第57話 舞い込んできた依頼
「あ、シローお兄ちゃん。さっきカレンお姉ちゃんがきてね、『役場でまってる』っていってたよ」
一度店に戻ると、店番をしていたアイナちゃんが開口一番そう言ってきた。
惜しい。入れ違いになっちゃったか。
「役場かぁ。アイナちゃん、いまから役場行ってきてもいいかな? また店を空けちゃうことになるけど一人で大丈夫?」
「うん。アイナひとりでだいじょーぶだよ」
アイナちゃんが任されたとばかりに胸を叩く。
「ありがとう。じゃあもうちょっと店番よろしくね。なるべく早く帰ってくるから」
「いってらっしゃい」
「いってくるね」
アイナちゃんに見送られ店を後にする。
冒険者ギルドに支店が出来たことで、お客が分散されたからだろう。
1号店のお客は住民がほとんどになって、前よりも忙しくなくなったのだ。
それこそ、時間帯によってはアイナちゃん一人に任せられるほどに。
1号店と2号店で、品揃えを変えていく時期がきたということだろう。
時間があるときに一度、店舗ごとの商品について真剣に考えてみないとだな。
でもいまは――
「役場に行きますか」
◇◆◇◆◇
受付のおばちゃんに、カレンさんに会いに来たと伝える。
あらかじめ話がとおっていたのか、すぐに執務室へと通された。
「よく来てくれたシロー」
「どうも。俺を捜してたって聞きましたけど、なにかあったんですか?」
「話は座ってからにしよう。いまお茶を出す。先に座っててくれ」
カレンさんに促されソファに腰を下ろす。
「うちの庭で採れたハーブティだ。口に合うといいんだが」
テーブルにハーブティのカップを二つ置き、カレンさんは俺の対面に座った。
ハーブティをひと口。
口の中がすっきりしたところで、
「それで……俺に話というのは?」
俺を捜していた理由を訊いてみる。
「それなんだがな……ふむ」
カレンさんの口が重い。
珍しく迷っているみたいだ。
「言い辛いことなんですか?」
カレンさんの顔はいつもよりも真剣さが増している。
なにを言ってくるんだろう?
家賃を上げたい、とかかな?
それとも店舗を返してほしいとか?
なんかどっちもありそうだ。
あ、なんかドキドキしてきたぞ。
「そうだな。言い辛いというよりは、君に頼み難いと言ったほうが近いな」
「やだなぁ。俺とカレンさんの仲じゃないですか。遠慮しないで言ってみてくださいよ」
「そう言われてしまうと逆に躊躇ってしまうな」
カレンさんがふふっと笑う。
でもすぐに真面目な顔に戻る。
「先にこれだけは言わせてくれ。いまから言う『頼みごと』は、無理に受ける必要はない。最悪の場合、君の命にかかわることになるからな」
「命ときましたか」
「ああ。命だ」
なるほど。そりゃカレンさんも真剣な顔になるわけだ。
ハーブティをもうひと口。心を静める。
「聞かせてください。カレンさんがそれほど真剣な顔をするということは、町の未来に関わることですよね?」
「鋭いな。さすがシローだ」
「前にも一度ありましたからね。それにカレンさんが俺に――いや、『人に』頼み事をするときは、いつだって町の発展のためでしたから」
「そ、そうだったか?」
「そうですよ」
「……そ、そうか」
「ええ。俺がこの町に来てまだ3ヵ月も経ってませんけど、ちゃーんと見てましたからね。カレンさんががんばってるところを」
「……」
ストレートに褒められて、恥ずかしかったんだろうな。
カレンさんの顔が真っ赤になってしまった。
手でパタパタと顔を扇いでは、間を持たすために窓から外を眺めたりしている。
「カレンさんが頑張ってるのはみんなが知っています。だからみんな協力したくなるんですよ。もちろん、この俺もね」
「シロー……」
「だから遠慮なんかいりません。できることはできると言いますし、ムリなものはムリって断ります。だから話してみてください」
そう言い、カレンさんの返事を待つ。
「君という男は……本当に……」
カレンの目に涙が浮かびかける。
慌ててそれを指先で拭い、「それなら」と切り出してきた。
「実はギルドマスターのバッシュ殿から、わたしの下にこんな要請が来たのだ」
カレンさんはそこで一度区切り、声のトーンを落とす。
「空間収納のスキルかアイテムを持っている者に心当たりはないか、とな」
「バッシュさんが?」
「そうだ。バッシュ殿は東の森に冒険者たちの拠点を建てたいそうでな。建設資材を運ぶため空間収納のスキル、もしくはアイテムを持った者を広く探していると言っていた」
「あー……なるほど」
俺が持っている空間収納のスキルは、かなりのレアスキルだ。
それこそ、このスキルがあれば一生食いっぱぐれることがないレベルで希少なものらしい。
「規模は知りませんけど、建設というからには大量の資材がいるでしょうからね。あと人手も」
「そうなるな。森に荷馬車が通れるような道はないし、人手の分だけ食料も必要になる」
「そこに空間収納のスキル持ちがいれば、まるごと解決できるわけですか」
俺の言葉にカレンさんが頷く。
「森に拠点が造れれば、いちいちギルドまで戻る必要がなくなる」
「その分、森の探索が進む、と。確かにバッシュさんがスキル保有者を探したくなる気持ちもわかりますね。でもそれを町長とはいえ、カレンさんに頼むということはまさか……?」
俺はため息交じりにカレンさんを見る。
カレンさんもため息をつき、こくりと頷く。
「バッシュ殿はおそらく、君が空間収納のスキルを持っていることに気づいているだろうな」
「ですよねー。こないだ大量のお酒をギルドで披露しちゃったからな~」
「アレについてはバッシュ殿も君に感謝していたよ。これはあとから聞いた話なんだがな、森を探索しても一向に遺跡が見つからないものだからギルドの雰囲気が悪くなっていたそうだ。冒険者同士のケンカも絶えなかったそうだよ」
「うわ~……。そんなことが。ライヤーさんもエミーユさんも、そんな素振り見せなかったのになぁ」
「ギルドの問題を君に知られたくなかったんだろうよ。君はお節介焼きだからな」
「買いかぶりすぎですよ。いくら俺でも筋肉マッチョたちのケンカを止めようなんて思いませんて」
「だが別の手段を以て止めようとはするだろう?」
「……美味いお酒を飲ませるぐらいはしたかもしれませんね」
「ふふ。けっきょく止めてるじゃないか。事実として、君が冒険者たちに銘酒の数々を販売したことによって冒険者同士の諍いはなくなったそうだぞ」
「お酒はストレス発散になりますからねー」
「特に、娯楽の少ないこの町ではな」
「俺はそんなつもりでお酒を卸しているわけではないですからね?」
「わかっているさ。娯楽が少ないと言ったのは、わたしに対する――この町の今後の課題のようなものだよ」
「なるほど。もしなにか娯楽を作るつもりなら俺にも協力させてくださいね」
「そのときが来たら相談させてもらうよ」
カレンさんはハーブティをひと口。
一度喉を湿らせてから「話を戻そう」と言ってきた。
「バッシュ殿は君が空間収納のスキルを持っていることに気づいている。でなければ、ただの町長でしかないわたしに要請などしてこないだろうよ」
「カレンさんを通して俺に手伝ってくれと、暗に要請してきているわけですね」
「憶測でしかないがな。でもほぼ間違いないだろう。それでどうするシロー? 森はモンスターが出る。奥に進めば進むほど強いモンスターや、未知のモンスターも出てくるだろう。もちろん報酬は出るし、冒険者たちは君を全力で護るだろうがな」
「うーむ……。ちなみに報酬っておいくらか聞いてます?」
「報酬は一日につき金貨2枚と言っていたよ」
「えぇっ!? 金貨2枚? 銀貨の間違いじゃなくて?」
金貨2枚を等価交換で両替すると200万円になる。
日給200万円なんて、大御所タレントクラスじゃないか。
さすがにカレンさんの聞き間違いだと思うけど……?
「やれやれ、相変わらず君は自分の価値に疎いな。空間収納のスキル保持者は貴重だと言っただろう。わたしも相場を知るわけではないが、金貨2枚でも安いぐらいだと思うぞ。冒険者の護衛付きとはいえ、絶対はないからな」
とのことだった。
「あとは君の判断に任せる。最初に言ったように命が懸かっている以上、断っても構わないと思うぞ。君にとって金貨2枚など、取るに足らん額だろうからな」
「そうですね……」
腕を組み、考える。
一日で金貨2枚は確かに魅力的だ。
しかし、命をかけるだけの金額ではないことも確か。
でも拠点を造ることができれば、探索がぐっとやりやすくなるという。
拠点のおかげで遺跡が見つかり、そこに財宝があれば冒険者たちの懐が潤うのは間違いない。
そして冒険者たちが潤えば、俺の店の売り上げも今以上に上がるだろう。
不思議と思い浮かぶのは、蒼い閃光の四人。
ライヤーさん、ネスカさん、キキさん、ロルフさん。
あの四人も、遺跡が見つかったら喜ぶんだろうな。
特にライヤーさんなんか、お酒が入るたびに魔法が永続的に付与された魔剣が欲しい、とか言ってたしね。
「カレンさん、」
「なんだ?」
「その要請、条件付きでいいなら受けてみようと思います」
俺がそう答えると、カレンさんはやっぱりなという感じで微笑んだ。
「その条件を聞かせてくれるか? わたしからバッシュ殿に掛け合ってみよう」
「ありがとうございます。俺の出す条件は――――……」
こうして俺は、カレンさんに条件を伝えるのだった。




