第49話 酒場にて
「「「かんぱーい!!」」」
ギルドのオープン祝いがはじまった。
参加者は、蒼い閃光の4人と、シロー商店の3人。
場所はギルドの酒場。
時刻は日が沈み、夜に差し掛かろうとしている頃合い。
テーブルには料理の皿がいくつも置かれていた。
日本育ちの俺としては、8歳のアイナちゃんがお酒の場にいていいのか不安だったけど、
「おかーさん、今日はとってもいい日だね。みんなといっしょにごはん食べれてたのしいね」
「そうね。お母さんもとても楽しいわ」
母娘そろって楽しそうに夕食を食べていた。
冒険者ばかりの酒場では、明らかにアイナちゃんだけが浮いている。
でも、一生懸命に働くアイナちゃんを見ていたからだろうな。
ちょっかいかけてくる冒険者などいなかった。
それどころか、予想だにしないことが俺たちのテーブルに起こっていた。
「あっちのテーブルからお嬢ちゃんにだってー」
頼んでいない料理を運んできた酒場の女給が、あごで別のテーブルを指し示す。
見ると、そのテーブルでは屈強な男がこちらに向けてジョッキを持ち上げている。
「お嬢ちゃん! たくさん食べて早く大きくなれよォ!!」
顔に傷がある屈強な男がガハハと笑い、
「おじちゃん、ありがとう!」
アイナちゃんがぶんぶんと手を振る。
この一連の流れで、酒場にほっこりした空気が満ちた。
酒場を満たす空気を目で見ることができたら、きっと桃色をしていたことだろう。
「これもお嬢ちゃんにだってさ。おモテになって羨ましい限りだよ」
新たに3皿運ばれてきた。
そろそろテーブルに置き場がなくなりそうな勢いだぞ。
「お姉ちゃん、このおりょーりはだれから?」
「あそこのドワーフとあっちのリザードマンだろ、それにほら、あの赤髪の女戦士さ」
アイナちゃんがご馳走してくれた人を訊き、女給が指さして答える。
すぐにアイナちゃんはお礼の言葉とセットで、素敵な笑顔を振りまく。
笑顔を向けられた人は、にんまりほっこり。口元が緩みに緩みまくっていた。
う~ん。この様子だとまだまだ料理が増えそうだ。
「なんだなんだ、お嬢ちゃんがいればおれたち料理を頼まなくていんじゃないか?」
「うんうん。ボクもそー思うにゃ」
運ばれてきた料理に、ライヤーさんとキキさんが舌なめずり。
そんな2人に対し、ロルフさんが窘めるように。
「はしたないですよ二人とも。それにこの料理はアイナ嬢のために冒険者たちが贈ったものなのです。アイナ嬢の許しなく手を付けてはいけませんよ」
「…………ロルフの言う通り。ライヤーもキキも食い意地が張りすぎ」
「んなこと言ってるネスカだってヨダレ垂れてっぞ」
「…………ぇぃ」
「いってぇーーー!! 踵で踏むな踵で!」
「…………余計なことを言うライヤーが悪い」
小競り合いをはじめるライヤーさんとネスカさん。
2人のやり取りが可笑しかったんだろう。
アイナちゃんは声を出して笑っていた。
「あはははは――っ。ア、アイナ……笑いすぎてお腹いたいよぉ」
アイナちゃんはすーはーすーはと深呼吸。
笑いすぎて目じりに湧き出た涙を指先で拭い、顔をあげる。
「アイナね、こんなにいっぱい食べれないからね、みんなも食べてくれるとうれしいな」
「ふにゃ~~~んっ。さっすがアイナにゃ! じゃー、いっただっきまーーーす!」
アイナちゃんから許可を得て、真っ先にキキさんが、僅かに遅れてライヤーさんが料理に手を伸ばす。
それが合図となった。
ネスカさんが小柄な体からは信じられない量を取り皿に盛り、次々と食べていく。
体格のいいロルフさんは、その体格通りの量を胃袋へと送り込む。
おっといけない、乗り遅れるところだった。
なくなる前に俺も食べないとだ。
「はい、シローさん」
ステラさんが料理を盛りつけたお皿を差し出してきた。
「ありがとうございますステラさん」
「はいシローお兄ちゃん、アイナもお料理よそったよ」
「お、アイナちゃんもありがと。うわ~……どれも美味しそうだ」
「シローお兄ちゃん、いっしょに食べよ。おかーさんも」
「うん」
「ええ、頂きましょう」
こうして俺たちは、もの凄い勢いで食べ続ける蒼い閃光をよそに、
「いっただっきまーす!」
ゆっくりと食べはじめるのだった。




