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4 王都を守りましょう!

 ハナベル王国王都ブルリリア。

 王城を脱出した日向達自衛官、そして外交官の轟は夜の空を舞う大きな影を上空に見ることが出来た。

 それは彼らがそれまで見たことも無い、大きな翼に細身ながらもその表皮は金属のように月明かりを反射し、口からいくつもの炎の球を王都へと吐き出している、まさに神話に出てくるドラゴンのような姿をしていたのだ。


 日向もこの世界に来てから、その存在を考えていなかった訳ではなかった。

 ただ実際目にした今、ただただ美しくも感じられるドラゴンの姿に目を離せないでいた。


 しかしそれも、自分達の側にやってきたハナベル王国国王グリアド・ハナベルの言葉で正気に戻る。


 「ヒュウガ殿、トドロキ殿、無事だったか」


 「……陛下もご無事で何よりです。それよりもこの騒ぎはあれが?」


 「その様だ。……クソッ、魔族どもめ! まさかこの王都まで攻めてくるとはな」


 グリアドは日向が指差した先で空を舞うドラゴンの群れに怒りをあらわにする。

 そして側にいた鎧を着ている兵士にすぐさま命令を伝えた。


 「直ちに空の守護エア・ガードに出撃を命じよ! このまま奴らの好きにさせてたまるか!」


 「お、お待ちください陛下! 空の守護エア・ガードは我が国でも最高の戦力。しかしグリフォンでは翼竜ワイバーンには到底太刀打ちできません!!」


 「ではこのまま何もせずに見ていろと言うのか!? よいから出撃を命じるのだ!!」


 「りょ、了解いたしました!」


 兵士はグリアドのあまりの剣幕に、すぐさま命令を伝えるためその場を離れようと動き出す。

 だがその瞬間、グリアドの背後にいる日向が口を開いた。


 「……陛下、少しお聞きしても構いませんか?」


 「な、なんだヒュウガ殿?」


 「あれは翼竜ワイバーンという生き物だそうですが、先ほどのお話を聞いていると王国の戦力では太刀打ちできないそうですが……」


 「うむ……」


 グリアドは日向の言葉で少し落ち着きを取り戻してきたのか、立ち去ろうとする兵士に待つように伝えると、日向達へと振り返り話を続ける。


 「翼竜ワイバーンは魔族共が使用する航空戦力でな、その体は鉄よりも固い鱗に覆われ、爪は盾や鎧を簡単に切り裂き、口から吐き出す炎は人間などあっという間に消し炭にしてしまうと言われている」


 「なるほど……」


 「対して我らの航空戦力はグリフォンだ。こちらの世界では空で敵なしの彼らも翼竜ワイバーンには勝つことは出来ない。だが、それでも何もせぬよりはマシというものだ」


 つまり、あの翼竜ワイバーンを何とかしないと、この混乱は収まらないということか。

 

 日向はグリアドの言葉にしばらく考えた後、隣にいる轟へと視線を移した。

 その視線が意味することを、轟も予想していたのか笑みを浮かべ小さく頷く。


 「日向一尉、あなたが考えていることは分かります。正式に同盟を結んでいない現状では本当は止めるべきなのですが、今は人命がかかっています。本国には私から上手く説明をしておきますよ」


 「ありがとうございます轟さん!」


 「いえいえ、こういうことも私の仕事ですから」


 日向は轟に敬礼を行うと、側にいた部下2名に視線を移した。


 「……これよりヘナベル王国を襲撃した敵戦力を迎撃する」


 『了解しました!』


 「よし、すぐに王都外に待機中の奴らに連絡だ」


 日向は部下にそう命じると、王城外に待機させてある軽装甲自動車へと戻るため未だ逃げまどう人々の多くいる城門へと走っていく。

 護衛の部下1名と残された轟は、そんな日向の後姿を笑みを浮かべ見つめていた。


 「はぁ……、いくら武器使用が認められたとはいえ、これはマズいかもなぁ……。減給で済めば……、いやそれはないか」


 「何か仰いましたか??」


 「いや、何でもありませんよ。それより無線をお持ちですか? このこと、早く本国に伝えなければなりませんので……」


 轟は護衛の自衛官に笑みを浮かべ答えると、もう一度空を舞う翼竜ワイバーンの群れへと視線を向けるのだった。













 王都ブルリリア上空。

 そこには王城へといくつもの炎の球を吐き出す翼竜ワイバーン、そしてその背には豚頭族オーク達が燃え盛る王城を見つめ笑い声を上げている。


 「ガハハハハハッ、派手に燃えてやがるぜ!!」


 「全くだ! これで魔王様も喜ばれるはずだ」


 「それにしても人間どもは反撃もろくにしてこないのか? これじゃあいくら何でも張り合いがなさすぎるだろうが!!」


 「お前ら、あまり調子に乗るなよ? 舐めてるとこの前の牛人族ミノタウロスと同じ目に合うとも限らないからな」


 豚頭族オーク達は、先頭を進む翼竜ワイバーンを操る彼らよりも巨躯な豚頭族オークの言葉に笑うのをやめる。

 彼はこの翼竜ワイバーン隊を率いる上位豚頭族ハイ・オークであり、他の豚頭族オークよりも力が強く、また知能も高い。


 そのため先日人間の砦を攻めたが全滅した牛人族ミノタウロスの部隊を思い出し、常に警戒を怠ることは無かったのだ。


 「……逃げて来た小鬼ゴブリンの話だと、何やら妙な力を使う人間どもがいるみたいだ」


 「た、隊長は心配し過ぎなんですよ。人間なんて、豚頭族オークの半分の力もないのに……」


 「ああ、確かにそうだがな。しかし牛人族ミノタウロスがやられたのは事実、あまり油断するのも……、な、なんだ?!」


 上位豚頭族ハイ・オークは部下の言葉に答えつつも、前方からこちらへと向かってくる火の玉の様なものを視認。

 だがそれは彼が今まで感じたこともない程の速度で飛来し、次の瞬間には後方の翼竜ワイバーンへと命中、大爆発を引き起こし、部下共々翼竜ワイバーンを文字通り粉々にしたのだった。


 「な、何がおきたんだ!!」


 「クソ、1人やられたぞ!!」


 「……また来やがった!!」


 仲間がやられたことでパニックに陥る豚頭族オーク達。

 そんな彼らに追い打ちをかけるが如く、地上から再び3発の火の玉が発射されたかと思うとそれらは次々と翼竜ワイバーンに命中。

 何とか逃れようと豚頭族オーク翼竜ワイバーンを操り進路を変更したが、火の玉は彼らを正確に追尾するため逃れることは出来なかった。


 「こ、こいつは一体……」


 上位豚頭族ハイ・オークは次々と撃ち落とされる部下の姿に激し怒りを感じるも、同時に得体の知らない恐怖が全身を支配していくのを感じる。


 ま、まさかあれが牛人族ミノタウロスをやったという奴らか??

 しかし、後を追いかけてくる火の玉、翼竜ワイバーンを一撃で粉砕する破壊力。

 こんなものが存在するなんて……。


 そう考えつつ、上位豚頭族ハイ・オークは4体減り、15体になった部下達へと視線を移す。

 あれほどの威力、こちらに勝ち目は薄いかもしれない。そうなる前に退却を……。

 だが、上位豚頭族ハイ・オークが決断に迷っていたその僅かな時間で、地上から新たな火の玉が発射された。


 ダダダダダダッ!!!

 しかし先ほどとは違い、次に発射されたものは爆音を轟かせ、小さな火の球が次々と連続して発射されたのだ。


 「ぐあっ!!」


 「た、隊長ぉぉぉ!!」


 「助けてくれ……、がぁ!!」


 次々と命中し、翼竜ワイバーンは翼を貫き肉を抉る火の球は、正確に翼竜ワイバーンを撃ち落としていく。

 そして気づいた時には、上位豚頭族ハイ・オークの周りに部下は一人もおらず、自分だけが空を舞っていた。

 だがそれもすぐに終わりを迎える。

 何故なら既に自分へと向かい、無数の火の球が発射されていたのだ。


 「ギィィィィ!!」


 「ク、クソ人間どもがぁぁぁあ!!」


 攻撃を受け、落下する翼竜ワイバーン

 その背にしがみつく上位豚頭族ハイ・オークは怒りで顔を歪ませながら、王都のすぐそばにある川へと落下、大きな水柱が立ち上がった。




 「……1体川に落ちたぞ!!」


 しばらくすると、上位豚頭族ハイ・オークが落下した川の周囲には暗視ゴーグルを装着した自衛隊員達が小銃を構え姿を見せる。

 これは上位豚頭族ハイ・オークの死亡を確認するためだったのだが、既に川の中に上位豚頭族ハイ・オークの姿はなく、自衛隊員達を機の影から伺っていた。


 「はぁ、はぁ……、奴らは何者だ? まさか翼竜ワイバーンが全滅させられるとは……」


 このこと、早く魔王様に伝えなければ……

 暗闇に紛れて脱出を……。


 だがそこで上位豚頭族ハイ・オークは後頭部に冷たい感触を覚える。


 「動くな。少しでも動くと頭が吹き飛ぶぞ?」


 「……チッ、見つかったか。よくこの暗闇で俺の姿を見つけるとが出来たな」


 「……動こうなと言っただろう」


 上位豚頭族ハイ・オークの後頭部に銃を突きつける自衛隊員は、更に銃を押し付け動かないよ口を開く。

 しかし、上位豚頭族ハイ・オークはその制止を無視し自衛隊員へと振り返ると彼の首を掴み軽々と持ち上げたのだ。


 「ぐっ、は、離しやがれ……」


 「お前には聞きたいことがある。人質としても使えそうだしな」


 「だ、誰が人質になんて……」


 「おい! その手を離せクソ野郎!!」


 上位豚頭族ハイ・オークはまだ威勢のいい返事をする自衛隊員に笑みを浮かべるが、次の瞬間には周囲から浴びせられた強い光で視界が歪む。

 だが徐々に視界が戻るにつれ、自衛隊によって自分の周りが取り囲まれていることを理解したのだった。


 「……俺から離れろ!! こいつがどうなってもいいのか??」


 「ぐっ……」


 上位豚頭族ハイ・オークが自衛隊員を掴む右手に力を込めたため、自衛隊員の顔が苦痛で歪む。

 その姿に周りを取り囲む自衛隊員達も手が出せないでいると、上位豚頭族ハイ・オークは大きく笑い声を上げた。


 「ハハハハハハッ、お前らは確かに強い。だが甘いな。1人の為に全員が危険になるかもしれないというのに、誰も攻撃してこないとは」


 「……それは少し違うな」


 「な、なんだと??」


 「俺達は仲間を見捨てない。だがそれはお前を逃がすということではない!」


 「どういうことだ!!」

 

 「……こういうことだ」


 上位豚頭族ハイ・オークは自分の前まで歩み出た男に声を荒げる。

 だがその瞬間、辺りに一発の銃声が響き渡ると同時に上位豚頭族ハイ・オークの眉間には銃弾がめり込み後方へと倒れ込むのだった。


 「……い、ったい、なに、が」


 「驚いたな、まだ息があるのか」


 「お、お、まえらは、なにも、のだ……」


 上位豚頭族ハイ・オークはそこで意識を永遠に失った。

 そして先ほどの男性が上位豚頭族ハイ・オークの側まで近寄ると、頭を隠していたマスクを取りそれを上位豚頭族ハイ・オークへと放り投げた。


 「俺達は、自衛隊だ」


 顔を見せた日向は、笑みを浮かべる答えると、捕まっていた自衛隊員に肩を貸しその場を離れていくのだった。

 

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