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第18話 冒険者体験のはじまりと非常食

 役場を後にした俺たちは、そのまま町の東にある森へと入っていった。

 冒険者体験のはじまりだ。


 道なき森を進む『蒼い閃光』と非戦闘員の俺。

 隊列っていうのかな?


 斥候でケットシー(猫獣人)(かわいい)なキキさんが先導し、その斜め後ろをリーダーのライヤーさん。

 真ん中は俺と無口な魔法使いのネスカさんで、最後尾は武装神官のロルフさんだ。


 近接戦闘できる人を前後に置き、俺を守りながら進む。

 なんとも合理的なフォーメーションだと思う。


「あんちゃん、なるたけモンスターを避けて進むから安心してくれ」


「はい。ありがとうございますライヤーさん」


「ってなわけだ、任せたぜキキ」


「ふっふ~ん♪ ボクに任せるにゃ」


 ライヤーさんの言葉に、キキさんがどんと胸を叩いて答える。

 『蒼い閃光』の目的は薬草の採取。

 それも普通の薬草ではなく、この森でしか生えていない特別な薬草を探しているらしい。


 だからモンスターとの戦闘は可能な限り避け、薬草探しに集中するとのこと。

 俺の同行にOKを出してくれたのも、そんな理由からなんだとか。


 特別な薬草を探し求め、あっちへこっちへ。

 半日ほど森を歩きいくつか薬草は見つかったけど、目的の『特別な薬草』は見つからなかった。


「やれやれ、やっぱ『アレ』はそう簡単にゃ見つからないか。しゃーない。今日はここまでだ。夜営の準備をするぞ」


 ライヤーさんの言葉で夜営の準備をはじめたのは、日が傾きはじめた頃だ。

 余裕があるうちに休むのが長く続けるコツなんだぜ、とライヤーさんは笑っていた。

 以前俺が勤めていたブラック企業の、若ハゲ社長に聞かせてやりたい言葉だぜ。


「薪を集めてきたにゃー」


「あんがとよ。そんじゃ、あんちゃんに売ってもらったマッチで火をおこそうぜ」


 ライヤーさんがマッチを種火にして薪に火をつけた。

 焚火ってなんかロマンチックだよね。


「ホント、このマッチは凄いよな。こうやって簡単に火が熾せるんだからよ」


「シロー殿に感謝ですな」


「いやー、ウチの商品を使ってもらえて俺のほうこそ感謝ですよ」


 マッチの評判は上々なようだ。

 ロルフさんの話では、ニノリッチにいる冒険者の間では必須アイテム化してるそうだ。


「あんちゃんのマッチを王都で売ったら大儲けできそうだよな」


「いずれ王都の商会が、シロー殿のマッチに目をつけるでしょうね」


「ハハッ、それな。ロルフの読みは当たるんだ。マッチが知れ渡るのも時間の問題だろうぜ。あんちゃん、そんときは思いっきり高く売りつけてやんな」


「ええー!? 高くですか?」


「そうだ。それも思い切りな。王都の商人はガメツイからよ、あんちゃんみたいな優しい奴はすぐにカモにされちまうぞ」


「それは気をつけないとですね」


 そんな感じにマッチトークに華を咲かせていると、不意にネスカさんが、


「…………ライヤー、お腹空いた」


 とポツリ。

 タイミングよくキキさんのお腹が「ぐー」と鳴る。

 女子の二人は空腹のようだ。


「今日は歩きっぱなしだったもんな。そろそろ飯にするか」


「やったー。ボクお腹もペコペコにゃ~」


 ということで夕食になった。

 四人が背負い袋から、干し肉や硬そうなパンを取り出す。


 へええ。やっぱ野外活動がメインな冒険者の食事は質素なんだな。

 とか思いつつ見ていると、


「ん? シローはゴハン持ってきてないのかにゃ?」


 なんかキキさんに心配されてしまった。

 キキさんは干し肉を半分に噛み千切って、


「ボクの半分あげようか?」


 と訊いてきた。

 俺は慌てて首を横に振る。


「あー、大丈夫です。ちゃんと自分の分は持ってきてますから」


「そっか。よかったー。ボクのゴハンが半分に減っちゃうかと心配したにゃ」


「誤解させてすみません。冒険者のみなさんがどんなものを食べてるか興味があったもので」


「ん? 冒険者に限らず旅人も商人も、移動中に食えるものなんてそういくつもないだろ」


「ライヤー殿の言う通りですな。現地で調達できたときは別ですが、我々は仕事中(冒険中)にこういった保存食を食べていますよ」


 ロルフさんが干し肉とパンを見せてくる。


「なんかどっちも硬そうですね……」


 俺の素直な感想にライヤーさんが肩をすくめる。


「そりゃあ乾燥させてあるからな。……って待てよ。あんちゃんの飯は違うのか?」


「はい。俺のご飯はこれです」


 俺はリュックから自分のご飯を取り出していく。

 アルファ米を使った炊き込みご飯。

 パンやビスケット。

 チョコやバータイプの栄養食。

 各種缶詰。


 どれも災害用の非常食としてホームセンターに売られていたものだ。


「…………これ、食べもの?」


 ネスカさんが首を傾げる。

 近くにあったチョコバー(袋入り)を手に取り、くんくんと匂いを嗅ぐ。


「そうですよ。見ててください」


 俺は缶詰の蓋を開け、四人に中身を見せる。

 四人が缶詰を覗き込む。


「これは鶏肉をタレで煮付けた食べ物です。こっちは甘いお菓子のビスケットとチョコレート。それでこれは――――……」


 俺は非常食を順番に説明していった。

 お湯を入れて炊き込みご飯を作ったり、袋の封を切ってパンを出したり。


 四人は見たことがない非常食に目を丸くする。

 特にネスカさんなんか、口からヨダレが溢れ出ていた。

 まさかの食いしん坊か。


「あんちゃん、一人でそんなにたくさん食べるのか?」


 俺の前に広げられた保存食の数はかなりある。

 とてもじゃないが、一人で食べきれる量じゃない。


「いえ、これはみなさんの分も含まれてます」


「おれたちのも……だって?」


「ええ。実はこれ、ウチの店で出す商品にしようかと考えているものなんですよ。ですので、みなさんに食べていただいて感想を聞かせてくれると助かります」


「そういうことなら任せてくれ! おいみんな、聞いた通りだ。あんちゃんのためにも食べてやろうぜ」


「わーい! ありがとにゃシロー!」


「恵みを与えてくださるシロー殿に、神々のご加護があらんことを」


「…………あたしはこれ食べる」


 四人がわっと非常食に手を伸ばす。


「な、なんだこれ? なんの味付けだ! なんでこんなに美味いんだ!?」


「おいしー! シローこれおいしーにゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


「なんと柔らかいパンでしょう。神殿でもこれほどのものは食べたことがありません」


「…………甘くておいしい。シロー、もっと頂戴」


 かくして、非常食の感想は四人とも「おいしい」で終わるのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の作品も思ったことあるけど、缶詰なんか売ったら、異世界の森はあっという間にゴミの山になってしまう…
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