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第34話 頼み事

 アイナちゃんのお母さん――ステラさんは、俺を見てニコニコと微笑んでいる。

 親子だけあって目元がアイナちゃんにそっくりだ。


「急に押しかけちゃってすみません。アイナちゃんにお店を手伝ってもらっているから、ずっとご挨拶に行かなきゃとは思ってたんですけど……」


「うふふ。いいんですよ。こうして会えたんですから。アイナがいつもお世話になっています」


「いえいえ、むしろお世話になってるのは俺の方ですよ。アイナちゃんがいなかったら店が回りませんからね」


「まあ。がんばってるのねアイナ」


「うん。アイナね、シローお兄ちゃんのお店でがんばってるの。おそーじしたりね、しょーひんをお客さんにわたしたりしてるんだよ」


「そう。偉いわ」


 褒められたのが嬉しかったんだろうな。

 アイナちゃんは「えへへ」と照れ笑い。

 近くにあるテーブルにナシュを置き、俺の足に抱き着いてきた。


「アイナね、シローお兄ちゃんのお店ではたらくの、とってもとってもたのしいのっ」


「最近毎日笑っているものね。アイナが楽しそうで、お母さんも嬉しいわ」


「ホント? おかーさんもうれしい?」


「本当よ。とっても嬉しいわ」


「やったー!」


 アイナちゃんがぴょんぴょこ跳び回る。

 着地のたびに床がミシミシと悲鳴を上げていた。


「シローさん……と呼んでもいいかしら?」


 ステラさんが訊いてくる。


「構いませんよ。なんならシローでも」


「じゃあ、シローさんで。シローさん、ごめんなさいね。こんなはしたない格好で出迎えてしまって」


 ステラさんは視線を落とし、寝間着姿の自分を見て恥ずかしそうに笑う。


「困ったことに、最近立つことも難しくなってしまって……ぅんしょ」


 ステラさんが体を起こそうとする。

 俺は慌てて手をぶんぶんと振った。


「あーあー! ムリに起きなくていいです。寝ててくださいっ」


「でもお客さまの前なのに……」


「おかーさん、寝てないとメッ、だよ!」


 アイナちゃんがプクーとほっぺを膨らませる。

 怒ってるアピールだ。


「ホント俺たちのことは気にしないでください。逆にムリされたら居心地が悪いですって」


「うむ。シローの言う通りだ。起き上がらず楽にしてほしい」


 会話が一段落するのを待っていたカレンさんが、満を持して登場。

 少し遅れてロルフさんも入ってくる。


「アイナ、こちらの方はひょっとして……」


「町長だよ」


「あらまあ」


 驚いた顔をするステラさん。

 自分たちの町のトップがいきなり家に来たら、そりゃ驚いちゃうよね。


「どうして町長さんがうちに?」


「わたしが頼んだのだ。アイナに家まで連れていってほしいと」


「?」


 きょとんとするステラさんに、


「町長殿は、アイナ嬢から母君がご病気と聞きお見舞いにやってきたのです」


 ロルフさんが説明をした。

 ステラさんは合点がいったとばかりに頷く。


「そうだったんですか。わざわざすみません」


「いや、謝るのはこちらの方だ。町長でありながら病に伏す住民を救えずにいる。本当に……すまない」


 カレンさんが頭を下げる。

 悔しさからか、手を力一杯握りしめていた。


「そんな、顔を上げてください。町長さんが援助をしてくれていたことは、町外れ(ここ)に住む人たちなら誰もが知っています。みんな、町長さんに感謝していましたよ」


「……そうか」


「そうですよ。だからそんな顔したらメッ、ですよ」


「っ……。そうか。わかった」


 カレンさんがきりりと表情を引き締める。

 クールビューティーモードだ。


「それにしても……アイナはいつの間にか町長さんと仲良くなっていたのね。お母さん、知らなかったわ」


「えへへ。おどろいた?」


「ええ。とても驚いたわ」


「アイナね、おともだちいっぱいできたんだよ。シローお兄ちゃんでしょ、町長でしょ、あとこっちのロルフお兄ちゃん」


「はじめましてステラ殿。天空神フロリーネに仕える神官で、ロルフと申します」


「はじめましてロルフさん。娘がお世話になっています」


「あとねあとね、ここにはいないんだけどね、ライヤーお兄ちゃんとネスカお姉ちゃんと、キキお姉ちゃんもおともだちなの! みんな『すごうでのぼーけんしゃ』なんだよ。すごいでしょ?」


 アイナちゃんは宝物を自慢するかのように、俺たちを紹介していく。

 ステラさんは嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑んだ。


「お友だちがたくさんいて、アイナは幸せ者ね」


「うん!」


 元気よく頷くアイナちゃん。

 そして、たたたとベッドのそばへ行き、ステラさんの手を握る。


「アイナね、『しあわせもの』なの!」


「そう。良かったわ」


「おかーさんごはん食べた? アイナね、シローお兄ちゃんたちにナシュのスープつくるの」


「ごめんねアイナ。本当ならお母さんが作らないといけないのに……」


「ううん。アイナおりょーりするの好きだからへーきだよ」


「ありがとう。じゃあ頼んじゃおうかしら? 実はお母さん、お腹がペコペコなの」


「お腹ペコペコ? アイナがごはんつくったら食べてくれる?」


「もちろんよ。早く食べたいわ」


「うん! アイナにまかせて。すぐつくるから!」


 アイナちゃんは一度奥への部屋へと入り、桶を持って戻ってくる。


「井戸でお水をくんでくるねー」


「アイナ嬢、私もお手伝いしますよ」


「ありがとロルフお兄ちゃん」


 アイナちゃんとロルフさんが、水を汲みに外へと出ていく。

 そんな2人を見送った後、ステラさんはカレンさんへ顔を向け、


「町長さん、すみませんが少しだけ席を外していただけないでしょうか? シローさんと2人きりで話したいことがありまして……」


 と言った。


「わかった。しばし外に出ていよう。シロー、わたしは外で待っているから、話が終わったら声をかけてくれ」


「わかりました」


 カレンさんも外へと出ていく。

 これで部屋には、俺とステラさんだけとなった。


 2人きりで話したいってことは、当然アイナちゃんのことについてだよな。

 雇用形態について訊きたいのかな?


「それで、俺に話ってなんでしょう?」


「実は……シローさんにアイナのことをお願いしたくて」


「お願い……ですか?」


 そう訊き返すと、ステラさんは真剣な顔でこう言ってきた。


「はい。わたしが死んだあと、アイナの面倒をみてはもらえないでしょうか?」

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