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6 ヒュ―ロック国の戦いⅠ

 日向達が出発して1週間後。

 調査を命じられた日向達はヒュ―ロック国国境すぐ近くまで到達している。

 

 「ヒュウガ殿、もうすぐヒュ―ロック国に到達します!」


 「分かりましたデイドさん」


 「それにしてもこの自動車というものは凄いですね。馬よりも早く乗り心地もいい。更に中の温度が一定に保たれるとはどういう魔法を使っているのですか??」


 「ハハハハッ、我々には魔法は使えませんよ。これは科学の力とでも言っておきましょうか」


 「科学……、話には聞きましたが魔法を使わずこのような事が出来るとは驚くばかりです」


 デイドはそう言うと前方へと視線を戻した。

 デイド・ルール。彼は日向達自衛隊と初めて接触したハナベル王国の兵士である。

 今回の調査を知ったハナベル王国国王グリアドは案内人として日向とも面識のあるデイドをへ派遣してきた。

 

 「一尉、前方500m先に何か見えます!」


 「……了解、全車両に速度を落とすように伝えろ」


 「了解!」


 日向、デイドの乗る軽装甲機動車を運転する野方三曹の言葉で続く2台の車両も速度を落とししばらくして停車した。

 日向達の目の前に現れたのは簡素ではあるが300m程ある谷間を塞ぐように城壁が築かれていた。


 「な、何者だ!? 奇怪なものに妙な服装……、貴様ら魔族だな!?」


 城壁からは騎馬に乗り装甲車から降りた日向達に槍先を向ける。

 ヒュ―ロック国は騎兵の運用に長けている国である。事前にそうのような情報を得ていた日向は兵士達が巧みに馬を操る様に妙に冷静に眺めていた。

 

 「待ってくれ! 我々はハナベル王国からやってきた者だ。私はハナベル王国の兵士デイド・ルール。彼らは日本国の方々だ」


 「日本……、ではあの魔族の襲撃からハナベル王国の王都を救ったという者達か?!」


 「そうだ。このヒュウガ殿は王都を救った自衛隊を指揮していた人、名前は知っているだろう?」


 「おぉ! そうであったか!!」


 デイドの言葉に、指揮官と思われる兵士は部下たちに槍を下ろすように指示し、自分は馬から降り日向達に非礼を詫びた。

 この光景に日向はこの調査に自分を派遣した陸将の言っていた意味を実感し、小さくため息を付くのだった。


 「お主がヒュウガ殿か。なるほど、確かに妙な服装に武器を持っているな」


 「ええ、私が日本国自衛隊、日向一等陸尉です。後ろにいるのは私の部下。今回は貴国にあると言われている燃える水というものを調査したくこの地に赴きました。詳しい話はこちらの方から」


 日向が振り返ると、スーツに身を包んだ女性が現れた。

 彼女は政府から派遣された外務官 南柄なつか裕美ゆみ。今回ヒュ―ロック国との交渉を任されている、といっても敵地に赴くことに及び腰だった他の外務官を尻目に自ら立候補した変わり者と言われている人物である。


 「私は南柄裕美と申します。今回は日本国と貴国との友好関係を結びたく伺いました」


 「ほう、このように美しい女性が大使とは、日本は興味深いな」


 「お褒めに預かり光栄です」


 「おっと、挨拶が遅れた。私はヒュ―ロック国の南方防衛の指揮を任されているバスカ・ネルダという。今回は歓迎させてもらおう……、と言いたいところだが」


 バスカはそこまで言うと言葉を飲み込んだが部下に命じ城門を開かせ日向達を迎え入れる様子を見せた。

 

 「これは何かありそうですね日向さん」


 「そうですね、万が一の場合は南柄さんの安全を第一に考えるように命令を受けています。その時は」


 「心配いりませんよ! あはははは、女は度胸です!」


 「そ、そうですか」


 日向は南柄の肝の太さに苦笑いを浮かべるが、すぐに部下に命じバスカの後に続き城門の中へと進むのだった。

 城門の中には谷間をそのまま要塞としており、多くの兵士に騎馬が日向達を驚きの眼差しで見つめていた。

 それも当然、この世界には自動車など初めて見るのだ。

 日向はバスカには悪い印象を抱いていない。ただ他の兵士達がそうとは限らない。

 そのため部下にはいつでも武器使用が可能なように密かに命じていた。


 「それでヒュウガ殿、貴官らは燃える水の調査に来たと言っていたな?」


 バスカは谷間をしばらく進むとひと際巨大な天幕の中に入り、続いて来た日向達に尋ねた。


 「はい、その通りです」


 「燃える水は国内で多く見つかっているが、あのような物どうして求めるのだ? 扱いも難しい、炎であれば魔法で事足りると思うのだが」


 「それについては私が説明いたします」


 日向の隣にいた南柄がバスカの問いに答える。


 「燃える水、それは我々の国で言う石油ではないかと考えています。石油はわが国では産業の根幹を成すもの、出来れば交易によって得ることが出来ればと思っているのです」


 「……なるほど、交易によってか。奪い取るとは言わないのだな」


 「我が国は戦争を望みません」


 南柄の言葉にバスカは彼女の目をジッと見つめた。

 バスカは司令官と言うにふさわしい風貌をしている。若くはないが頑健そうな体にその目は全てを見通すような眼光を放つ。

 そんな彼の視線に流石の南柄も頬を一筋、汗が伝った。


 「……分かった、貴官たちの目的はな。魔族の危険が迫るこの情勢で噂であっても魔族を撃退したという日本と繋がりを持てるのは良いこと。だがな」


 「なにか問題が……?」


 バスカが言葉に詰まると、周りにいる兵士達もどこか暗くなる。

 どうやら兵士達はバスカの考えていることが分かっているようだが、彼らは司令官がそのことを口にするまで誰も何も言おうとはしなかった。


 「うむ。実は今我がヒュ―ロック国は2つに分裂しているのだ。1つは連合派、これは魔族の脅威に他の国との連合を強化し対抗しようというもの。これには私も賛成している。もう1つは独立派、これは連合から抜け、独自に魔族と対抗しようというもの」


 「そのような事……、無理に決まっているではないか!! 魔族は一国でどうにか出来るような相手ではない!!」


 バスカの話に、魔族の脅威を身をもって味わっていたデイドが声を荒げた。


 「そのようなこと分かっている、我々軍人はな。だが今や独立派が政治の中枢を占め連合派は少数派になっている。私のように辺境地に飛ばされる者も多い」


 「そんな……。だがどう考えても単独で対抗など」


 バンッ! デイドの言葉を遮るようにバスカが目の前の机に拳を振り下ろす。


 「奴らは魔族に屈するつもりなのだ! 今でも裏では身寄りのない女子供を魔族に引き渡していると聞く。あの畜生どもめ、さしずめ魔族共に命を助けてやるとでも言われたのだろうが、少し考えれば魔族が約束を守る訳がないことは分かるであろうに」


 「……恐怖は人間から正常な判断力を失わせるものです」


 南柄の言葉に、バスカも小さく頷くと日向達に視線を戻した。


 「という事情だ。恐らくだが政府が貴国との交易を行うとは思えない。今日はこの地でゆっくりと休み、明日すぐに去るが良い。いつ奴らの手の者が貴官らに気づくとも限らないのでな」


 バスカの言葉に日向を始めその場にいた者は何も言えないでいた。

 今回の目的はあくまで石油の調査。自衛官も最低限の20名ほどしか連れてきていない。

 トラックの中には多少の武器弾薬はあるがそれではどうにもならないだろう。

 それ以前にバスカの話が本当ならこれは内紛、そこへ自衛隊が介入する訳にはいかなかった。


 「南柄さん、これは流石にどうにもなりませんね」


 「……ですね、でも私個人で言えばこのままにしておくことは出来ないというのが本音ですが」


 「それは自分もです。魔族に人間を売り渡すなんて、考えただけでも腸が煮えくり返る思いですよ。でも」


 「バスカ様!!! 大変です!!!!」


 その時、天幕の中に1人の兵士が飛び込んできた。

 彼の鎧はバスカ達が身に着けている形とは少し違っている。


 「その鎧、お前は北方防衛隊だな?? 何故このような所に」


 「報告します!! 今から4日前、魔族の大軍10万がブルーリア川を渡河、北方防衛隊と交戦しました!」


 「な、何だと!? それで防衛隊は……」


 兵士はバスカの問いに言葉を詰まる。

 これが意味するのはただ一つ。


 「……全滅か」


 「……はい」


 防衛隊はヒュ―ロック国でも精鋭3000。魔法を使える者も多くいた。

 それでも10万の魔族では多勢に無勢。

 バスカは防衛隊の全滅と言う報告にすぐに部下たちに命令を下した。


 「直ちに北へと向かう! 全軍準備を整えよ!! 都まで到達するのは我らの方が早い。すぐに出発だ」


 『はっ!!!』


 バスカの言葉に兵士達は慌ただしく動き始める。

 この地にいる兵士は2000名。普通に考えれば勝てるはずがない。

 だが政府の中枢が魔族に繋がっている可能性が高い現在、下手をすればすべての国民が魔族に売り渡される可能性がある。

 そのことが兵士達。そしてバスカの体を動かしていた。


 「すまぬなヒュウガ殿、ナツカ殿。貴官らはすぐにでもこの地を去ることだ。道中の安全を願っている」


 バスカはそう言うと天幕を後にしていった。


 「日向さん、これは」


 「魔族が何かを開始したということでしょうね」


 日向はそこで遠藤の言葉を思い出した。

 大陸北部で魔族の大規模な動きを確認した。しかしすぐに動きがあるとは思えないだろう。

 

 「全く、適当に言いやがったなあの野郎」


 遠藤の言葉に苦笑いを浮かべる日向の元に、部下の1人が近づいてきた。

 

 「一尉、司令部から無線が入っています」


 「司令部から?」


 「ええ、何でも魔族の動きに対することだとか」


 そこまで聞くと日向はニヤリと笑い、南柄を部下に任せ無線のある車両へと向かうため天幕を後にするのだった。



 


 


 



  

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