第59話 空間収納炸裂
「シロー君。君は私の古い知人ということにしてある。冒険者たちと会話をしなければ、君と気づく者はいないはずだ」
俺はギルドマスターのバッシュさんが用意してくれた外套に身を包み、フードを目深に被る。
念には念を入れて顔半分を隠す仮面までつけているから、よほどのことがない限り俺とバレることはないだろう、とのことだった。
ローブを目深に被った仮面の男。
どう見ても中二病患者です。ありがとうございました。
まさか、二五歳にもなって黒歴史が更新されるとは思わなかったぞ。
「にしし。シロー似合ってるんだにゃ」
「やめてくださいキキさん」
「だっはっは。魔術師っぽいぜあんちゃんよ」
「ライヤーさんもやめてくれぇ」
「お二人とも、シロー殿ではなく、『仮面卿』ですよ」
ロルフさんが、小声で二人を窘める。
「…………『仮面卿』の正体がバレたら大変。そのことを二人はもっと用心しないとダメ」
「へいへい」
「わかったにゃあ」
ニノリッチを出発して半日。
徒歩で森を進む俺は、蒼い閃光の四人に囲まれていた。
空間収納のスキルを持っている重要人物の護衛、というのが表向きの理由。
本当は『シロー商店』の店主だとバレないよう、蒼い閃光がフォローするためだ。
蒼い閃光以外の冒険者は、ギルドマスター命令で必要な場合を除き、俺と会話することを禁じられているため話しかけてくる者はいない。
チラチラと見てくる人は多いけれど、俺の正体が誰なのか探りを入れてくる冒険者はいなかった。
それだけ空間収納のスキルを持った者が、貴重なことを理解しているのだろう。
休憩を挟みながら、森を進んでいく。
時にモンスターの群れと遭遇したり、時に体力が尽きた俺をライヤーさんがおぶったりと、まずまず順調に森を進むこと三日。
ついに拠点の建設予定地へと辿り着いた。
「ココダ」
拠点に適した場所を見つけたリザードマンが言う。
その姿は直立歩行するトカゲにしか見えないけど、どこか誇らしげだった。
「へええ。森の中にこんな場所が」
俺はあたりを見回す。
森の中にぽっかりと空いた開けた場所。
一〇メートルほど歩いたところには川も流れていて、水の確保も簡単。
おまけに水生モンスターもいないそうで、川で水浴びしたり汚れを落とすこともできるらしい。
常に清潔にしてないと感染症になったりするから、これは重要なポイントだ。
一休みしたところで、冒険者たちが俺を見る。
無言の訴えを受け取ったのはライヤーさん。
「あんちゃ――じゃねぇ。あー、仮面卿さんよ。到着して早々に悪いんだが、預けてた資材を出してもらえるか?」
俺はこくりと頷く。
声を出さないのは、声から俺の正体がバレないように気を使ってのことだ。
空間収納のリストを確認
――――――――――――――
木材 200
煉瓦 10000
釘 2000
金槌 30
ノコギリ 30
スコップ 30
鉈 40
ハシゴ 10
石材 5000
槍 200
鉄の剣 100
弓 100
矢 1000
斧 50
戦斧 50
干し肉 4000
とん兵衛 300
乾燥果物 100
エール樽 40
薪 3000
マッチ 300
テント 100
寝袋 10
毛布 200
ランタン 150
たいまつ 100
――――――――――――――
このリストは資材と物資の一部でしかない。
これで一部なんだから、今更だけどすごい量だ。
俺はジェスチャーで冒険者たちにスペースを空けるよう伝え、
「ほい、ほい、あそれ。よいしょっと」
次々と資材を取り出していくのだった。
◇◆◇◆◇
「すげえ量だな」
「あれだけ物量を収納できるとは……アイツ王家のお抱えか?」
「わからん。だがあのギルドマスターのことだ。王家と繋がりがあってもおかしくはない」
「確かに」
収納量に驚く冒険者たちを横目で見つつ、どんどん資材を取り出していく。
資材の次は物資だ。
山となる資材と物資。
「預かっていたものはこれで全部です」
ネスカさんに小声でそう伝えると、
「………これで全部だと言っている」
ネスカさんが冒険者たちにそう告げる。
まるで通訳だ。
「冒険者共は周辺の警戒を怠るな。職人共は建設をはじめい」
そう指示を出したのは、スピリタスに敗北を喫した英雄のエルドスさん。
今回の拠点作りのリーダーを任されている彼は、テキパキと指示を出していく。
戦っても強いが、職人としての腕もかなりのものらしい。
彼は自ら、今回の拠点建設のリーダーを買って出たそうだ。
「お主の役目はこれで終わりじゃ。町に戻るにしても強行軍じゃったからな。出発は明日の朝にするといいじゃろう」
いまエルドスさんが言った「お主」とは、俺のことだ。
資材と物資を運び終えたあと、俺はニノリッチへ送り返してもらう手筈となっていた。
しかし、ここまで来るのにかなり疲れたし、正直全身筋肉痛になっている。
休めるものなら休みたい。
「だそうだぜ。出発は明日の朝にして、今日はもう休みな」
「ですね。休ませてもらいます」
一人用テントを張り、軽い食事を取ってから寝袋に潜り込む。
こうして俺の往路は終わり、残りは復路だけとなった。
たった三日会ってないだけなのに、アイナちゃんとステラさんの顔が懐かしかった。




