第58話 シロー、再び森へ
カレンさんからギルドの要請を聞かされて、2週間が経っていた。
――俺の正体は秘密にしてください。
という条件の下、俺はバッシュさんに空間収納スキルを持っていることを明かす。
バッシュさんはあまり驚かなかった。
むしろ、予想通りって顔をしていた。
バッシュさんと二人で収納量を検証してみたところ、底が見えない異次元レベルだったこともあり、バッシュさんは必要な資材と物資、それと建設のための職人を一〇日で集め、それと並行して拠点に適した場所を探しあてた。
ギルドに所属する冒険者の約半数を建設までの、そして拠点維持の戦力として同行させるんだとか。
建設予定地は、森を三日進んだ場所。
俺の役目は資材と物資を運んで帰ってくるだけ。
だいたい往復で一週間といったところだ。
でも、俺にとっても悪い話ではなかった。
なぜなら、一日につき金貨2枚という破格の好待遇だったからだ。
往復で一週間の予定だから、俺は僅か七日で1400万円もの大金を手にしてしまうことになる。
報酬の額から、空間収納スキルを持った人材がいかに貴重かわかるというものだ。
出発は今日。
そんなわけで俺は、店を預ける小さな店員さんにしばしの別れを告げていた。
「じゃあアイナちゃん、俺ちょっと行ってくるね」
「シローお兄ちゃん……」
開店前の店の中。
アイナちゃんが哀しげな顔をする。
俺はその頭を撫でてから、しゃがんでアイナちゃんと目線を合わした。
「そんな顔しないで。すぐ帰ってくるからさ」
「でも……こわいモンスターがでるんでしょ?」
「それも心配いらないよ。だって蒼い閃光が俺のことを守ってくれるし、他にも強い冒険者がたくさん同行するんだ。逆にモンスターのほうが逃げてくよ。だからアイナちゃんは俺のことなんか気にせず、いつも通りに笑顔でお客さんを出迎えてほしいな」
「…………うん」
「ありがとう。ちょっとの間、店をお願いね」
「……うん」
もう一度アイナちゃんの頭を撫でてから、隣に視線を移す。
「ステラさん、無理を言ってすみません。アイナちゃんと一緒に店のことお願いしますね」
「はい。精一杯がんばらせてもらいます」
俺が同行している間は、ギルドにある2号店を臨時休業することにした。
拠点作りに合わせてギルドが大量に商品を購入し売るものがなくなったから、というのが表向きの理由だ。
本当の理由は、俺が不在の間ステラさんに1号店で働いてもらうためなんだけどね。
二人にはもし誰かに俺のことを訊かれたら、「商品を仕入れに行っている」と言ってもらうように頼んである。
「在庫は裏の倉庫にいくらかありますけど、完売したら『完売しました』って貼り紙出していいですからね」
「わかりました」
真剣な顔をしたステラさんが、こくりと頷く。
気合が入りすぎているのか、両手がぎゅっと握られている。
そんなところもアイナちゃんそっくりだった。
さすが母娘。
「本当は自信を持って『任せてください』と言えればいいんでしょうけれどね」
「おかーさん、アイナもいるからだいじょうぶだよ」
「そうだったわね。ありがとうアイナ。アイナがいてくれて、お母さんとっても心強いわ」
「ホント?」
「本当よ」
「うへへ……」
アイナちゃんが嬉しそうに口元を綻ばす。
俺との別れでやや湿っぽくなっていたけれど、うん。やっぱりアイナちゃんには笑顔が一番似合うな。
「そろそろ行くね」
「シローお兄ちゃん、いってらっしゃい」
「シローさん、どうかお気をつけて」
「はい。行ってきます!」
二人に見送られ、俺は店を後にするのだった。




