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第24話 冒険者ギルド

 カレンさんの話では、冒険者ギルドの視察の人が隣町に着いたらしい。

 『らしい』というのは、情報元が伝書鳩だったからだ。


 隣町までの距離は、馬車で3日ほどとのこと。

 お手紙を運んできた鳩の移動時間を計算に入れると、早ければ明日。

 遅くとも明後日には視察の人が到着するんだとか。


「シローお兄ちゃん、きょうもお客さんいっぱいだったね」


「うん。ありがたいことだよ」


 店舗を持った俺は、マッチの他にも商品を並べるようになった。

 といっても、爪楊枝や雑巾、ホウキやちり取りなどの、ちょっとだけ生活が楽になるアイテムがメインだけどね。

 それでも家を守る奥様方からは好評で、並べても並べてもすぐに完売していた。


 そんなわけで、本日の営業も無事終了。

 俺とアイナちゃんは、陳列棚に視察の人用のアイテムを並べている真っ最中だ。


「シローお兄ちゃん、これこっちでいい?」


「うん。いいよ」


「アイナね、これキラキラしててきれーだからね、こっちにならべるのがいいとおもうんだけど……シローお兄ちゃんどうおもう?」


「おー、アイナちゃんの言う通りだね。確かにそこに置いてある方が手に取ってもらえそうだ。うん、そこに置いてもらえるかな」


「はーい」


 自分で店舗を持って分かったことが、2つある。

 一つは商品の陳列にもセンスが必要だということと、もう一つが俺にはそのセンスが絶望的になかったということだ。


 しかし神は俺を見捨てはしなかった。

 まるで俺の弱点を補うかのように、アイナちゃんが抜群の陳列センスをみせてくれたのだ。


 アイナちゃんが商品を並べると、陳列棚が見やすく美しくなる。

 まるで魔法みたいだった。


「はいアイナちゃん、これも並べてもらえる」


「うん」


 俺は空間収納から取り出したアイテムを、アイナちゃんに手渡す。

 結局、俺は空間収納のスキルを持っていることをアイナちゃんに打ち明けた。

 お店を手伝ってくれるアイナちゃんは、知っていた方がいいと思ったからだ。


「シローお兄ちゃん、アイテムならべおわったよ」


「ありがとうアイナちゃん。お疲れさま」


 商品を陳列し終えたタイミングで、


「よっす! 調子はどうだあんちゃん」


 ライヤーさんが店に入ってきた。

 隣にはネスカさんもいる。

 リア充カップルのご登場だ。


「こんにちはライヤーさん。ネスカさんも。調子はボチボチってとこです」


「…………シローのお店、繁盛してるそうね」


「おかげさまで」


 マーダーグリズリーの時に、ライヤーさんはネスカさんへの想いを告げた。

 あの後どんなやり取りがあったかは知らないけど、どうやら二人はお付き合いを始めたらしかった。

 末永く爆発すればいいのに。


「おう。聞いたぜあんちゃん。この町に冒険者ギルドのお偉いさんが来るんだってな」


「ええ。早ければ明日にも到着するって話です」


「視察か……。上手くいきゃこの町にも冒険者ギルドの支部を置いてもらえるかもな」


「だといいんですけどね。実は、カレンさんが視察にきた方をうちの店に連れてくるそうなんですよ」


「ほぉ。ってことはアレか。ニノリッチの町には冒険者向けのアイテムが――それも飛び切り凄いのを売ってるぞ、ってアピールするのが狙いか」


「鋭いですね。まさにいま視察の方の印象を良くしようと、冒険者向けのアイテムを並べていたところです」


「なるほどなぁ」


 ライヤーさんが陳列棚を見回し、大きく頷く。


「あんちゃんが売ってるアイテムは、どれも冒険者の役に立つ。この俺が保証するぜ」


「ありがとうございます」


「最近じゃニノリッチにも素材目当ての冒険者が増えてきたからな。冒険者ギルドの一つや二つ、あったっておかしかねーや」


「あはは。ちょっとライヤーさん、『一つや二つ』って。町に一個あれば十分じゃないですか」


 俺がライヤーさんの冗談に笑うと、あら不思議。

 ライヤーさんもネスカさんも、きょとんとした顔で俺を見返すじゃないですか。


「あんちゃん、ひょっとして知らないのか?」


「え、何をです?」


「…………シロー、冒険者ギルドはたくさんあるの」


「たくさん?」


「なんだ、あんちゃんマジで知らないみたいだな」


「不勉強ですみません。良かったら教えてもらえませんか?」


「いいぜ。と言いたいところだが……この手の説明はネスカの方が慣れてる。というわけでネスカ、あんちゃんに教えてやんな」


「…………もうっ。ライヤーはすぐわたしを頼る」


 ネスカさんが拗ねたように口を尖らす。

 ライヤーさんはネスカさんの肩を抱き、すまなそうに笑う。


「しょうがねぇだろ。おれは人に説明するのが苦手なんだから。おれの足りないところをお前が補ってくれよ」


「…………しょうがないなぁ」


 ぷいと顔を逸らすネスカさん。

 よく見れば、頬が赤く染まっている。

 ホント、末永く爆発すればいいのに。


「…………シロー、冒険者ギルドはこの国にいくつもあるの」


「それって冒険者ギルドの、支部のことですか?」


「…………違う」


 ネスカさんは首を横に振る。

 支部のことじゃないのか。


「…………ギルドについて教えてあげる。そもそも冒険者ギルドは――――……」


 ネスカさんが冒険者ギルドについて説明をはじめた。

 ギルドの成り立ちからはじまり、その役割。規模や国に対する位置づけなど。

 要点をまとめると、だいたいこんな感じだった。


 荒くれ者が多い冒険者をまとめあげた組織、冒険者ギルド。

 試験をクリアすれば身分証を兼ねた資格証を与えられ、ギルドでランクに応じた仕事を受けることができる。


 この辺の説明は俺が予想していた通り。

 しかし、ネスカさんの次のひと言で、俺はとても驚くことに。


「…………そして冒険者ギルドは、複数存在するの。……支部ではなくて、冒険者ギルドそのものが」


 ネスカさんの話では、この国だけでも『冒険者ギルド』を運営する組織がいくつかあるらしい。

 つまり、日本におけるプロレス団体のように、冒険者ギルドを名乗る団体(組織)がいくつも存在しているのそうなのだ。

 最後にネスカさんは、


「…………冒険者ギルドにも組織として優劣がある。どこのギルドが視察に来るかは知らないけど、まともなところであることを祈る」


と言って説明を終えた。


「えと……『まともであることを祈る』ってことは、まともじゃないギルドもあるんですか?」


 俺の質問に、ライヤーさんは当たり前だと言わんばかりに頷く。


「そういうこった。悪名高き冒険者ギルドってーと、『悪魔の三叉槍』や『毒竜の牙』あたりだな。でも、一番タチが悪いのは――」


「…………『迷宮の略奪者』」


 ライヤーさんの言葉を、ネスカさんが引き継ぐ。

 示し合うことなく言えるってことは、それだけ悪い意味で有名ということだ。


「タチが悪い……ですか」


「そうだ。『迷宮の略奪者』はな、この国ん中じゃ2番目にでっかい冒険者ギルドなんだけどよ、噂じゃかなり悪どいことをしてるらしーぞ」


「そういえばカレンさんが冒険者ギルドの名前を言っていたような……。なんて言ってたっけな~。うーん……」


 腕を組みカレンさんとの会話を思いだそうとしていると、アイナちゃんが「あ!」と声をあげた。


「町長ね、たしか『めいきゅーのりゃくだつしゃ』っていってたよ」


「「「……」」」


 アイナちゃんの発言に、大人チームが黙り込む。


「ライヤーさん」


「なんだ?」


「カレンさんは、『迷宮の略奪者』の評判を知っているんですかね?」


「知らない、だろーな。冒険者でも知らないヤツがいるぐらいだ。町長とはいえ、こんな辺境じゃあな」


「なるほど」


 SNSどころか、電話すらない世界なんだ。

 一部の界隈じゃ有名な話でも、それ以外では知られてないなんてことはざらにあるんだろう。 


 視察にやってくるのは、最悪の冒険者ギルド。

 カレンさん、がんばってくださいね。

 俺もできる限り協力しますから。

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