2 接触!
ハナベル王国王都 ブルリリア。
人間達の領域である大陸南部、その東部に広がる広大な平地を領土とするこの国の主産業は農業であり、魔族が攻めてくる以前はそこまで国力のある国とは言えなかった。
しかしいまや、北方の国々が軒並み魔族に蹂躙されたため、ハナベル王国には亡命者が数えきれないほど雪崩れ込んだ。
そのため北方から逃れて来た多くの人間達によって、量的にも質的にも王都はこれまでにない程の賑わいを見せている。
王都の中央にそびえたつ巨大な建造物。
ハナベル王国の王城であるそこでは、1週間前に突如現れた国、日本についてハナベル王国国王 グリアド・ハナベルが貴族達を集め話し合いを進めていた。
「それで、日本はなんと言ってきているのだ?」
「はい、それについてはお手元の資料を参照していただけますでしょうか?」
「これか?」
円卓に集まった貴族達。その中で皆に説明を行う男性に促されたようにグリアドは、口元の髭を触りながら手元の資料へと視線を向けた。
「ふむ……。日本というのは不思議な国だな。あらかじめ提出されたものを信用するなら、国民が1億人を超えているというのに国土は我らの5分の1しかない。これでは国民たちを養え切れんだろう」
「その通りです陛下。ですから日本はまず我が国に食料を輸出できないかと要請してきています。しかも小麦だけで年500万tも」
「ご、500万tだと?? そんなに必要なのか?!」
グリアドは、男性の言葉につい声を荒げてしまう。
それは円卓を囲む他の貴族達も同じであり、中にはその様な物は受け入れる必要はないという者まで現れる。
だが、男性はそんな言葉は耳に入らないかのように淡々と話を続けるのだった。
「お静まりください陛下。確かにこの数字はあまりに多い、しかも、日本は他にも多くの穀物の輸出を望んでいるのです」
「……うーん、しかしなぁ。いかに我が国が農業大国と言ってもこれほどの量は無理ではないか??」
「いえ、計算しましたところ現在でも小麦400万tまでなら輸出可能。来年以降は使われていない農地を全て使用すれば難しくない数字であるかと……」
おぉぉぉぉ……。 男性の言葉に、貴族達から声が漏れる。
だが、それほどまでする必要があるのか? 日本という国、まだまだ謎が多い……。
そう考えるグリアドは、手に持っていた資料を円卓の上へ戻すと男性にゆっくりと尋ねた。
「……話は分かった。だが、我らも魔族と対峙し亡命者はこれからも増えるだろう。そうなれば食料は大いに越したことは無い。そこまで日本と言う国にしてやる必要があるのか??」
「……私も最初はそう思っておりました。ですが昨日、ある男から話を聞き、考えが決しました。日本と友好関係を結ぶべきであると!」
「……ある男とは?」
「……彼をここへ」
男性は、部屋に一つだけある巨大な扉、その前に立つ兵士に視線を向ける。
その合図で兵兵士が扉を開くと、部屋の中へ一人の男性が入り貴族達の視線は彼へと集中した。
この男性こそ、初めて日本と接触したデイド・ルールである。
「彼は日本の力をその目で見ています。陛下も彼を届けるために一週間前に飛来した、あの鉄の籠を目にしたはず! 彼らの力は我らの遥か先を行っているのです!」
「私も同感です。日本の軍、自衛隊と申していましたが、彼らが持っている杖は連続して高速の弾丸を撃ちだし100体以上の小鬼をたったの4人で全滅させました。しかもさらに大きな筒状の棒は、一撃であの牛人族を吹き飛ばしたのです!」
デイドは、グリアド達の前で話を続ける男性に言葉を重ねる。
彼らの言葉にグリアドも、思わず体を前のめりにしその言葉に耳を傾けていた。
確かに資料にはそのように記載されている。
日本と言う国は我らの世界とは別の世界からやってきた……、これは流石に信じがたいが、偵察隊の報告から前線の砦で小鬼と牛人族が死んでいたのは確かだ。
グリアドはこの国を守るべき国王。
何が国民の命を守り、何が王国を滅亡に導くのかを選択する必要があり、今回は日本と友好関係を結ぶことこそが王国を守る道である。
そう結論を出したデイドは、大きく息を吐くと居並ぶ貴族達へと口を開いた。
「……私はまだまだ未熟者。もしかすると間違った判断をすることもあるかもしれない。ただ、今回ばかりは道は一つしかないようだ……。我がハナベル王国は、日本と友好関係を結び、迫る魔族の脅威に対処する!!」
『はっ!!!』
デイドの言葉に、貴族達は同時に返答し立ち上がると、左胸に手を当て頭を下げる。
こうして、この会議で決定した
1、ハナベル王国は日本の要望に応じ、小麦を始めとする穀物などの食料の輸出を認める。
2、その見返りとして、日本はハナベル王国に金、あるいはそれに準ずる鉱物。もしくは輸出物と同等の価値の物をハナベル王国に提供すること。
3、双方速やかに大使を送り、これからの関係について会談を行うこと。
4、日本はと軍事同盟を結ぶこと。
さらに細かな事を含めると30を超えるが、大まかにはこの4つの項目を直ちに日本へと打診。
王都近くに待機していた自衛隊によって、これらは日本へと速やかに伝えられるのだった。
数日後。
グリアド他、貴族数名は王都近くの自衛隊の設営した野営地に赴いている。
これは先日打診した要望に応え、日本から大使を送る旨が伝えられたためであるが、この場にグリアドが赴いたのには他の理由もあった。
グリアドは報告書にあった自衛隊の力を本気で信じてはいない。
100体以上の小鬼を全滅させた杖に、牛人族を打ち倒した筒状の棒。
そのような物がある訳がない! 恐らく日本は我らとは違う高度な魔法を使っている。
そう考えことの真偽を確かめようと自ら赴いたグリアドであったが、そこで目にしたものは彼の想像をはるかに超えるものだった。
人が楽に20人は入りそうな以前目の当たりにした鉄の籠。兵士達の訓練なのか、時折聞こえる連続した爆発音。さらには馬に轢かれていないのに、勝手にしかも高速で移動する荷車の様なもの。
これだけでもグリアド、いや共に来ていた貴族とその護衛の兵士達から言葉を失わせるには十分だった。
だが、しばらくしてこの部隊の隊長 日向大地に連れられ向かった先で見たものはまさに想像を絶するものだったのだ。
「……ようやく来ましたね。皆さん、危ないので少し下がってください」
「あ、あれは何なのだ!? ヒュウガ殿!!」
「あれはV-22オスプレイと呼ばれるものです。先ほどお見せしたCH-47と同じく輸送を目的としたものですが、こちらは速度も航続距離も段違いです。それにほら、よく見ていてください」
「……な、なんと! 何やら翼とやらで回っている物の向きが変わっていくではないか! それに先ほどまでとは違い、空中に留まっている……」
グリアドは、日向の指差した方向に現れたV-22の速度に更に言葉を失った様子だったが、それほどの速度で飛行していたV-22の翼の向きが徐々に変更され、いつの間にかプロペラが上方向になりその場でホバリングを始める姿に度肝を抜かれてしまう。
だがそんなグリアドはをよそに、V-22はゆっくりと降下を開始し、猛烈な風を巻き起こしながら地上へと降り立った。
そして、その後部が開くとそこから日向と同様の服装と装備を身に着けた男達が出て来たかと思うと、彼らとは違う黒い服に身を包みんだ男性が、彼らに守られる形でグリアドへと近づいてくるのだった。
長身痩躯、しかしどこか知性を感じさせるその男性は、グリアドの前まで到着すると笑みを浮かべ後、頭を下げる。
「遅くなりました。私は日本国外務省、特別外交官を拝命した、轟直人と申します。貴国との友好関係はわが国にとって急務、何卒よろしくお願いいたします」
「……なるほど。私はハナベル王国国王 グリアド・ハナベルだ。我らも貴国との友好を望んでいる」
「ありがとうございます陛下。そこでこれはお近づきの印なのですが、わが国を知っていただくためわが国の工芸品などをお贈りいたします」
「ほう、日本の……」
轟はグリアドの言葉に小さく頷くと、護衛の自衛隊員が運んできた台車の上に並べられている工芸品をグリアドへと見せる。
そこには陶器、日本刀、織物などの伝統的な物から、パソコンなどの電化製遺品が並べられていた。
前者に似たものはグリアドでも目にしたことがある。
だが、後者の電化製品は初めて目にするものばかりであり、轟から説明を受ける過程で撮影された自分の写真には驚きを隠せなかった。
「これは……、いや、どうやら私は貴国を侮っていたようだ。このような物、我が国では到底作るころは出来ないだろう」
「お褒めに預かり光栄です。他にも我が国には様々な物がありますので、是非とも陛下にもお越しいた抱きたいものです」
「ハハハハハッ、それは楽しみだな! いずれお邪魔することにしよう。では立ち話もなんだ、次は我が国を案内すること致そう」
自分の想像以上の力を持っている日本。
そのことに満足げに笑みを浮かべるグリアドは、轟を用意した馬車へと案内すると、王都へと向かい出発するのだった。