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第21話 信頼による絆

 討ち取ったマーダーグリズリーの各種素材は、高値で取引されているそうだ。


「ライヤー殿、そちらから引っ張って引き剥がしてください」


「おう」


「キキ殿は牙を、ネスカ殿は血を革袋に入れてください」


「りょーかいにゃ!」


「…………わかった」


 そんなわけで、ただいまクマは絶賛解体中。

 ロルフさんの指示で3人がクマから素材を剥ぎとっている。

 おかげでけっこーグロい光景が目の前に広がっていた。


「良し。毛皮は剥げたぜ。次は爪だな」


「ねーねーライヤー」


「ん、どうしたキキ?」


「こいつのキンタマはどうするにゃ?」


 お年頃の女の子から、まさかの発言が飛び出してきた。

 しかし、蒼い閃光のみんなは誰も気にしていない様子。


「そりゃ持って帰るだろ。なあロルフ?」


「その通りです。マーダーグリズリーの睾丸は薬の材料としても価値がありますからね。当然、剥ぎとってください」


「はーい」


 キキさんがダガーを器用に操り、クマさんのタマタマをチョッキンする。

 それを見て、俺の股がヒュンとした。

 時間と共にクマはどんどん解体されていき、最後は肉と骨だけになった。


「さーて、こんなもんか? これ以上は持てないもんな」


 ライヤーさんの言葉に、他の3人が頷く。

 みんなクマの素材で荷物がパンパンに膨れ上がっていた。


「よし。一度ニノリッチに戻るぞ」


 とライヤーさん。


「あれ? ライヤーさん探していた薬草はいいんですか?」


「薬草よりずっと価値のあるマーダーグリズリーの素材を手に入れちまったからな。腐っちまう前に売らなきゃ勿体ないだろ」


「なるほど」


 ニノリッチにはモンスターの素材を買い取ってくれる商人は存在しない。

 だからライヤーさんたちは、ネスカさんの氷魔法で素材を凍らせ、その間に大きな街まで運ぶつもりらしい。


「素材を売るのも大変なんですね」


「冒険者ギルドがあれば買い取ってもらえるんだけどな。ま、こんなのは慣れっこさ。辺境じゃよくあることだしな」


 ライヤーさんは、なんでもないとばかりに笑う。

 ニノリッチに冒険者ギルドが出来れば、ライヤーさんたち冒険者はもっと楽になるんだろうな。

 これは何としても、冒険者ギルドをニノリッチに置いてもらいたいもんだ。

 でもいまは――


「ライヤーさん、」


「なんだあんちゃん?」


「マーダーグリズリーの素材、俺が運びましょうか?」


 命懸けで俺を逃がそうとしてくれた、蒼い閃光のみなさんに恩返しといきますか。


「あんちゃんが? ぷっ……だっはっは! 急に面白いこと言うなよ。でも、ありがとよ。あんちゃんの気持ちは嬉しいが……ちぃと腕が細すぎるかな?」


「実は俺、みなさんに黙ってたことがあるんです。見ててください」


 そう言うと、俺は後ろを振り返り残されたクマのお肉に近づいていき、


「えい。空間収納発動」


 500キロは残っていたクマのお肉を、空間収納であっさりとしまってみせる。

 これには『蒼い閃光』の4人も、ただただポカン。


「……シロー、空間収納のスキル持ってたにゃ?」


「ええ、実は持ってました。ただレアなスキルなんで秘密にしてたんですよね。黙っててすみません」


「謝罪など不要ですよシロー殿。むしろ、商人として賢明な判断です。空間収納のスキルを持っていると、要らぬ災厄を呼ぶことがありますからね」


「…………ロルフの言う通り」


「そうだぜあんちゃん。おれたちはあんちゃんに命を救われたんだ。だからよ――」


 ライヤーさんは俺の前まで歩いてきて、深く頭をさげる。


「蒼い閃光のリーダーとして礼を言わせてくれ。仲間の命を救ってくれて感謝する。本当にありがとう。あんちゃんはおれたちの命の恩人だ」


「シロー殿、私からも感謝を」


「ボクも! ありがとーシロー!」


「…………ありがとう。この恩は忘れない」


 全員が頭を下げてくるもんだから、俺は慌ててしまう。


「ちょっ、わか――わかりました! わかりましたからもう頭をあげてください!」


「お、そうか」


 ライヤーさんがさっと頭の位置を戻す。

 冒険者だけあって切り替えが早いな。


「そんじゃあんちゃん、悪いがマーダーグリズリーの素材を任せていいか?」


「ええ。構いませんよ」


「いや~、あんちゃんが空間収納持ちだったなんて助かるぜー」


 みんなからマーダーグリズリーの素材を受け取り、まとめて空間収納へとしまう。


「じゃあ、ニノリッチに帰りましょうか?」


 俺の言葉に四人は「おー!」と応える。

 こうして、予期せぬハプニングもあった俺の冒険者体験は幕を閉じるのでした。

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