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8 ヒュ―ロック国の戦いⅢ

呼んでくださる皆様のおかげで日間ファンタジー300位の中にランクインできました!

これからも拙い文章ながらも頑張りたいと思います( *´艸`)

 ヒューロック国での戦いの4日前、日本国首相官邸。

 突然の首相からの呼び出しにより、閣僚達は急ぎ官邸内の一室に集まる。

 最後の1人が到着したのを確認した新島首相は斜め先に座る榊防衛大臣に目配せをし、彼は小さく頷きゆっくりと立ち上がった。


 「皆さまお忙しい中お集まりいただきありがとうございます」


 「一体何があったのですか総理! このような夜中に閣僚を集めるとは……」


 「非常識な事は分かっている。だがね波多野君、それだけの事態が起こっているんだ。榊君、説明をしてくれ」


 「分かりました総理」


 波多野農林水産大臣は新島首相の言葉に浮かしかけた腰を再び椅子へと下ろした。

 全ての閣僚の視線を受ける榊は部下に命じ閣僚へと数枚の報告書を配り始める。


 「先ほど防衛省より報告があり、衛星が魔族と思われる大軍が大陸南部への侵攻を開始したことを確認しました」


 「な、なんと! それは本当ですか榊さん」


 「はい。推定ではありますが魔族の数は10万あまりだそうです」


 ザワザワッ……。榊の言葉に閣僚達は手元の報告書に記載されている内容と共に騒がしくなり始める。

 

 「それで総理はどうなされるのですか? 報告書によると魔族が押し寄せた場所にはヒュ―ロック国と呼ばれる国があるそうですが日本は自衛隊を派遣なさるのであれば……」


 閣僚の中で、最初に新島に口を開いたのは松岡博則まつおかひろのり財務大臣だった。

 彼は新島よりも10歳ほど年上であり、新島にとっても良き理解者の1人である。

 松岡の言葉に榊は話を続けた。

 

 「ヒュ―ロック国には現在自衛隊員と外交官1名が向かっています。ハナベル王国からの情報から石油が存在する可能性が大と判断しためですが、彼らも既に魔族の侵攻を確認しているでしょう。更に松岡さんの言う通り自衛隊を送れば更に戦争に巻き込まれる可能性があります」


 「……それは問題ではありますがこのヒューロック国、本当に地下資源があるとすれば日本にとって安全保障上重要な国となりますね」


 2人の話を聞いていた吉野経済産業大臣が口を開いた。

 確かに食料問題が大幅に改善しつつある今の日本にとって次に重要なのは石油や鉱物を始めとする地下資源の確保である。

 これらは日本の経済、いや生活そのものの基盤であり国内に備蓄されているものも残りが少なくなりつつあるのが現状だ。

 そんな中ハナベル王国と距離的にはさほど変わらないヒューロック国で地下資源を得ることが出来れば多くの問題が解決されるだろう。

 

 「ですが吉野君、日本が更に魔族との戦争に深入りするのはいかがなものだろうか」


 「松岡さんの言っていることも分かります。しかし日本には石油が必要です。70年以上前、なぜ日本が戦争へと突入したのかを考えれば分かるはず!」


 「それは帝国主義時代の話だ! 今の世の中武力によって資源を得るなど国民が黙っていないでしょう!」


 「……2人ともその辺りで」


 新島の言葉に舌戦を繰り広げていた松岡と吉野は小さく頭を下げ互いに矛を収めた。


 「皆それぞれ考えがあるだろうが、私はヒュ―ロック国に自衛隊を派遣したいと考えている」


 「総理?!」


 「松岡さん、私も日本が戦争に巻き込まれたくはない。ただ日本が生き残るにはこの世界の国々と連携を図るほかにないんです。それにこれを見てください」


 新島は秘書に部屋を暗くするように伝えると、暗闇の中室内のプロジェクターにある画像を映し出させる。

 映し出されたものを目にした閣僚のからはどよめきが起こり、目を背ける者もいた。


 「松岡さん、これは魔族に襲撃されたヒュ―ロック国の兵士達です。魔族にとって人間は劣等種であり食料なんです。私は日本人、いや全ての人間をこのような無残な最期を迎えさせたくないんです」


 「これはひどすぎる……。こんなことが現実にあっていいのか」


 ある者は食われ、ある者は無防備の中殺される。

 無人偵察機によって収集された画像は魔族による千人規模の殺戮を鮮明に映し出していた。

 言葉を無くす松岡に同意するように吉野も腕を組み項垂れる。


 「私達は魔族の恐ろしさを本当には理解していなかったのかもしれませんね……。もしここでヒュ―ロック国を見捨てれば最後には日本国民がこのような目に合うかもしれない。その時私は自分を許せないかもしれませんよ……」


 「私もだ吉野君。松岡さん、これでもまだ反対でしょうか?」

 

 新島は画像を見つめたまま視線を動かさない松岡に尋ねた。


 「……正直に言えばやはり自衛隊を派遣することには慎重な立場です。ですがこのようなものを目にしてしまうと、私も考えを改める必要があるのかもしれないですね。この世界は我々の常識など通じないのだということを」


 「松岡さん……」


 「……分かりました、私も自衛隊を派遣することに賛成します。党内、それに野党への説明も任せてください。大部分の皆は分かってくれると思います」


 「ありがとうございます松岡さん!」


 新島は勢いよく松岡に頭を下げた。

 その姿に他の閣僚達も次々自衛隊の派遣に同意、ここにヒュ―ロック国救援のため自衛隊の派遣が決定したのだった。











 ヒュ―ロック国首都エリドス。

 その北部に広がる平野部での戦いは魔族の圧倒的優勢で決着するかに見えたが、突如現れた者達の介入により新たな局面に入っていた。


 「炎弾フレイムショット!! ……だめだ、全く効いていないぞ!!」


 「た、助けてくれ……、ぐあ!!!」


 「あいつら一体何者なんだ!!」


 魔族の攻撃を受けた巨大な箱のような物は依然として動き続け、炎を吐き続け次々と魔族を屠っていった。

 更に空では無敵に思われた翼竜ワイバーンがまるで虫のように落とされ、代わって異形の鳥が空を支配したのだ。

 魔族達が恐怖に支配されたそれらの存在。混乱に陥る魔族を前にしても彼らは攻撃の手を緩めることはなかった。


 「戦車部隊は張り切ってますね」


 「そりゃそうだろうよ。なんせ自衛隊にとっては今回が本格的な戦闘だからな」


 「イーグル隊、コブラ部隊も殆ど制空権を確保した模様です」


 「今の日本の状況を考えれば弾薬の使用は控えたいところだが相手が10万近い状況ではそうもいっていられない。全部隊に通達! 武器の使用制限を解除する。全力をもって敵を撃滅、ヒュ―ロック国を援護せよ」


 「了解!!」


 戦場を見渡せる丘の上に設置された指令部で指揮を執るのは山本翔やまもとしょう一等陸佐。

 権田川陸将より今回の作戦の全権を任されており、その指揮下には10式戦車13両、90式戦車10両、74式戦車30両を主戦力に装甲車、迫撃砲、自走砲を配備していた。

 その数合計1500名。他に航空自衛隊のF-2攻撃機の支援なども行われている。


 自衛隊の猛烈な反撃の中、日向は軽装甲機動車に乗りヒュ―ロック国軍の怪我人を収容していた。


 「それにしても凄い光景だな。これだけの火力は演習でも見たことがない」


 「そうですね。今回ばかりは魔族じゃなくて良かったっすよ。それにしてもまさかこんなにも早く自衛隊を派遣するとは……」


 運転を担当する野方三曹は笑みを浮かべる。

 先日、日本ではこのような非常事態に鑑みて日本国外での自衛隊の行動を大幅に緩和する法律が可決されていた。

 邦人の護衛、救出。敵対勢力との交戦の際、自衛隊からの先制攻撃を許するなど法律の中身は国内での論争を巻き起こしたが新島の統率力、議会への根回しなどが功を奏した形となった。

 国民も魔族というこれまでの常識の通じない未知の強大な存在を前に自衛隊の役割の大きさを理解する者が大半のため、最終的には今回の法律に賛同している。


 「ついこの前までは自衛隊に石を投げるような人もいたのに、人生何が起きるか分からないものだな」


 「ほんとっすね。……一尉! あれを!!」


 野方が目にしたものは額から血を流しながらも部下を救おうと動き回るバスカの姿だった。

 バスカも近づいてくる装甲車、そしてその中から降車した日向達に今回の謎の救援の正体を悟り、笑みを浮かべる。


 「やはり貴官達であったか」


 「バスカ殿、ご無事で何よりです」


 「なぁに、老人が運よく生き残ってしまっただけだ。私の指揮の下、多くの若い命を殺してしまった……」


 「何を仰いますか。あなたが無事で本当に良かった」


 日向の言葉に、バスカは深く頭を下げた。

 日向はバスカの存在を既に司令部に報告しており、防衛省からも後日ヒュ―ロック国との交易を結ぶ際バスカの存在の重要性から彼の保護が命じられていたため、野方達部下にバスカを戦場から退避させるように命じた。

 しかし、バスカは野方達の退避勧告に首を縦に振ることは無かった。


 「私はいい。部下を置いて逃げるわけにはいかないのでな」


 「しかし……」


 「それに見よヒュウガ殿。貴官達の攻撃で魔族共は壊滅しつつある」


 魔族達の頭上からは、多連装ロケット弾に120mm迫撃砲などの砲弾の雨が降り注いでおり次々と肉塊へと姿を変えていく。

 かろうじて攻撃を逃れ反撃を試みる牛人族ミノタウロスを始め頑健な肉体を持つ魔族も無反動砲や対物ライフルの餌食となり、既に魔族の戦線は崩壊しつつある。

 中には仲間を盾に逃亡を始めるものもおり、この機を好機と見たヒュ―ロック国の残存部隊が追撃を行い更に魔族は被害を拡大させていたのだった。


 「どうやら我らは勝ったようだな。これもヒュウガ殿、いや二ホンのお陰だ。何と礼を言えばいいものか」


 「頭をお上げください。我々はただ同じ人間として魔族の脅威から貴国に手を貸しただけです」


 「……そうか。しかしこれは中々高くつく買い物になりそうだな」


 「ハハハハッ、私は軍人です。そのことは後日しかるべき人物が伺いましょう」


 「クククッ、承知し」


 「人間どもがァァァァァァ!!!」

 

 日向とバスカが笑みを浮かべたまさにその瞬間、戦場をとてつもない咆哮が轟いた。

 その後大気を震わしながら現れた魔族の姿に戦場は不気味な静寂に包まれる。

 

 ついに現れた魔族、それは魔族十将の1人 ガムリだったのだ。

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