第3話 等価交換スキル
町は、森の出口から1キロほど歩いたところにあった。
特に町を囲う塀などもなく、部外者の俺でもすんなりと入ることができた。
「なんとまあ……のどかな町だこと」
町にはレンガ造りの家が並んでいる。
たまに、いかにも町人ですって感じの人たちとすれ違う。
アウトドアスタイルの俺を興味深そうな目で見ていたから、試しに「こんにちはー」と声をかけたら、「こんにちはー」と返ってきた。
おおっ。ばーちゃんが残した指輪、ちゃんと異世界の人とお話しできてるぜ。
そんな感動を覚えていると、不意にお腹がグーと鳴った。
理由は簡単。目の前にめっちゃ美味しそうな串焼きの屋台があったからだ。
「おっ、そこの兄ちゃん一本どうだい? 安くしとくぜ」
屋台のおっちゃんが話しかけてきた。
じゅうじゅうと音を立て、炭火で焼かれている串焼き肉は美味しそうな香りを漂わせている。
この串焼きをビール片手に食べてみたい。
俺は強くそう思った。
「これってなんの肉ですか?」
「角ウサギの肉さ。特別に銅貨1枚にしとくよ。どうだい?」
「うーん。すっごい食べたいんだけどね、あいにくといま持ち合わせがなくて……」
「なんだ冷やかしかよ」
おっちゃんが途端に顔をしかめる。
その態度、客商売としてどーなんだと思わなくはないけど、俺はとぼとぼとその場から立ち去った。
「異世界のおカネがあれば、あの串焼き食べられたのになー。くそー」
俺はズボンのポケットに手を突っ込み、中に入っていたものを無造作に取り出す。
全部で3800円あった。
異世界に来る前にコンビニで買い物したお釣りだ。
こんだけあればちょっと豪勢なランチだって食べられるのに、異世界じゃ串焼き一本も買えないときた。
「はぁ……。角ウサギの肉かぁ。日本円であの串焼き買えればなー」
その時だった。
手に持っていたカネがふっと消え、かわりに見たこともない硬貨が現れたじゃないか。
「な、なんだこれ!?」
茶色い金属でできた硬貨が全部で38枚。
「いったい俺のカネは……ああっ!? まさかこれが『等価交換』のスキルか!?」
消えたのは3800円。
現れたのは茶色い硬貨が38枚。
俺はダッシュで屋台へと戻る。
「ん、さっきの兄ちゃんじゃないか。今度こそカネを持ってきたんだろうな?」
「なあおっちゃん、さっき言ってた『銅貨』ってこれのことか?」
俺はさっき現れた茶色い硬貨をおっちゃんへと見せた。
おっちゃんは不思議そうな顔で首を傾げる。
「なにあたり前のこと言って……ああ、なるほどな。その格好を見るに兄ちゃんは他国から来た旅人か。そりゃこの国の通貨を知らなくてもしゃーねーわな」
おっちゃんはひとりで納得したようにうんうんと頷き、
「おう。兄ちゃんの持ってるソレが銅貨だぜ」
と言った。
瞬間、俺は地面に膝をつけて叫んだ。
「よっしゃーーーー!!」
続けて、
「おっちゃん! 串焼きを2本――いや、3本くれ!」
「あんがとよ。銅貨3枚だ」
「はい、これ」
俺はおっちゃんに銅貨を3枚渡す。
おっちゃんは串焼きを渡してくる。
「まいど。熱いうちに食ってくれ」
「いっただっきまーす!」
異世界ではじめての食べ物は、なんの味付けもされていなかった。
ビールを用意しなくてよかった。
俺は味付けのされていない串焼きを食べながら、そう思うのだった。