺の活動範囲は汐留近辺なので、上野は専門外だ」

「それは残念……おふたりから、何か質問は」

 とってつけたようにバトンパスされ私はまごつくが、黒瀬は間髪入れずこんな問いを投げた。

「田渕さんは、旅行はお好きですか」

「は?」

 事件とはおよそ無関係な珍問に、田渕は困惑しているようだ。私も訳が分からず、条件反射的に首を横に向ける。

「旅行、ですか。大学生時代は、国内を一人旅したこともありましたが」

「最近は、プライベートでどこか遠出をしましたか」

「半年ほど前に、大学時代の同朋と1週間かけて北海道へ」

「それは素敵ですね」

「あの、それが事件と何か関係するのでしょうか」

「いえいえ。実は、私も近々バカンスに出かけたいと考えておりまして。ただ、今まで長期旅行の経験がなくスーツケースを持っていないんです。1週間以上の長旅を予定しているので、さすがにボストンバックだと心許なくて。そこで、スーツケース選びのポイントを手あたり次第聞き込んでいるわけです」

「そうですか」若社長は脱力したように肩を落とす。「まあ、基準は人それぞれでしょうが、重さを気にしないのであればハードケースをおすすめしますよ。防水性、強度ともにソフトケースより断然優れていますし、多少雑に扱っても故障しにくいですからね。あとは、収納スペースや荷物の出し入れのしやすさなんかも見ておくべきでしょう。男性は女性と違って大した量もないでしょうが、土産物とか、旅先では何かと荷物が増えますから。備えあれば憂いなし、というやつです」

「なるほど。大変参考になりました。どうもありがとうごさいます」

 満足そうな笑みを湛えながら、黒瀬は丁寧に礼を述べた。



*



2


 事件当夜の田渕のアリバイを確認後、青山警部補は捜査本部が設置されている愛宕警察署に向かうとのことだった。黒瀬は「もう一度遺体発見現場を見たい」と希望したので、警部補の運転で三善ビルまで戻ってもらう。

「刑事は現場百遍というものな。何か目ぼしいものがあるといいけど」

 ビルの玄関に立つ青年警官に目で挨拶を交わし、階段を上る。普段から出不精でデスクワーク中心の私は、たった3階分の上り下りすら軽く息切れしてしまう。

「希望的観測をしてんじゃねえよ。目ぼしいものは自分で見つけるのさ」

 吐き捨てるように言う黒瀬に、だが私は「そうだね」と楽観的に返すこともできなかった。このビルはあくまで遺体を遺棄した場所であって、殺人現場ではない。桃川警部によると、遺体があった部屋からは複数人の毛髪を採取したとのことだが、三善氏や田渕のみならず不法侵入者のものも紛れている可能性は十分にある。採取した毛髪から犯人を特定、なんて都合良く事が運ぶはずもない。凶器も、犯人のものと思しき足跡も発見できていないし、三善氏が定期的に掃除をしているため指紋も数人分しか検出されなかった。犯人が親切心で証拠を落としていない限り、骨折り損のくたびれ儲けにしかならないのではないか。

 前方を進む黒コートの背中を見ながら、ぼんやり考える。事件の捜査に限らず、日頃からネガティブな思考に引っ張られがちな私と比べて、黒瀬は何につけても粘り強い性分だ。もし私と黒瀬が女に生まれていれば、私はお城の中で白馬の王子の迎えを永遠に待ち続けるお姫様、黒瀬は自分から城を飛び出して憧れの王子を探し求めるアクティブな姫君タイプに分類されるだろう。

「犯人は、どうやって4階まで遺体を運び込んだんだろうな」

 遺棄現場に舞い戻った黒瀬は、窓から子どものように身を乗り出す。

「スーツケースに入れて運んだのかもしれないけど、ビルに入ってからは直接担いだほうが軽くなるだろうね。スーツケース分の重量は減るわけだし……あっ」

「何だよ」

「さっきの、田渕さんへの質問。あれは、田渕さんがスーツケースを持っているかを探るために」

「今更かよ」探偵はふんと鼻を鳴らす。青山警部補から質疑のバトンを渡されたあの一瞬で、スーツケースに思考が行き着くとは。空想で殺人物語を書いている私とは、やはり頭の回転具合が違う。

「だが、空き部屋荒らしが横行している事実を知っていれば、遺体を直接抱えて運ぶなんて危ない橋を渡ろうとはしないはずだ」

「それもそうだね。そもそもさ、犯人がここに遺体を遺棄したのは、青山警部補が言ったようにアリバイ工作として計画に組み込んでいたのかな」

「計画殺人であれば、な。三善ビル付近で被害者を殺害し首を切断した後、たまたま見つけたここに遺体を隠そうとしただけとも考えられる。表にはテナント募集の看板が出ていたから、ビル内に空き部屋があることはすぐピンときただろうし」

「この近辺を捜索すれば、殺害現場を見つけられる可能性もあるってこと?」

「あまり期待するんじゃねえよ。ここらの住民をひとりずつ家庭訪問して、お宅の家は殺人現場ですかって尋ねるつもりか」

 世にも恐ろしい家庭訪問である。

「話を戻すけど、黒瀬は田渕さんを怪しんでいるの」

「さあ。ただ、大雑把な仮説ならある」

 コートを脱ぎ、それを乱暴に私へ押し付けると黒瀬は床にへばりつくように伏せの体勢になる。どんな小さな証拠も見逃さないという執念深さを感じさせた。

「田渕が被害者をここに運び込んだ犯人と仮定しよう。被害者を殺した人物と、被害者の首を切断した人物、そして被害者をここに運んだ人物が同一犯かどうかは一旦保留にするぞ。さて、田渕が遺体を遺棄しようと考えたとき、どんな場所を思い浮かべるか」

「被害者の死亡推定時刻は、遅くとも昨夜の10時。遺体が見つかったのは今朝の11時。日が昇ってから遺体を遺棄したとは考えにくいから、田渕が遺体をここへ運んだのは昨夜の10時から日を跨いで今日の明け方にかけて。持ち時間にそこまでの余裕はないから、遠く離れた山林や山中に遺棄するのは難しい。となると、必然的に遺棄先は都内に限定される」

「妥当な推論だ」地べたを這ったまま、黒瀬は同意を示す。私はコートを携えたまま無意味に室内をうろうろしながら、

「田渕の行動範囲は汐留近辺だと話していた。ということは、せいぜい港区内が彼にとって土地勘のあるエリアになるだろうね。つまり」私は黒瀬の真正面でぴたりと足を止めた。

「田渕にとって最も馴染みのある場所……えっ、ここ?」

「自問自答だな」足元から忍び笑いが聞こえてくる。

「でも、まさか自分の事務所が入る場所に遺体を隠すなんて」

「一般的な思考の持ち主なら、そう考えるだろうさ。意表を突いてここを選んだのかもしれない」

「でも、部屋の鍵は壊されていたんだよ」

「外部の人間の仕業に見せかけるため、わざと破壊したのさ。この部屋であれば、仮に自分の毛髪や指紋が検出されてもおかしくない。定期的にここを出入りしているんだからな」

 首無し死体が仰臥していた位置には、人型を象ったテープが張られていた。そこを用心深く避けながら、黒瀬は床を這いまわる。その姿は、『屋根裏の散歩者』に出てくる主人公が、隣人の秘密を盗み見ようと天井裏を徘徊しているシーンを連想させた。

「田渕さんと近藤さんとの間に、何か秘密の繋がりがあるのだろうか」

「どうだろうな。ま、一課も念を入れて軽く探りを入れるくらいはするだろう。そこから思いもがけない事実が明らかになれば、机上の空論も真実味を帯びてくる。ところで」

 不意に動きを止めると、伏せた姿勢のまま上目遣いに私を見やる。

「この件に関してお前がやるべきことは、なぜ犯人は被害者の頭部を切断したのか、その動機を見つけ出すことだ。アリバイトリックや証拠集めは俺に任せとけばいいんだよ。俺は、犯罪者の動機なんてものには露ほども興味がない。だが、頭部切断の動機が不明瞭なままだと捜査も進めづらいだろう。そこで、お前の出番だ」

「僕は、動機固めの要員ってことか」

「そういうことだ」

 いいように振り回されている気もするが、黒瀬の調査に一度引きずり込まれてしまうと事件を解決する前に抜け出すことは限りなく不可能。黒瀬と関わり合ったこの半年間で私が学んだのは、「諦めが肝心」という教訓だ。

 事件が発覚してから、まだ半日も経ってない。だが、黒瀬は早くも田渕犯人説についてひとつの仮説を立てた。このあたりで推理作家としての意地を見せなければ――そんな危険な思想に、私はすでに陥っていたのである。



 結局、「お前が歩き回っていると証拠が消えるかもしれない」と黒瀬から部屋を追い出されてしまった。コートを手にしたままビルを辞去したので、携帯電話で「事務所にて待つ。コートも預かっている」とだけメールを送ると、新橋駅に滑り込み神田を目指す。鍛冶町に拠点を置く「黒瀬探偵事務所」に到着したときには時計は午後4時半を回っていた。

 部屋の灯りを付け、隅に追いやられているハンガーラックに黒瀬のコートを掛ける。デスクの上は綺麗に整頓されている代わりに、来客用のガラステーブルにはトランプが無造作に広げられていた。どうやら、今日は暇を持て余していたようだ。桃川警部からの捜査協力要請は、さぞや嬉しいお誘いだったろう。鼻息荒くコートを掴み取って部屋を出る姿が容易くイメージできた。

 パーティションを脇にどけて、キッチンルームへと移動する。冷蔵庫に放り込まれた余り物をざっと確認し、「よし、今日はオムライスだ」と献立を決定。黒瀬は大のオムライス好きだ。材料があればクリームソースオムライスを作るのだが、生憎今はトマトケチャップしか持ち合わせていない。壁に掛かった時計をちらと見て、5時を回ってからゆっくり調理を始めることにした。

 来客用のソファに体を沈め、考え事に耽る。もちろん、件の首無し死体に関する推理を巡らせるのだ。

 推理小説のセオリーとして、犯人が遺体の首を切断し持ち去る理由はいくつか列挙できる。まず、死因を特定しづらくするため。撲殺ならば頭部に必ず殴打痕が残るため、頭部を切断することで死因を隠蔽できる。緑川検視官によると、直接的な死因が絞殺なのか断定できないということだったから、本件がこのケースに該当する可能性は高い。

 次に、頭部に犯人を示す証拠が残っている場合。たとえ話をすると、犯人は女性であり、犯行前に被害者と接吻を交わしていた。犯人の唾液が被害者の口内に残留していれば、それが殺人者を名指しする証拠になり得る。ただし、被害者の性別や体格を考慮すると、少なくとも遺体をビルに運んだ犯人が女性である可能性は低いだろう。

 遺体の運搬を楽にする、という説も考えられるが、これは却下。頭部だけ切断しても遺体の重量は大して変わらない。運搬の負担を減らすのなら、腕や足なども斬り落としバラバラ死体にするはずだ。

 犯人は被害者の首が欲しかった、という猟奇的な動機もある。人間の首を蒐集する異常者、あるいは首だけでも我が物にしたいほど被害者に歪んだ愛を抱いていた。ただ、現時点で犯人像はまだ曖昧模糊としているし、関係者の中にそうした人物も浮上していない。

 犯人像といえば、遺留品にはスマートフォンや携帯電話がなかった。被害者が自宅に置き忘れた、あるいはどこかで落とした可能性もゼロではないが、普通に考えて犯人が奪い取ったのだろう。とすると、犯人は被害者の身近にいる人物。スマホや携帯電話から関係性を特定される人物、と推測できる。また裏を読んで、知人友人や近親者の犯行と見せかけるためにスマホや携帯を頂戴した、という推理もできなくはない。だが、被害者とほぼ初対面で頭部切断までするか、という謎が残る。それこそ猟奇殺人として捜査を進路変更する必要があるかもしれない。

 ほかに、どんな動機があるだろう。横溝正史の世界観に関連付けて、見立て殺人というワードを連想する。ただし本件には、頭部切断にまつわる因習や童謡といったものが深く関わっているとも思えない。人里離れた田舎村が事件の舞台であるならまだしも、大都会のど真ん中で起きた悪行である。今回は、横溝作品から事件解決のヒントは得られそうにない。

 横溝作品といえば――私と黒瀬が最初に知り合ったのも、東北のある寒村でのことだった。あの事件からまだ半年ほどしか経っていないのに、もう何年も昔のことのように感じる。「牛頭村(うしこべむら)」というまさに横溝ワールドに登場しそうな村で起きた、凄惨な連続殺人事件。金田一耕助ばりの探偵手腕を発揮し、鮮やかな推理で犯人を追い詰める黒瀬の後ろ姿が印象的だった。

 いかんいかん、思考が横道に逸れてしまった……頭部切断の動機。気になるのは、遺体の首に索条痕が認められたことだ。死因を誤認させるために、犯人がわざと首にロープでも巻いたのだろうか。だが、我々はまだ司法解剖の結果を教えられていない。体内から毒物が発見されるという可能性も否定できないか。

 いや、それはない、と首を振る。仮に、犯人が死因を隠蔽するため頭部を持ち去ったとしよう。だが体内に毒物のような殺人を示唆する証拠が残っていれば、司法解剖であっさり見破られてしまう。頭部を刎ねたところで徒労に終わるだけだ。

 2つめのケース、頭部に証拠が残っているというのはもっともあり得る仮説だ。遺体を絞殺に見せかけたのは、頭部から注目を逸らす陽動作戦かもしれない。たとえば、真の死因は撲殺で特殊な凶器を用いた場合。頭部に残った傷の具合から凶器がすぐ特定されてしまうとなれば、頭部を持ち去る切実な理由になる。あるいは、何らかのアクシデントにより頭部に犯人の皮膚片や血液などが残ったのか? そうなると、被害者と犯人は激しく揉み合った、または被害者が抵抗を示した可能性があるが、遺体に目立った外傷はなかった。やはり、凶器の特定を恐れたのか。

 田渕の部屋を思い出してみる。撲殺の凶器になるようなものがあっただろうか。珍しいブロンズ像やトロフィーの類も、変わった形の時計や置物も見かけなかったが。

 発想を変えて、犯人は被害者の首が欲しかったとしよう。青山警部補が持ち歩いていた近藤の写真を、脳内で再現する。日に焼けた肌に、男前な顔立ち。近藤に恋慕していた犯人が、その顔を一生拝みたいがために首を狩ったのか。狂気の沙汰としか言いようがないが、人間色恋に狂えばどんな蛮行を犯すか分からない。いや、逆のパターンはどうだろう。近藤を憎むあまり、斬首の刑に処した。その首はどこかの川にでも投げ捨てたのかもしれない。捜査一課に、都内の河川を捜索するよう打診すべきか。

「随分唸ってんじゃねえか、推理作家さまよ」

 おわっ、と間抜けな声が出てしまった。黒シャツを砂で汚した黒瀬が、背後にひっそりと佇みジト目でこちらを見下ろしていたのである。

「黒瀬。帰ったのなら声くらいかけてよ」

「只今戻りましたという挨拶を無視したのはお前だろうが」

 思考の沼にはまり注意散漫になっていたらしい。

「ごめん。今オムライス作るから待っててよ。あ、そのシャツは洗濯しなきゃね。ずっとあの部屋にいたのかい」

「ああ。三善のじいさんがこまめに掃除していたとはいえ、ホテルの床を這いずり回るのとは訳が違うな」

 シャツについた砂埃をぱんぱんと払う黒瀬。そういうことは外でしなさい、と説教しかけて、私はハッとする。

「砂埃……」

「何だよ」

「いや、さっきまで頭部切断の動機をずっと考えていたんだけどさ。被害者は、公園で殺害されたという仮説はどうかな」

「公園?」シャツのボタンを外しながら、黒瀬は器用に片眉を動かす。

「そう。園内の砂場で被害者を殺害したとき、被害者が砂場に倒れ込んで頭部に砂がついてしまった。そこから殺害現場が特定されることを憂慮した犯人は、頭部を斬り落とした」

「公園で殺したことがバレたところで、犯人に特別デメリットが生じるとは思えないが」

「う、それは……たとえば、その公園で犯人はよくランニングをしていたとか。だから、周辺で聞き込みをすれば自分を見かけたという証言が出てくるかもしれない。それを恐れたんだ」

「公園の利用者は犯人だけじゃないだろう。その説を採用するならば、容疑者候補は減るどころか増えるばかりだ」

 あっさり棄却されてしまった。気を取り直して、キッチンに向かいながら話を続ける。

「そういえば、田渕さんの家に特殊な凶器になるようなものってあったかな」

「死因が撲殺かもしれない、と考えたんだろう。俺も注意して見ていたが、特にそれらしいものは置いていなかったな。ま、殺人の道具を堂々と部屋に飾るほど犯人も阿呆じゃない」

「それもそうだね」

 第一、まだ田渕保夫が犯人と決まったわけでもないのだし、ここらでブレーキをかけておかないと捜査が間違った方向へ暴走しかねない。

 冷蔵庫からオムライスの材料を取り出していると、不意を突くようにドヴォルザークの「新世界より」が鳴り響く。黒瀬の携帯電話の着信音だ。

「黒瀬です。桃川警部ですか……ええ……いや、やはりあの部屋には……はい……そうですか」

 吐息交じりの会話が聞こえてくる。声のトーンが暗い。朗報ではないことが察せられた。

「それで……はい……近藤の部屋ですか……ええ……え? なくなっている……はあ……分かりました。ええ、明日伺いましょう。白浪も……もちろんです。はい、ご苦労様です」

 卵を溶きながら頭だけぐるりと回す。シャツのボタンを全開にしたままの黒瀬が、携帯電話をソファに放り投げた。

「桃川警部から?」

「ああ。やはり、あの死体は近藤集だ。彼のご両親が断言したんだと。太腿に刺青があって、青山警部補が確認したところ近藤集が半年ほど前に彫ったものだと判った」

「そうか」やはり凶報だったようだ。

「そう落ち込むなよ。遺留品に免許証があったんだから、ほぼ確定していたことじゃねえか。それに、悪い知らせには大抵良い知らせがセットになっているものだ」

「え、どういうこと」

 脱いだシャツを手に、黒瀬は両肩を小さく竦めてみせた。

「近藤集の部屋から、()()()()がごっそり無くなっていたんだよ。明日、それを確認しにいくのさ」



*



3


「眼鏡が、ないのだそうよ」

「眼鏡?」

 栗色の巻き毛を背中で揺らしていた女性が、こちらを振り向いた。紫のアイシャドウがよく映えた猫目にじっと見つめられ、変に緊張してしまう。

「そう。昨夜、青山くんが近藤集のご両親と一緒にこのマンションを訪れたんだけどね。近藤は熱心な眼鏡蒐集家(コレクター)で、30以上もの眼鏡を部屋に飾っていたらしいの。それが一式、何者かに奪われていた」

 真っ赤なルージュをひいた唇が、三日月型に変形する。何人もの男を骨抜きにしてきた魔性の笑みだ。警視庁捜査一課桃川班の紅一点、紫藤巡査部長。一課では親しみを込めて「紫の魔女」と呼ばれているそうだが、私に言わせてみれば美貌を武器に男を惑わせる女夜叉、がしっくりくる表現だ。

「眼鏡コレクターですか。仮にその眼鏡一式を持ち去ったのが近藤さんを殺害した犯人として、なぜそんな行動をとったのでしょう」

「それは、あなたたちが推理することよ」

 台東区東上野4丁目に所在する「ラ・セゾン上野」5階503号室。近藤集氏の自宅である。汐留の田渕宅ほど洒落てはいないが、部屋は整理整頓が行き届いていて住み心地はよさそうだ。生活必需品があるべき場所にきちんと配置された、無駄のないレイアウトだった。

「家具やインテリアには、特別な拘りはなかったみたいね。あ、そのガラスケースに眼鏡がずらりと並んでいたんですって」

 アイシャドウと同じ色に塗られた爪先が、部屋の奥に据え置かれたガラスケースを指す。横幅は1メートル以上もあり、眼鏡販売店に設置されていそうな立派な陳列ケースである。しかし肝心の中身は空っぽで、白い敷布だけがぽつんと寂しそうだ。

「でも、青山警部補が持っていた写真。あれ、近藤さんの写真ですよね。眼鏡なんてかけていなかったはずですけど」

「コンタクトと併用していたらしいの。彼にとって、眼鏡はファッションアイテムのひとつだったのかも」

「ふうん。近藤さんが集めていた眼鏡って、高価なものだったのでしょうか」

「ご両親に尋ねてみたけど、よく分からないそうよ。でも、たとえ高価なアイテムがあったとしてもせいぜい数点くらいのものじゃないか、ということだったわ。どちらかといえば、質より数を重視していたみたいだから」

「たしかに、30以上のコレクションって相当な蒐集癖ですね。1ヶ月毎日違う眼鏡をかけられるじゃないですか」

「白浪くんは、視力は悪いの?」左腕にぴたりとくっつく紫藤巡査部長から、ローズ系の甘い匂いが漂ってくる。心臓が早鐘を打つのを必死に堪えながら、

「い、いえ……自慢じゃないですけど、視力は左右とも1.5あるんです。昔から目だけはいいんですよ」

「あらそうなの。目だけ、じゃないでしょう。白浪くん、結構ハンサムな顔してると思うけどな」

 雪のように白い指が、頬にすっと触れた。思わず飛びのくと、「あら、失礼な反応ね」と女刑事は小さくぼやく。隙あらばこうなのだから寸時も気を抜けない。心臓はまだドクドクと脈打っていた。

「こ、近藤さんは眼鏡蒐集以外にも、何か趣味があったんですかね」

 わざとらしく声を張り上げながら、液晶テレビと壁の隙間を覗く。プラスチック製のマガジンラックが押し込められていた。旅行雑誌が5冊、収納されている。

 ふと、黒瀬と田渕保夫の会話が思い出された。近藤集も、暇があれば小旅行を計画することがあったのだろうか。そんなたまの楽しみさえ、犯人の手によって永遠に奪われてしまったのだ。

「ところで、近藤集が眼鏡をかけている写真はないのか」

 陳列ケースを拳でコンコンと叩く黒瀬に、女刑事が雌豹のようにすり寄って腕を絡める。

「今、近藤集のご両親や知人に写真の提出を求めているところよ」

「眼鏡は、すべて陳列ケースに保管していたのか」

「おそらくね」

「眼鏡ケースは見つかっていないんだな」

「今朝一通り探してみたけど、発見できなかったわ。でも、陳列ケースがあるんだから、眼鏡ケースは不要になって被害者自ら処分したんじゃないの」

「旅行や遠出するときは眼鏡ケースが必須だろ。熱心なコレクターなら、裸のまま眼鏡をカバンに放り込むなんて雑な扱いはしないはずだ」

 つっけんどんに言い、紫藤巡査部長の手をさっと振り解くとそのままリビングを出ていってしまった。妖艶な女刑事は可笑しそうに口角を吊り上げる。

「そういえば、被害者はパソコンを持っていたのですか」

「ええ。昨日、青山くんが寝室からノートパソコンを見つけて回収。鑑識課に預けているわ。近藤集の写った写真のデータが保存されているといいけど」

「被害者のスマホや携帯電話は見つかっていないですからね……あ」

「何か閃いた? 作家センセイ」

「もしかすると、犯人は近藤さんが眼鏡を購入した店の店員じゃないですかね。だから、近藤さんが所有する眼鏡を盗み出す必要があった」

 ぱちんと指を鳴らした私に、妖魔めいた巡査部長はくびれた腰に片手を当て、悠然と微笑みかける。

「それくらいのことは、一課の中でも予想済みよ。実は、あの陳列ケースには隠れた引き出しがあってね。そこから眼鏡の保証書がいくつか見つかったの。愛宕署の若人たちが各販売店へ聞き込みに行っているわ」

 また空振りか。自分でも嫌になるポンコツぶりだ。推理作家の名が泣くぞ。

「おそらく犯人は、秘密の引き出しの存在には気が付かなかったんだろうな。こちらにとっては嬉しい凡ミスだ」

 したり顔の私立探偵が、気付かぬ間にソファで踏ん反り返っていた。膝の上に、牛革の高級そうな手帳を乗せている。

「ちょっと。その手帳、どこから出てきたのよ」

 女刑事が黒瀬の隣にさっと腰掛ける。探偵は思わせぶりに手帳を顔前にかざしながら、

「寝室。ベッドの向かいに鎮座していた、大層ご立派なビクトリアンスタイルのロールトップデスクから」

「当然そこも調べたわ」

「おや。陳列ケースの秘密の引き出しは探し当てたのに、手帳は発見できなかったのか」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、女巡査部長は探偵の横顔を凝視する。

「まさか、ロールトップデスクにも何か仕掛けがあったの」

「さてね。よし、おおかた材料は揃ったことだし、そろそろ調理を始めるか……その前に、いくつか確認しなきゃならんことがある。なあ巡査部長さんよ」

 匂い立つような色香を放つ紫藤刑事に、黒瀬は1枚のメモを渡す。

「その住所を訪ねて、そこに書いていることを聞き出してほしい」

「汐留中央眼科? どうして眼科に聞き込みに行く必要があるのよ」

「つべこべ言わずさっさと行く。それから白浪」

 藪から棒に指名され、「は、はい」と鯱張った返事をしてしまう。

「お前は三善のじいさんのところへ行って、遺体が見つかった部屋を最後に掃除したのがいつか教えてもらえ」

「いいけど、それが重要なことなのかい」

「ああ。その材料がなきゃ料理ができないからな」



「被害者の事件当日の足取りが掴めました。ノンバーバルに勤務する樋口伽奈(ひぐちかな)というアルバイターによると、その日は午前11時から開店し、午後3時まで営業。通常ならば、そこから時間を空けて午後6時以降にディナー営業もしているらしいのですが、その日は近藤氏の都合でランチのみの営業になったそうです。樋口伽奈が近藤に『彼女とデートの約束ですか』と冗談半分で尋ねたところ、『そんな素敵な予定はないよ』と答えを濁したということでした」

 コーヒーをぐびりと飲み干した桃川警部に、黒瀬が唇を歪める。

「恋人じゃなく、犯人と密会する予定だったのかもな」

「さすがにそんな直接的な表現は避けたようですがね。3時に店を閉めた後、雑務をこなした樋口伽奈は3時30分に店を退勤。その後、近藤氏は4時過ぎに外部へ電話をかけたことが判明しています。近藤氏の親しい友人から証言が得られました。会話内容はごくごくプライベートなもので、事件に関係があるとは思えません。それ以降の氏の行動は不明です」

「そうですか。ところで、司法解剖の結果は?」

「まだ途中経過ですが、睡眠薬や薬物等の反応はなし。持病も特になくすこぶる健康体。やはり、頸部圧迫による窒息死か、頭部に何らかの外傷が加わって死亡したと見るのが自然でしょう」

 オムライスを勢いよくかき込む桃川警部。死体の話をしながらも食べっぷりは見事である。

「被害者の交友関係で、何か判ったことはあるのですか」

 オムライスを完食したタイミングを見計らって、私からも質問する。警部は小さくげっぷをすると、

「目立ったトラブルは見られませんね。もともと社交的で人脈も広いですが、まあぼちぼちの人間関係を築いていたようです」

「金銭問題を抱えていたとかも」

 丸顔を横に振って、否定を表示する。容疑者リストはメモ用紙1枚以内に収まるくらいのもので、被害者が人格者であることを窺わせた。

「田渕氏と近藤氏の間に、何か繋がりはありましたか」

 黒瀬が核心に迫る。サスペンダーをだらしなく肩から落としたハンプティダンプティ警部は、ソーセージのような指で手帳を捲った。

「黒瀬さんが見つけた手帳を検めたところ、半年前の航空チケットが保管されていました。今年の5月20日、羽田空港発札幌行き。航空会社に照会したところ、なんとなんと。同じ航空会社の同じ便に、田渕保夫が搭乗していたんです」

「え」危うくスプーンを取り落としそうになった。「それって、田渕さんが大学時代の知人と1週間出かけたっていう、あの話ですか」

「その話だよ。被害者の部屋にマガジンラックがあっただろ。あの中に、札幌や小樽を扱った旅行雑誌が入っていた」

 ケチャップの付いたスプーンをぴっと私に向ける黒瀬。

「僕も見たよ。でも、まさか同じ日に同じ便に乗っていたなんて。偶然かな」

「さあな。だが、興味深い事実ではあるだろ」

 とんだ掘り出し情報だ。黒瀬が語った田渕犯人説は、いよいよ妄想の域を出ようとしている。

「それから、もうひとつ報告です。三善ビルの1階と5階の廊下にあった、掃除用具入れ。黒瀬さんのご命令通り、中にあった箒とちり取りを鑑識に回しました。ビンゴですよ。()()()()が検出されました」

 桃川警部は、右手の親指を立てグッジョブのポーズを決める。

「掃除用具入れ? 箒とちり取り? 例のもの? 一体何の話ですか」

 会話から置いてけぼりにされた私を他所に、私立探偵の男はスプーンの柄尻を顎に押し当てながら狡猾な笑みを浮かべた。

「材料が揃った。これから思い切り、犯人をフライパンの上で炙ってやる」



*



4


「4日前のことです。この部屋で、近藤集という男性の遺体が発見されました」

 両手を横に広げて、黒瀬はぐるりと部屋を見渡す。ちょうど、近藤集の遺体が横たえられていたあたりに立ち、その真向かいに田渕保夫が仁王立ちしている。青山警部補、紫藤巡査部長、そして私の3人は、田渕氏のさらに後方、部屋の出入り口あたりで横一列に並んでいた。

「ただ遺体が放置されているだけならシンプルな状況だったのですが、その亡骸には首がなかった。なぜ、本来そこにあるはずのものがなくなっていたのか。これが、事件を複雑化させる最大の要因でした」

 政治家の演説みたいな調子で語りかける黒瀬に、田渕氏が「はあ」と気の抜けた声で合いの手を入れる。

「我々が知りたいのは、誰が近藤氏を殺害し、また首を切断し、その遺体をここに運び込んだのか。まず、近藤氏を殺害した人物と、遺体の首を切断した人物は同一犯と見て差し支えないでしょう。なぜならば、遺体の状態から頭部は死後すぐに切断されたことが判っているからです。近藤氏を殺した犯人がそのまま切断作業に取りかかったと見るのが妥当です。では、殺人犯と遺体を運搬した人物はどうか? これも、おそらく同一人物です。遺体を殺害現場から移動させたのは、そこに遺体があると困るからでしょう。それはつまり、殺害現場は犯人と密接に関わっている場所……たとえば、犯人の自宅や仕事場等が考えられます」

 一旦言葉を切って、反応を見るようにこちらへ目くばせする。私たちに背中を向けている田渕氏の様子は判然としないが、刑事2人と推理作家は無言で黒瀬に先を促した。

「犯人が被害者の首を切断し持ち去る理由は、大きく4つ挙げられます。では、ここで現役推理作家さまに少々レクチャアしてもらいましょう」

 予告もなしにスポットライトを当てられどきりとしたが、推理作家の威厳の見せ所だ。田渕氏が回れ右をしたのと同時に、私はわざとらしく大きな咳ばらいをする。

「ええと。可能性の高い理由から列挙しましょう。まず、被害者の頭部に犯人へとつながる証拠が残されている場合。たとえば、犯人の皮膚片とか毛髪とか血液とかですね。あるいは、特殊な形状の凶器を用いて撲殺したとすれば、頭部の傷跡から凶器が割り出され凶器の持ち主が特定されるかもしれない。こういったケースだと、頭部が遺体発見現場にあっては困るわけです。次に、死因を判別しにくくする場合。これは、本件に関しては微妙なラインですね。なぜなら、遺体の頚部――首のことです――に索条痕、つまり何者かに首を絞められた痕が認められたからです。死因を誤魔化すのであれば、索条痕が残っている部分まで斬り落とすでしょうからね。さらに、犯人は被害者の首に欲心を起こしていた、一種の変態嗜好の持ち主であった場合。これは、なかなか特異な動機ですが。最後に、これは可能性としてはもっとも低いですが、見立て殺人という仮説もあります。推理小説では馴染みの言葉ですが、何か物語や伝説、伝承になぞらえて首を狩るという犯罪手法ですね。ですが、今回のケースには該当しないでしょう。事件の背景にそのような血生臭い要素は今のところ見つかっていませんから」

 田渕氏は、眉頭どうしがくっつきそうなしかめ面をしている。教授から専門知識をべらべら披露されて混乱している学生みたいな顔だ。

「とまあ、だいたいそんなところです。では、犯人が首を刎ねて持ち去った理由は一度置いておくとして、警視庁の捜査員たちがこの4日間でかき集めた証拠を提示していきましょう」

 進行役の黒瀬から次に指名を受けたのは、針金刑事こと青山警部補だ。

「被害者の事件当日の動きをご説明します。午前11時から午後3時までは、仕事場である上野のカフェで勤務。その後の行動ですが、店に設置された電話の子機を調べたところ、午後5時過ぎに通話記録が残されていました。そこから辿り、1組の客から翌日のランチの予約を受けていたことが判明。さらに午後7時過ぎ、上野駅で偶然被害者と出くわしたという知人の証言が得られました。これが被害者の最後の足取りです」

「近藤氏の生前の行動は、ざっとそんなところですね。青山警部補、どうもありがとう。では次に、事件現場の物証について、これは私からお話しましょう」

 人型テープの周りをぐるぐる歩き出す黒瀬。

「もともと、この部屋にはあなたが社長を務める株式会社オールウェイズのオフィスが入居する予定でした。ビルの管理人である三善氏とあなたの証言によると、ここ1ヶ月は定期的に出入りしていたと」

「ええ、嘘偽りはありません」

 田渕氏は部屋に入ってから初めての一声をあげた。黒瀬は小さく相槌を打ち、先を続ける。

「見ての通り、長らく無人であったにしてはこの部屋は綺麗に掃除されています。蜘蛛の巣は張っていない、ネズミ1匹見かけない。それもそのはず、三善氏がこのひと月の間こまめに部屋を清掃していたからです。ところで、そこの推理作家が聞き出したところによると、三善氏がこの部屋を最後に片づけたのは遺体が発見される4日前ということでした」

 私は大きく頷き返したが、田渕は再び探偵に向き直っていたし、当の探偵も話に夢中でこちらを見ている様子はない。

「三善氏が最後に掃除してから遺体が見つかるまで、4日間のブランクがあります。最初に現場へ足を踏み入れたとき、違和感を覚えました。いくらまめに掃除しているとはいえ、妙に綺麗すぎやしないかと」

 田渕がほんの僅かに首を傾ける。そんな細かいことがどうしたという意思表示かもしれない。

「そこで私は想像力を働かせました。もしかすると、事件当日にも誰かがこの部屋を清掃したのではないかと……田渕さん」

「何でしょう」唐突に名指しされ、小さく肩を上げる田渕氏。

「このビルは、1階と5階の廊下に掃除用具入れが置かれています。学校なんかでよく見るような、縦長でスチール製のものですね。ご存じでしたか」

「三善さんから教えられました。実際その中の道具を使って掃除したこともあります」

「そうですか。そこにあった箒とちり取りなのですがね、これを警視庁の鑑識課で調べてもらったんですよ」

「何のために?」田渕氏の声が微かに上擦っている。

「もちろん、証拠を見つけるためです。出ましたよ。箒の毛先とちり取りの中から、微量ですがガラス片が見つかりました」

「そりゃあ、掃除をすればそんなものも付着するでしょう」肩を大きく上下させる田渕氏。驚かせやがって、とでも続けて言い出しそうな口吻だ。

「眼鏡のガラス片でも、付着するのが普通でしょうか?」

 ジーンズのジャケットを羽織った肩が、大きく跳ねる。黒瀬は意地悪そうな笑みでIT会社の社長を眺めながら、

「このビルは、時々部屋荒らしの被害に遭っているそうです。三善氏が話していました。ですから、窓ガラスの破片が散乱しているのは不自然ではありません。ですが、眼鏡のガラス片が散っているというのは少し特殊な状況だとは思いませんか」

 探偵はここで口を閉ざす。と、それが合図であったかのように、今度は紫藤巡査部長が小脇に挟んでいた書類を胸の位置に持ってくると、

「被害者の近藤集は、上野の自宅に30以上もの眼鏡を保管していたわ。その中のいくつかについては、保証書が見つかっている。それをもとに複数の眼鏡販売店に確認をとった結果、顧客名簿に近藤集の名前が載っていたことが明らかになった。そして、近藤集が購入したものと同じ眼鏡のレンズと、箒とちり取りから採取したガラス片を調べたら」

 美しくカーブを描いた眉をほんの少し持ち上げて、

「ふたつの材質は、一致したわ」

「そ、それが何だというのですか」田渕社長は私たちを勢いよく振り返る。「それで、その近藤とかいう男が事件当日このビルにいた、という証拠になるとでも言うつもりですか」

「ああ、そのつもりだよ」黒瀬があっけらかんと言い切った。田渕は「はっ」と大袈裟に仰け反ってみせる。

「だから何だっていうんです? 近藤という被害者はここで発見されたのですから、彼がかけていた眼鏡のガラス片が落ちていてもおかしくはないでしょう。犯人と揉み合った際に落として割れたのかもしれない」

「あんた、近藤集が眼鏡をかけていたことを何故知っている?」

 嗤笑していた田渕の顔が、一瞬にして凍り付く。

「だ、だって、そこの女刑事さんが言ったじゃないですか。被害者の自宅には大量の眼鏡があったって」

「事件当夜、被害者が眼鏡をかけていたとは一言も口にしていないぞ」

「家に眼鏡があれば、日頃からかけていたんだろうなと想像するでしょう」

「生憎と、そうとも限らないんだ。なあ巡査部長さんよ」

 こめかみを指で掻きながら、黒瀬は声を張り上げた。紫藤刑事は挑発的な笑みを見せると、

「汐留中央眼科。あなたも知っているでしょ?」

 震える手で黒縁のボストン眼鏡を押し上げる田渕に、女豹のような刑事はぴたりと視線を定める。

「近藤集はね、あなたが行きつけの汐留中央眼科に通っていたのよ」

 田渕が息を呑む音が、はっきり耳に届いた。

「眼科医さんに確認したらね、近藤集が眼鏡生活になったのはここ5ヶ月間のことだそうよ。それ以前はコンタクトを使用していた」

 IT会社の社長は何か反論しかけたが、その隙を与えまいとするかのように黒瀬が畳みかけた。

「最初にあんたを訪問したとき、青山警部補があんたに見せたのは眼鏡をかけていない近藤集の写真だった。写真でしか被害者を見たことがないはずなのに、近藤集が眼鏡を集めていたと話したときに不思議そうな顔すらしていなかったな。まるで、そんなこと前から知っていましたよと自白しているみたいだ」

「言いがかりだ」ぽつりと呟いたが、先までの勢いのある語調とは打って変わって迫力に欠ける。

「あんたは知っていたんだよ。近藤集が事件当日に眼鏡をかけていたこと。何故なら、この部屋で近藤集の眼鏡をうっかり破損してしまったのは、あんただからだ」

「だからって……眼鏡を壊したから、それがどう不利になるというのですか」

「おや、自分が犯人だと認めるのか? 素直に白状してくれたご褒美に教えてやろう。近藤集の顔には、眼鏡をかけていた痕跡が残っていたんだよ。鼻の付け根のところに、鼻あての跡がくっきりとな」

 田渕はすっかり犯人呼ばわりされているが、反駁を加える気配はない。起訴状を朗読する裁判官の声にじっと耳を澄ませる被告人のごとく、その場で棒立ちになっている。

「事件当夜、あんたのした行動を具体的に話してやろう。まず、午後6時から8時までの確実なアリバイを確保したあんたは、8時を過ぎた時間に近藤集を自宅に呼び出し、そこで殺害した。そのとき、近藤集がかけていた眼鏡が床に落ち、あんたはそれを誤って踏んづけるなりして壊してしまった。眼鏡の跡がしっかり残った近藤の顔を見て、あんたの心をある不安がよぎる。もしこのまま近藤の遺体が見つかれば、近藤が眼鏡をかけていないのを警察が不審に思うかもしれない。警察が近藤の部屋を訪れて眼鏡コレクションを飾った陳列ケースを見れば、近藤が普段眼鏡をかけていることはすぐ想像がつくだろう。しかし、自分の部屋で壊れた眼鏡の破片をかき集めて別の場所に遺体と一緒に運ぶのも面倒だ。そこであんたは、近藤の首を切断して首のない遺体を遺棄するという大胆な発想に至った。免許証の写真に写った近藤はたまたま眼鏡をかけていなかったし、上野の自宅にある陳列ケースから眼鏡一式を持ち去れば、近藤が眼鏡を使っていたことはバレずに済むかもしれない。よし、多少骨は折れるがその作戦でいこう」

 田渕になりきった探偵は、テンポよく推理を進めていく。

「遺体を捨てるのは、三善ビルの4階と最初から決まっていた。慣れた場所だったし、まさか自分の事務所が入る部屋に遺体を遺棄するなんて奇行を、犯人がするはずもない。警察がそう思い込むことを期待したんだろうな。遺体の運搬にはスーツケースでも使ったんだろう。そして、三善ビルの4階に遺体を運び入れたがそこでまたもアクシデントが発生した。近藤集は、ズボンのポケットにもうひとつ予備の眼鏡をしまっていたんだ。遺体を床に置いたときに、あんたはその予備の眼鏡も破損させてしまったんじゃないのか」

 暗闇の空間で、死体を床に横たえる田渕。ぱきり、という小さな破裂音。遺体の着衣をまさぐって、ズボンのポケットから壊れた眼鏡を見つけたときの、蒼白になった田渕の顔。再現ドラマのような光景が脳内スクリーンに映し出された。

「眼鏡コレクターだった被害者なら、予備の眼鏡をひとつやふたつ常備していても納得できるからな。さて、あんたは再び窮地に立った。被害者はすでに首無しの死体となっている。被害者に首があったなら、眼鏡の破片はそのまま床に散らばしておいても問題ないが、首がないとなると壊れた眼鏡が妙に浮いてちぐはぐな印象を持たれるかもしれない。あんたは近藤がこの場所で殺され首を切断されたように見せかける細工まで終えていた。破損した眼鏡がそこにあるのはあんたにとってどうしても気持ち悪かったんじゃないのか」

 深呼吸をひとつして、黒瀬は演説の終盤に入るかのようにひときわ声のボリュームを上げる。

「だから、掃除用具入れから箒とちり取りを持ってきて床のガラス片をかき集めた。フレームは持ち帰って始末したんだろう。だが、掃除用具入れにまで警察の触手が伸びるとは想定していなかったんだろうな。そして三善ビルを出たあんたは、その足で東新橋のバーに行き再びアリバイ工作を実行する。バーの店員には、『もし警察が来て自分のことを尋ねられたら、8時から10時まで自分がここにいたように証言してほしい』とでも頼み込んだ……おっと、その共犯者にはすでに裏を取ってあるぜ。殺人の片棒を担ぐのは御免だとあっさり白状したんだと」

 裏切り者を責め立てることもせず、主犯の男はがくりと首を垂れている。

「最後に、上野にある被害者の自宅を訪れて陳列ケースから眼鏡一式を奪い去った。これですべてのミッションは完了。自宅に戻ったあんたはさぞや安堵したことだろうな。だが、俺に言わせればまだ爪が甘かった。眼鏡の保証書、そしてこれまで見つけて処分しなかったことは痛恨のミスだぜ」

 黒瀬の右手に出現したのは、近藤集の寝室から押収された牛革の手帳。それを見た瞬間、田渕は「ああ」と叫び足元からへなへなと崩れ落ちた。

「俺も超能力者じゃないからな。あんたがどんな動機をもって被害者を抹殺するに至ったのか最後まで分からず仕舞いだ。ただし、あんたと被害者をつなぐ唯一の手掛かりが、この中にある」

 手帳を指で軽く弾くと、黒瀬は目の前の殺人者に問いかけた。

「なあ、田渕社長よ。半年前、北海道であんたと被害者の間に何があったんだ?」



「田渕保夫と近藤集は、半年前の北海道旅行で偶然知り合った。同じ日、同じ便に搭乗していただけでなく、宿泊先の旅館まで同じでした。すっかり意気投合した彼らですが、これが悲劇の引き金となったわけです」

 背筋を伸ばしソファに座した青山警部補は、取り調べの概要を訥々と話す。

「宿に逗留して4日目の夜。田渕が旅館のうら若い仲居を自室に連れ込み強引に関係を持とうとしているところを、近藤が窓の外からスマートフォンで盗撮していたのです。近藤は撮影した動画をネタに田渕を強請り、金を巻き上げた」

 マグカップを持ち上げた警部補は、貴族のような優雅さでブラックコーヒーを一口啜る。

「北海道から帰った後も、何度か金銭を要求されたと供述しました。田渕と被害者の銀行口座間で、この半年の間に3回、まとまった金の流れがあったことも調べ済みです」

「恐喝行為が続いて、殺意は募るばかり、というわけですか」

 容疑者リストを見て被害者を人格者と評した私の目は、節穴も同然だ。

「田渕が近藤宅の眼鏡コレクションのことを知っていたのは、近藤が道中で自慢げに話したていたからだそうです。それから肝心の頭部ですが、素直に歌いましたよ。築地にある、隅田川に面した公園の一角に埋めたと。自白した通りの場所から、ビニル袋に包まれた近藤の頭部が発見されました。また近藤の正確な死因ですが、緑川検視官がはじめに指摘された通り、絞殺でした。凶器のロープ、それから血痕の付着した鋸が頭部とあわせて見つかっています。田渕の自宅を家宅捜索したところ、浴室から近藤の血液も検出されたので今更供述内容を覆すこともしないでしょう」

 公園で殺害した、という私の頓珍漢な推理は、意外なところでリンクしていたのか。

「でも、殺害動機はともかく、被害者の首を斬り落とした行為は私には理解しかねます。眼鏡の跡が残っていたことなんて、何とでも言い訳できそうなものなのに」

「その点についてですが……黒瀬さんの推理にはあと一押しが足りませんでした」

 マグカップを手に取ろうとして、私は「え?」と警部補に顔を向ける。

「紫藤巡査部長が指摘したでしょう。近藤は田渕と同じ汐留中央眼科に通っていたと」

「ええ。上野に住む近藤氏が汐留の眼科に行くというのは、ちょっと不自然な気もしますが」

「実は、汐留中央眼科には眼鏡販売店が併設されていて、近藤はその店で田渕がかけていたのと同じ眼鏡を購入していたんです」

 青山警部補の言葉を、頭の中でほかの事実と必死につなぎ合わせる。

「それって、まさか」

「事件当夜、近藤がかけていた眼鏡は田渕がかけていたものと同じだった。田渕は、誤って近藤の眼鏡を破損したんじゃありません。近藤の遺体が見つかったときに彼が眼鏡をかけたままだと、同じものをかけている自分に疑いの目が向くことを恐れて意図的に壊したのです」

 開いた口が塞がらなかった。黒瀬探偵が想像したよりも、ずっと切実な理由だったのだ。

「偶然同じものを購入していたと言い張ればそれまでですが、田渕にしてみれば厄介だったでしょう。眼鏡の跡だけならまだしも、その眼鏡が自分とまったく同じものとなれば、警察は自分と近藤との接点を勘繰るのは目に見えている。だからこそ、近藤がかけている眼鏡も、眼鏡をかけていることが明白な近藤の頭部も、そこにあると不都合だった」

 いやはや。これでは、「殺人犯の動機に露ほどの興味もない」黒瀬にも絵解きできないはずだ。

「あ、もうひとつ納得しかねる点があります。田渕は、被害者を汐留の自宅に呼び出して殺害したのですよね。でもよく考えると、近藤宅の場所を知っていたのなら、そこで殺害して物取りの犯行にでも見せかけたほうが効率的ではないですか」

「その点は、桃川警部も同意見でしたよ。田渕によると、万一殺害現場に自分の痕跡を残してしまっても、そこが汐留の自宅であれば警察が家宅捜索しない限り安全圏だと考えたそうです」

「意外と心配症だったんですね。でも」ようやくマグカップのコーヒーにありつきながら、「陳列ケースの秘密の引き出しもそうですけど、上野駅で事件当日に被害者と出くわした友人なんて、よく探し出しましたね。被害者の交友関係は広範囲に渡っていたと聞きましたし、かなり地道な捜査だったのでは」

「先日も言った通りです。警視庁を舐めてもらっては困りますから。では、私はこれで失礼します」

 ポンコツ推理作家の慰労の言葉に気をよくすることもなく、針金警部補は黒瀬探偵事務所を辞した。よく言えばクール、悪く言えば素直じゃない男である。

 ほどなくして、新たな依頼を引き受けた黒瀬が事務所に戻ってきた。今日は依頼人と簡単な打ち合わせをしただけらしい。私は早速、青山警部補が語った事件の顛末を事細かく伝える。探偵の反応は、

「ふうん」

 実にシンプルで、素っ気なかった。

「ふうん、って。それだけ?」

「ほかにどんなコメントが欲しいんだよ」

「推理の一部が外れて悔しいとか。田渕と近藤の間にそんな意外な接点があったのかとか」

「別に、悔しくもなければ大して驚きもしないな。第一、俺の推理は間違いじゃなくて部分的な欠如があっただけだし、眼鏡マニアの近藤が都内のあちこちの店で眼鏡を蒐集していたとしても何ら不思議じゃない」

「そうだけどさ」

 なおも不満げな私に、黒瀬は苦笑する。

「ま、田渕にしてみればとんだ巡り合わせだったろうな。近藤集という余計な部品(パーツ)が、田渕の人生の歯車を大きく狂わせちまった」

「田渕と近藤は、刎頸の交わりという仲にはなりきれなかったわけか」

 ぽつりと口をついて出た私の一言を、黒瀬は皮肉っぽく笑う。

「さすがは物書きの先生だ。上手いことを言う」

 つまらないアイロニーだと自覚はしている。

「ねえ、黒瀬」

 デスクの椅子にどかりを腰を落とした男は、「ん」とだけ反応する。

「黒瀬にとって、僕との出会いは余計な部品かい」

「何だよ急に」

 書類に目を落としたまま、それだけ言い返す。途端に尻がこそばゆくなった私は、空のマグカップを両手にソファから立ち上がり、キッチンに駆け込んだ。黒瀬の返答を聞きたいような、聞きたくないような。思春期の子どもみたいな複雑な感情を胸に、黙々と手を動かす。

 その日、黒瀬は私の小っ恥ずかしい問いなどまるで聞かなかったかのように振舞った。それを望んでいた私も、何事もなかったように過ごした。

 ただ、夕食のオムライスを作ってから事務所を暇しようとしたとき。

「オムライス、また作ってくれよ」

 背中に投げられた言葉だけは妙に温かくて、しばらく胸の中にふわふわふと漂っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  謎の解明に至る過程がよく練られています。最初は朧気だった事件の真相が、調査の過程で少しずつ浮かびあがっていく。事件現場の状況からの推理等、見所がたくさんありました。  白浪理は推理作家ら…
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