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第50話 お酒

「ん、あんちゃん酒がすすんでないみたいだな。ひょっとして酒が嫌いか?」


 いくつかの料理を平らげひと息ついたタイミングで、不意にライヤーさんが訊いてきた。

 俺のジョッキを満たすエール(麦酒)を見ての言葉だ。


 ちなみにエールなのは俺とライヤーさんに、ネスカさんとキキさんの四人。

 子供のアイナちゃんは当然として、エールが苦手なステラさんと、戒律でお酒が禁止されているロルフさんはお水を飲んでいた。


「いやー、お酒は好きな方なんですけど、このエールはなんというか……」


 言い淀んでいると、


「………………まずい?」


 ネスカさんがいきなりぶっこんできた。

 隣ではキキさんが「にししし」と笑っている。

 俺は降参とばかりに両手を上げる。


「その通りです。正直、このお酒(エール)は苦手ですね。飲みなれてないからかもしれませんけど」


 日本で生まれ育ちビールの味を知っている者としては、申し訳ないけれど大味すぎて合わなかった。

 日本のビールよりもアルコール度数が高く、謎のハーブの香りがする。

 そのうえとにかく温いのだ。常温なのだ。

 キンキンに冷えたビールの味を知っているからこそ、飲み干すことができずにいたのだった。


「そっか。まあ、おれも美味いと思ったことはないからなぁ」


「へ? そうなんですか?」


「あったり前だろ」


 そう言い、ライヤーさんはエールをゴクリ。


「ただよ、こんな大陸の端っこにある町じゃ、飲める酒なんてエールぐらいなもんだろ? だから……仕方なく、だな」


「そうにゃそうにゃ。ここが交易都市だったら、葡萄酒(ワイン)とか林檎酒(シードル)とか飲めるんだけどねー」


 キキさんが相槌を打ち、こちらもエールをゴクリ。

 どうやらこの味には慣れっこの様子。


「二人ともエールが飲めることへの感謝が足りませんよ。この町に銀月の使徒が支部を置いてくれたからこそ、中央とそれほど変わらぬ値でエールが飲めるのです。そのことを忘れてはいけません」


「へいへい、わかってるよ」


「ボクだってそれぐらいわかってるにゃ」


 二人が肩をすくめる。


「ん~、でもせっかくならワインぐらい欲しかったにゃん」


「ん、ということは、キキさんってワインが好きなんですか?」


「ふにゃ? べつに好きじゃないよ?」


 まさかの返答に、ガクッとつんのめりそうになる。


「……じゃあなぜワインを?」


「ぶどうの匂いがするからエールよりはマシってだけにゃ。ボクたちが飲めるワインなんて、すっぱいだけでおいしくないしねー」


「へええ、そうなんですか」


「オイオイ、『そうなんですか』ってあんちゃんよ、まさかその歳でワインを飲んだことないとか言わないよな? それとも、やり手の商人様は貴族が飲むような高いワインしか飲んだことがないってことか?」


「そいうわけじゃないですよ。ただ、俺の故郷では安くても美味しいワインがあるんですよね」


「「「っ……」」」


 この言葉に蒼い閃光だけじゃなく、ステラさんまでが食事の手を止めた。

 なんかちょっと目が怖いんですけど。

 気圧されつつも説明を続ける。


「基本的には赤ワイン、白ワイン、ピンク色をしたロゼワインの3種類で……ああ、そういえば最近だとオレンジワインとかいうのも流行ってるって聞いたことがあるな。とにかく、その4種類のワインにはそれぞれいくつも銘柄があって、味も様々。甘口から辛口まで幅広く、すっきりと飲めるのもあれば、重厚で深い味のものもあります。値段もピンからキリまで。それこそ子供のお小遣いで買えるようなワインもあれば、庭付きの家より高価なワインもあったりするんですよ。ワインにハマってる人だと、その日の食事に合わせて飲むワインを変えたりするらしいんですよねー。まー、俺はワインもそこまで好きじゃないんであんま飲まないんですけどね。やっぱ飲むなら日本酒が一番すき――」


 と、日本酒トークになりかけたところで、はたと気づく。

 いつの間にやら、酒場の空気が変わっていることに。


「…………あれ?」


 会話を弾ませているテーブルはひとつもなく、酒場にいる全員が俺の話に耳を傾けている様子。

 あろうことか厨房のコックまでこちら――というか俺に顔を向けているじゃないですか。


「「「「………………」」」」


 しーんとする酒場。

 向こうのテーブルに座る冒険者たちは静かに俺の言葉を待ち、あっちのテーブルに座る若い冒険者たちからは、「続きはまだか!」とばかりにソワソワしている気配が伝わってくる。


 極めつけは、最奥のテーブルにいたはず(・・・・)のドワーフのオジサンだ。

 オジサンドワーフは気づいたときには隣のテーブルに移動していて、腕を組みじっと俺を見つめている。

 あ、いま目が合っちゃった。


「……坊主、ワシのことは気にせんでいい。それより続きを話せ。坊主の故郷の酒の話だ」


「は、はい!」


 古強者。これぞベテランって感じの鋭い眼差しに射抜かれ、ついつい背筋を伸ばしてしまう。


「えーっと、俺の故郷にはいろんなお酒があって――――……」


 こうして俺は、たっぷり1時間は日本で手に入るお酒について語ることになるのでした。

みなさん、どうかコロナウィルスの感染に気をつけてくださいね(´;ω;`)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんでこの酒話がコミカライズから外されてる?!
[一言] 果たしてドワーフにアブサン飲ますとどうなるでしょう? テキーラとかラム酒は冬に喜ぶかもね スピリタスは燃料用アルコールだしね、飛行機の荷物ではスピリタスは禁止です危険物扱いでね!ウヲッカ?ア…
[気になる点] はじめまして、こんにちは。初めてコメント記入します。漫画のほうからきました。勢いあまり、深夜から朝方の今まで、なお、読破の最中です。とにかくおもしろい。いくつか気になるところもありまし…
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