第46話 新人
アイナちゃんとステラさん親子が、店の二階へと引っ越してきた。
ちょっとだけ奮発して揃えた家具も、どうやら気に入ってくれた様子。
ひとり暮らし歴が長かった俺も、今日からは3人暮らしだ。
なんか、シェアハウスみたいでワクワクしちゃうよね。
でも、俺よりももっとワクワクしていたのが、実はアイナちゃんだったりする。
なぜかというと、
「おかーさん、マッチはたくさんしゅるいがあってね、こっちの小さいのが銅貨4枚でね、こっちの大きいマッチが銅貨55枚なの」
「こっちが銅貨4枚で、こっちが55枚。それじゃあこのマッチはいくらなのかしら?」
「んとね、これは『さばいばるマッチ』っていってね、ねだんはぁ――――……」
アイナちゃんは真剣な顔で、ステラさんに店にある商品の説明や値段を教えている。
身振り手振りも交え一所懸命に。
ステラさんにアイナちゃんが商品を説明している理由は、至って簡単。
「アイナは偉いわね。お母さんもアイナに負けないように、立派な店員さんになるわ」
「えへへ。アイナだって負けないもん」
ステラさんもうちの店で働くことになったからだ。
現状、俺とアイナちゃんだけで店は十分に回せている。
なのになんでステラさんも雇用したのか?
その答えは、冒険者ギルド『銀月の使徒』から使者としてやってきた、ネイさんのあの言葉にあった。
『支部の完成に合わせて、ギルド内に支店を置いてもらいたいのです。お願いできませんでしょうか?』
ネイさんから告げられたこの打診を、俺は悩んだ末に受けることにしたのだ。
支部となる建物はすでに完成し、あとは人員と物資を運ぶだけの状態。
冒険者ギルドがオープンまで、10日とかからないだろう。
それまでにステラさんには一端の店員になってもらい、俺は俺で冒険者ギルド内に支店を出さなくてはいけないのだ。
支店が増えれば収益も増える。
しかし、店員を増やすことは簡単ではない。
俺はアイナちゃんが読み書きと計算ができるから、他の人もそうなんだろうと軽く考えていたんだけど…………違った。ぜんぜん違った。
こっちの世界では文字の読み書きができる人は少なく、計算ができる人はもっと少なかったのだ。
それが人口の少ない辺境の町ともなると、その比率は推して知るべし。
だが、俺は幸運だった。
アイナちゃんに読み書きや計算を教えたのは、母であるステラさんだったのだ。
この事実を知った俺は、すぐにステラさんにオファーを出した。
俺の店で働いてくれませんか? と。
脚気から回復したステラさんは仕事を探していたこともあり、快く引き受けてくれた。
そしていまは、引っ越しついでに商品の簡単な説明をしている次第だ。
明日から働くことになったステラさん。
俺も店主としてちゃんとしないとな。
「よーし。がんばるぞー!」
そう気合を入れたタイミングでのことだった。
――トントントン。
店の扉がノックされる。
次いで、
「シロー、わたしだ。カレンだ」
ノックの主は、町長のカレンさん。
俺は扉を開ける。
「こんにちはカレンさん。今日は休業ですけど、なにかご用ですか?」
「いたかシロー。よかった。急で申し訳ないが、少し時間をもらえないだろうか?」
そうカレンさんに訊かれ、俺はアイナちゃんたちを振り返る。
「アイナちゃん、ちょっと俺抜けても平気かな?」
「うん。いいよ。アイナおかーさんにいっぱいおしえておくね」
「ステラさんもいいですか?」
「はい。アイナとお店のことは任せてください。と言っても、わたしはまだ新人ですけれどね」
「おかーさん、アイナがいるからだいじょーぶだよ」
「だそうなので、安心してください」
「あはは、ありがとうございます。じゃあちょっとお願いしますね」
俺はカレンさんに向き直る。
「とゆーわけで大丈夫です」
「すまないな。アイナ、それにステラ。しばしの間シローを借りるぞ」
「ちゃんとあとでシローお兄ちゃんかえしてね」
「約束しよう」
カレンさんはそう言い、優しく微笑む。
「さてシロー。実はこの町に置かれる『銀月の使徒』の支部で、ギルドマスターに任命された者がこれから挨拶にくるそうでな。ついでにシローのことも紹介しておこうと思ったのだ」
「おー。それはわざわざありがとうございます。ギルド内に店を出すことになった俺としては、是非ご挨拶しておきたいですね」
「フッ。そう言うと思ったから寄ったのだ。いまから出られるか?」
「すぐ準備します」
そう言い、俺は身だしなみを整えるのだった。




