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3 日本と新大陸!

 外交官がハナベル王国を訪れる二日前。 


 ハナベル王国のある大陸東部よりさらに東。

 果てしなく続く海の上には、それまで何もなかったはずの場所に無数の島々が現れていた。

 

 これこそ、一週間前に突如としてこの世界へと飛ばされた国、日本である。


 日本の首都、東京。

 多くの記者が取り囲んでいる建物、首相官邸内では連日閣僚たちがこの事態に対処するため会議を行っている。


 「……よし、では次の議題だ。波多野君、頼む」


 「分かりました総理」


 日本国首相 新島にいじま孝信たかのぶは、自分と同じ60代の男性へと視線を向ける。

 その言葉で立ち上がった波多野はたの智明ともあき農林水産大臣は、居並ぶ閣僚たちの視線を浴びながら、手元の資料へと目を向け、会議室のプロジェクターで映し出される映像と共に説明を始めた。


 「皆さんご存知の通り、我々の置かれている状況は最悪のものと言っていいでしょう。10日前、日本は突如各国との通信が途絶、いや、衛星からの映像により、日本以外の国が地球上から姿を消したと言った方がいいでしょうね。そのため食料や石油などの資源を輸入できなくなりました」


 波多野は映像を切り替え、衛星からの写真を映し出す。

 そこには他の大陸、島々が消え去り、広い地球上に日本の姿だけが浮かんでいたのだ。

 

 その写真を閣僚たちは既に目にしていた。

 しかし、それでもこの写真は彼らから言葉を失わせるほどの力を持っている。


 波多野は誰も一言も発さない閣僚たちの姿に、しばらくしてから次の写真を映し出すのだった。


 「そしてこれがその翌日の写真です」


 『おぉぉぉ……』


 波多野が映し出した写真。

 そこには日本の東側に大きな新大陸が出現していた。

 大きさで言えばユーラシア大陸ほどであろうか。 

 これには数人の閣僚以外は初めて目にする衛星写真だったことから、閣僚達からは小さな声が漏れていく。


「これらの事から、日本ではなく、日本以外の大陸がこの大陸と入れ替わってしまった、そう推察いたします」


 波多野がそう言い終えると、正面の席に座る男性が手をあげ口を開いた。


 「ふむ……、話は分かりました。ですが波多野さん、そうなるとやはり食料、石油の輸入は不可能なのでは? 石油はまだ備蓄がありますが、食料はそうはいかない。日本には国民を養えるだけの食べ物を生産する力は現時点ではないのです」


 「ご懸念、最もです吉野さん。ですが既にその点については話がまとまっております。総理、お願いします」


 「分かった」


 波多野が吉野よしの経済産業大臣の言葉で新島首相へと視線を向けると。新島首相は各自に配られている資料に目を向けるよう閣僚達に促した。


 資料の内容は、ハナベル王国からの返答であり、そこには日本が望む食料の輸出を認める旨が記載されていた。


 「これは本当ですか、総理!?」


 「ああ。1週間前、大陸の偵察に出た自衛隊の偵察隊が大陸東部で現地の人達と接触、更に交戦を行った」


 「な、なんと! では日本は戦争に……」


 「大丈夫ですよ吉野さん。自衛隊が攻撃を行ったのは、あくまで先ほど総理が言ったハナベル王国の兵士を救うためです。それに相手は人間ではありませんから……」


 「ど、どういうことです榊さん! 詳しく教えていただけますか?」


 「……榊君、皆に説明をしてくれ」


 「分かりました総理」


 吉野の隣に座っていたさかき優一ゆういち防衛大臣は、首相の言葉で立ち上がり持ってきていたUSBをプロジェクターに繋がるパソコンへと差し込む。


 するとしばらくして数枚の写真が映し出される。

 それは閣僚達、いや、以前の世界では誰も見ることのなかった異形の姿をした生き物の死体が映し出されたのだ。


 「ご覧の通り、自衛隊が発砲した相手は人間ではない。保護したハナベル王国の兵士によるとこれらは小鬼ゴブリン、そして牛人族ミノタウロスと呼ばれる魔族というものらしい」


 「小鬼ゴブリン?? そんなおとぎ話に出てくるような生き物が実在するというのか??」


 榊の言葉に、吉野は苦笑いを浮かべ答える。

 ただこのような反応は吉野だけでなく、他の閣僚達も同様であるが……。


 「その通りです吉野さん。防衛省もすぐさま衛星を使い、広範囲の偵察を行いました。すると大陸の南側は人間が多く住んでいますが、北方には先ほどお見せした生き物と同様の者達の姿を捉えることが出来たのです」


 「つ、つまり、日本は突如別の世界に来たばかりか、訳の分からない者達と争う可能性があると??」


 「まぁ、波多野さんの言葉を借りればこの世界に来た、と言うよりは、元の国々があの大陸と入れ替わってしまったということですけどね」


 「……なんだか頭が痛くなってきましたよ」


 吉野は笑みを浮かべ答える榊の言葉に頭を抱え。、目の前の机に項垂れた。

 だが、笑みを浮かべていた榊も楽観視している訳ではない。


 これから起きるであろう可能性を首相に伝えるのだった。


 「総理、恐らくですがハナベル王国、いえこの世界の人間は彼らと戦いのさなかではないかと。それゆえ、返答に記載されている4番目の項目を入れたのでは?」


 「……日本と軍事同盟を結ぶ、だな?」


 「はい。もしハナベル王国と友好を結べば、必ず戦いに巻き込まれるでしょう。ですが彼らと組まねば日本は時期に干上がり、国民は飢えに苦しむことになるかもしれません」


 「……どちらを取ってもリスクはあるということか」


 新島首相は腕を組み、腰かける椅子の背もたれに体重をかける。

 この事態に陥ってからというもの、パニックを起こした国民が暴徒化し、それを鎮めるために政府は非常事態宣言を発動。

 自衛隊と警察が出動したことでなんとかいつもの日常を取り戻すことに成功していた。


 それでもマスコミ各社は自衛隊による暴徒鎮圧を騒ぎ立て、連日のように首相官邸を取り囲んでいるのだ。

 この国のメディアと言うのはいつも政府の足を引っ張ることしか考えていない。

 戦いに巻き込まれたとなってはまた、何か書かれるのだろう。


 そう考えながらも、国民の生活のためにはハナベル王国からの食料を手に入れることが必要なのは分かっている新島首相は、小さく息を吐くと閣僚達へと口を開くのだった。


 「……致し方ない。今は目の前に迫っている食糧危機を解決することが第一。ハナベル王国の要望は出来る限り飲むしかないだろうな」


 「そうですね。その他にも地下資源をどうするかという課題もあります。そのためにもハナベル王国と国交を結び、新大陸内の地質調査を行う必要があるでしょうね」


 「その通りだ。なに、食料や石油の事となればマスコミも表立っては反対しないだろう。皆、大変だろうがよろしく頼むぞ」


 新島首相の言葉に、周りの閣僚たちは同時に頷いた。


 こうしてこの日、政府はハナベル王国との国交を承諾。

 その足固めとして彼らが求めていた大使の代わりに外務省で各国と数々の交渉を行ってきた、轟直人を特別外交官として派遣することが決定したのだった。















 ハナベル王国王都。

 轟が到着したその日の夜、王城では彼をもてなすためささやかな宴会が催されていた。


 「轟殿、楽しいんでいるか?」


 「はい陛下。このように盛大な宴会は、私も初めてです」


 「ハハハハハッ、そうか! 貴殿は大事な客人だからな、もっと豪勢に行おうと思ったのだが、今はそうも言っておれん状況でな」


 「いえいえ、十分ですよ。お気遣い感謝いたします」


 轟は、ハナベル王国国王 グリアド・ハナベルにア頭を下げ答えた。

 その姿に満足したのか、ハナベルは笑みを浮かべ轟の肩を叩き、広間の中央で踊っている踊り子たちへと向かいその場を離れていく。


 残された轟は、護衛のスーツ姿の自衛官達と食事の続きを口へと運ぶが、彼らの目的は宴会に招かれることではない。

 ハナベル王国の実情を探ることも、隠された任務なのである。


 「……轟さん。政府が予想してたよりも、この国の現状は厳しいものかもしれませんね」


 「あなたもそう思いますか日向一尉。確かに宴は豪華ですが、周りの人の私達を見る目は、歓迎しているとは言えませんね。これだけ警戒されているとなると、予想通り、この国は戦争状態なのかもしれません」


 「そうですね……」


 「それにこの建物や彼らが来ている服などから、この国の文明レベルは中世から近世のヨーロッパと中東を混ぜ合わせた、と言ったところでしょうね」


 「へぇ! 轟さんは歴史に詳しいんですね!」


 「いやいや、そんなことは無いですよ。ただ、職業柄各国の歴史を学んでいて損することは無いので、いつの間にか詳しくなってしまって……、ハハハハ」


 日向は轟に、今までいくつもの国々を相手に戦ってきたエリートの外交官、そんなイメージを抱いていたが、申し訳なさそうに笑みを浮かべる轟の姿に好感を覚えずにはいられなかった。


 これこそ相手のいる交渉では、有利に運ぶために必要不可欠な要素なのかもしれない。

 

 だが、日向がそう思ったのも束の間、突如大きな揺れが王城を襲うと、天井につられていた豪華な飾りが落下し数人の男女が下敷きになる。

 一瞬辺り覆う静寂。

 次の瞬間にはパニックに陥った人々が一斉に逃げまどい、広間内は文字通り大混乱へなっていった。


 「だ、大丈夫ですか轟さん!?」


 「私は大丈夫です! でもさっきの揺れは一体……」


 「王都の外で待機している部下達なら何か分かるかもしれません。すぐに確認を取ります!」


 人混みを押しのけ何とか離れてしまった轟の元へ戻ることの出来た日向達は、持ってきていた無線で連絡を取り始める。

 だが耳に装着したイヤホンから聞こえる部下の返答は、日向の想定外のものだった。


 「……無数の飛翔体? 一体何が飛んでいるんだ、送れ」


 「ザッ……、それは我々にも分かりません、ですが形状から巨大な鳥、あるいはそれに準ずるものかと。送れ」


 「そんなものが……。分かった、我々もすぐにここを離れる。お前はすぐに本国にこのことを伝え指示を仰げ。送れ」


 「……了解、通信終わり」


 一体何が起きているんだ……。


 日向は部下からの報告を受け取るも、今まで経験したことのない出来事に頭の中を整理しきれない。

 だが轟は日本とハナベル王国をつなぐ大事な外交官。

 日向はすぐに気を取り直すと、連れてきていた2名の部下に命じ通路を確保。

 轟を連れ、広間内からの脱出を試みるのだった。


 

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