第48話 開店祝い
「いようあんちゃん。初日から大繁盛だな」
ライヤーさんがヨッ! と片手をあげる。
「ええっ!? なんでライヤーさんたちがここにいるんですか?」
俺の記憶が確かならば、ライヤーさんたち『蒼い閃光』の四人は別の冒険者ギルドに所属していたはず。
なのになんで『銀月の使徒』にいるんだろうか?
そんな俺の疑問に答えたのは、キキさんだった。
「ボクたちみんな『銀月の使徒』に移ったんだにゃ」
「ってことは……移籍?」
「うん、それそれ。移籍。だってニノリッチで仕事するなら、町にあるギルドに所属したほうが楽チンなんだにゃ」
「そういうこった。森の情報欲しさだろうが、銀月の使徒もこの町で活動してた冒険者の移籍に乗り気でな、なんと支度金までもらっちまったぜ」
ライヤーさんは懐から重そうな革袋を取り出すと、ドヤ顔で見せてきた。
「…………わたしたちはみんな銀等級の冒険者。当然の待遇」
ネスカさんがえっへんと胸を張る。
「なるほど。実績のある冒険者は好待遇で迎えられるわけですね」
俺が感心していると、ロルフさんが「ええ」と相槌を打ち、補足してくれた。
「冒険者の間では、ギルドの移籍はよくあることなのです」
「…………ロルフの言う通り。そもそも一か所に留まり続ける冒険者の方が稀」
「なるほど」
ネスカさんの話では、実力のある冒険者がギルドを変えることは、よくある話なんだそうだ。
基本的に冒険者は旅烏。
街から街へ。
遺跡から遺跡へ。
ダンジョンからダンジョンへ。
目的の場所を目指して移動し、その都度所属ギルドを変える冒険者も多いらしい。
まあ、大きいギルドだと至る所に支店があるそうなんだけどね。
説明を聞き終えた俺は、「へええ」と感心するばかり。
「わかったかあんちゃん? おれたちは今日から『銀月の使徒』所属ってわけさ。そんなわけで……」
一度そこで区切ると、ライヤーさんはニヤリと笑う。
「あんちゃん、なんかおすすめのアイテムとかないか?」
「…………チョコ。ライヤー、チョコを買って」
「あ、ならボクは『きゃんでー』がほしいにゃ!」
商品からチョコバーを見つけたネスカさんが、両手でぐわしと掴み取る。
隣ではキキさんがキャンディーの入った瓶を腕に抱えていた。
蒼い閃光の女子たちは、ことお菓子となると目の色が変わるよね。
「すみませんシロー殿。私は常々2人に言い聞かせているのですが、シロー殿が販売している菓子を見るとどうにも我慢が利かなくなるようで……」
とロルフさん。
商品棚からお菓子を根こそぎ持っていく二人を見て、眉間を押さえていた。
「ネスカ、キキ、ほどほどにしとけよ」
「…………冒険者は明日をも知れない職業。『ほどほど』にして後悔したくない」
「そうにゃそうにゃ。それにきゃんでーは『ちょこ』と違って溶けないから、仕事にも持っていけるんだにゃ」
「…………キキの言う通りかも。……あたしもきゃんでー買う」
「あ、ズルいネスカ! それはボクが狙ってたんだにゃ!」
「…………ふふ。早い者勝ち」
こうして、営業初日にも拘わらず、お菓子がなくなるのだった。
◇◆◇◆◇
「あんちゃん、ギルドの開店祝いにおれたちと一緒に飲まないか?」
そうライヤーさんから誘われたのは、お菓子争奪戦が終わったあとだった。
「…………シローは開店祝い。わたしたちは移籍祝い。どう?」
と、口のまわりをチョコでベタベタにしたネスカさん。
「そうですね~……」
俺は腕を組み、考え込む。
そういえば営業時間とか決めてなかったな。
ちらりと時計を見れば、時刻は17時ぴったし。
ホワイトな店を目指す俺としては、終業時間にしてもいい時刻だ。
そもそも2号店の営業形態は任されてるしな。
「となると」
俺は振り返り、アイナちゃんとステラさんに顔を向ける。
「今日の仕事はここまでにしようと思うんですけど、どうでしょう?」
「アイナまだはたらけるよ!」
そうアイナちゃんが言えば、
「わたしもです。まだまだ働けます」
ステラさんも同意する。
まったくこの母娘ときたら、頑張り屋さんなんだから。
「んー……いや、やっぱりこの時間を閉店時間にしましょう。働きすぎても明日に響いてしまいますしね。というわけで今日の営業は終了です。閉店作業に入りましょう。ステラさん、棚に布をかけてもらっていいですか?」
「わかりました」
ステラさんは頷くと、厚手の布で商品棚を覆いはじめる。
「シローお兄ちゃん、アイナはなにをすればいい?」
「アイナちゃんには、おカネの計算をお願いしようかな。任せてもいい?」
「うん。アイナやってみる」
いつもは俺がやっている仕事を頼まれたのに、なぜかアイナちゃんは嬉しそうだった。
すぐに店の奥から、
「いちまい、にまい、さんまい、よんまい――――……」
とおカネを数える声が聞こえてくる。
無事に売上の計算と閉店作業を終え、
「「「かんぱーい!」」」
シロー商店と蒼い閃光の合同による、ギルドのオープン祝いがはじまるのだった。




