第47話 ギルドマスターと受付嬢
カレンさんに連れられてやってきた役場。
応接室に入ると、一組の男女が待っていた。
後ろ手に応接室の扉を閉めると同時に、二人は立ち上がる。
一人は古強者といった雰囲気を醸し出す壮年の男性。
もう一人は、頭からぴょこんとウサギの耳を生やした獣人の女の子。
なんかめっちゃファンタジーしてる。
「待たせてしまって申し訳ない。こちらが我が町が誇るシロー商店の店主、シロー・アマタだ」
「はじめまして。この町で商店を営んでいる士郎・尼田です」
カレンさんに紹介され、ぺこりと頭を下げる。
ってかカレンさん、いつの間に店の名前が『シロー商店』になったんですか?
そりゃ店の名前決めないままズルズル来ちゃったけどさ、もうちょっとカッコイイ名前にしたかったな。
「私がニノリッチ支部でギルドマスターを務めることになったバッシュ・バルテウスだ。君が噂の店主か。やり手と聞いていたからどんな者かと思っていたが、ずいぶんと若いのだな。歳はいくつだね?」
「25歳です。カレンさんからどんな話を聞いているか知りませんけど、商人になったばかりの駆け出しですからね」
そう言い壮年の男性――バルザックと握手を交わす。
お次はウサ耳さんの番だった。
「はじめましてシローさん、アタシは受付担当のエミーユです。ヨロシクしてくださいですよぅ」
「こちらこそよろしくです」
そう言ったウサ耳のエミーユさんとも握手を交わす。
自己紹介が済んだところで椅子に座る。
挨拶のつもりだけだったんだけど、気づけば町とギルドの今後について話し合っていた。
オープン目前に迫った、冒険者ギルド『銀月の使徒ニノリッチ支部』。
いま腕利きの冒険者が続々とニノリッチに向かっているらしい。
俺はやってくる冒険者の数をざっくりと教えてもらい、マッチをはじめとした冒険に役立ちそうなアイテムをどれだけ仕入れるか、考えるのだった。
◇◆◇◆◇
そして10日がたった。
「そろそろ開けようと思うんですよぅ。シローさん、お店のほうはどうですかぁ?」
エミーユさんがウキウキしながら訊いてくる。
ここは新築のギルドホームの中。
俺はギルドの一角を間借りし、シロー商店2号店の開店準備をしていた。
店にとって、オープン初日は非常に大切だ。
2号店の成功に全力投球すべく、市場にある店(一号店)は一時的に閉めてある。
俺とアイナちゃんにステラさん。
シロー商店のスタッフ総出で2号店のオープンに臨むところだ。
「俺はバッチリです。アイナちゃん、ステラさん、準備はいい?」
アイナちゃんとステラさんに訊くと、
「うん。アイナはできてるよ」
「わ、わたしもできています」
アイナちゃんは自信たっぷりに、ステラさんは少しだけ緊張したように答えた。
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよステラさん。もっと肩の力を抜いていきましょう。ギルドにとってこの店は『おまけ』みたいなものなんですから」
「はい。わかっているのですが……どうしても力が入ってしまって」
困ったように微笑むステラさん。
「おかーさんだいじょうだよ。アイナもお手伝いするし、シローお兄ちゃんもいるんだもん」
「そうですよ! 何かあっても俺がフォローします。だからもっとゆるーくいきましょう」
「そうだよおーかさん。ゆるーくいこ?」
アイナちゃんが俺の口真似をする。
それを聞いて、ステラさんがクスッと笑った。
「ありがとうアイナ、シローさん。お客様が冒険者ばかりのお店だから堅くなっていたみたい。でももう大丈夫です」
ステラさんが自信たっぷりな顔で頷く。
俺は頷き返し、エミーユさんに顔を向けサムズアップ。
「シロー商店、準備OKです!」
「はーい。では銀月の使徒ニノリッチ支部の開店ですよぅ」
エミーユさんが掛け声と共にギルドの扉を開け放った。
すぐにわーっと冒険者たちが流れ込んでくる。
それからはもう、お祭りのような忙しさだった。
冒険者たちは、森にいるモンスターや採取できる薬草やキノコなどの資料(カレンさんが作ったものを俺がコンビニでコピーしてきた)を奪い合うようにして持っていったり、依頼が貼り出されているボードを真剣に見たりと、俺がイメージしていた以上に冒険者ギルドしていた。
受付のエミーユさんも、
「はい、次の人きてくださーいっ」
ギルドが用意した依頼を冒険者たちに振り分けたり、ギルド移籍組に説明したりと忙しそうだ。
もちろんそれは、シロー商会2号店も同じ。
「そこのキレイな姉さん、コレはなんのアイテムだ?」
「こいつが噂のマッチってやつか……」
「甘いお菓子があると聞いたわ。どれがそのお菓子なのっ?」
「見ろこのナイフ! すげぇ上物だぞ!」
「ヒュウッ。傷薬まで置いてるぜこの店」
などなど。
ワーッとやってきては一斉にワーワー質問してくる。
ホント、全員で臨んでよかったぜ。
おかげで店は大繁盛。
捌いても捌いても冒険者は買っていくし、補充しても補充しても追いつかないぐらいだった。
そんなこんなであっという間に夕方になった。
いつの間にやら冒険者たちが、ギルドに併設されている酒場で呑みはじめている。
「シローお兄ちゃん、いっぱい売れてよかったね」
アイナちゃんが嬉しそうに笑う。
額に汗を浮かべ、息を切らせる勢いで働いていたってのにそんな素敵な笑顔ができるなんて、さすがアイナちゃんだ。
俺も見習わないとだな。
「アイナちゃんやステラさんが手伝ってくれたおかげだよ。ありがとう、アイナちゃん」
「えへへ」
照れたのか、アイナちゃんはステラさんの後ろに隠れてしまった。
思う存分甘えられるようになったんだな。
「シローさん、お礼を言うのは働かせてもらっているわたしたちの方ですよ」
ホントこの母娘は俺の感謝を受け取ってくれないな。
「なに言ってるんですか。俺ひとりじゃ何もできないんです。感謝してるのは俺の方ですって」
「それでもです。ありがとうございます、シローさん」
「おーいあんちゃん、イイ感じなとこ悪いけどよ、おれたちにもアイテムを売っちゃくれねぇか?」
後ろから声がかかり、慌てて振り返ると、そこには――
「は、はい! お待たせしました……って、ライヤーさん!? どうしてここに?」
蒼い閃光の4人が、ニヤニヤしながら立っていた。




