第51話 ここにはない酒を
「……という感じでですね、俺の故郷は交易が盛んでして、いろんなお酒を入手しやすいんですよ」
ひとしきり説明を終えたところ、
「「「ふわぁぁぁ……」」」
冒険者たちが大きなため息をついた。
目をつむり未知のお酒に想いを馳せる狩人。
説明を聞きヨダレを溢れさせる魔法使い。
火が点くほど強いお酒を飲んでみたいと悔しがる、オジサンドワーフ。
ワインワインと呟き続けるステラさんに、それを心配するアイナちゃん。
反応は様々。
共通していることはただ一点。
ここにいるほとんどの冒険者たちは、「お酒が好き」ってことだ。
「ふむ。となると……」
俺はひとり考え込む。
これはひょっとして、とても大きなビジネスチャンスなのではないだろうか?
ジョッキに8割残っているエールをひと口。
……うん。やっぱりマズイ。
このエールより美味しいお酒を用意することは簡単だ。
ぷらっとコンビニに行ってお酒を買ってくればいいだけだ。
そして酒場には、お酒を愛する凄腕冒険者――つまりおカネ持ちが多数。
「……いける」
自分の目がおカネ色に輝きはじめるのを感じつつ、
「うおっほん!」
大きく咳払い。
そのワザとらしい咳払いに、冒険者たちの視線が集まる。
「…………ひょっとしてみなさん、俺の故郷のお酒にご興味がおありで?」
「「「ッ!?」」」
「実はですね、一号店には俺の故郷のお酒がいくらか……あり――」
「「「ッ!?」」」
「いや、そこそこ……」
「「「ッッ!?」
「うん、実はけっこーありましてね」
「「「ッッッ!?」」」
「もしみなさんが望むのなら、一号店にあるお酒の販売も考えてみようかなー、なんて」
「「「ッッッッ!?」」」
「考えてるんですけど、いかがでしょう?」
返答は、光すら置き去りにする勢いだった。
「買う買う買う! 絶対買う!」
「あたしは果物のように甘いお酒が飲みたいわっ!」
「オイラはオレンジワインってやつを頼まァ!」
「ニポンシュ! ニポンシュヲノンデミタイ!」
「坊主! 酒だ! さっき言ってた火が点く酒ってやつを持ってこい! ドワーフの誇りにかけて飲み干してやる!!」
「ボクも! ボクもあまくておいしーお酒飲みたいにゃ!」
「………………シロー、ちょこれいとのお酒ちょうだい。ちょこ。ちょこ。ちょこっ」
テーブルを押しのけ冒険者たちが俺に詰め寄ってくる。
なんか最後の方にキキさんとネスカさんの声が混じっていたような気がするぞ。
俺は冒険者たちにぐいぐいと押されに押され、あっという間に壁際まで追い込まれてしまった。
冒険者たちの、お酒への渇望。
これはイケる。確実にイケる。
念のため、女給とコックの方を見ると、
「「……」」
2人とも無言のまま親指を突き立てていた。
OKってことだ。
「坊主! それで酒はいつ――むぅ?」
俺は片手をあげ、オジサンドワーフの言葉を遮る。
「みなさんのお気持ちはわかりました。では、」
そして――ずっと憧れていた、いつか言ってみたいと思っていたあの言葉を口にするのだった。
「明日、もう一度ここに来てください。俺の故郷のお酒をご馳走しますよ」




