第17話 冒険者パーティ、蒼い閃光
次の日。
町長直々に冒険者を紹介してもらえることになった俺は、二日続けてカレンさんの執務室へとやってきた。
アイナちゃんには、お店はしばらくお休みすると伝えてある。
ここのところ忙しかったから、お母さんとゆっくり過ごしていることだろう。
「おはようございまーす。士郎でーす」
ノックをしてから扉を開ける。
執務室には、カレンさんの他に4名の冒険者っぽい人たちがいた。
彼らが件の冒険者たちに違いない。
「来たかシロー。ではさっそく紹介しよう。彼らは冒険者パーティ『蒼い閃光』。リーダーは――」
「おれだ」
そう言って進み出たのは、髪を短く切りそろえた青年……って、あれ?
この青年、どっかで見たことがあるような……。
「おれが『蒼い閃光』のリーダー、ライヤーだ。町長から同行したい奴がいるって聞いてたけど、マッチのあんちゃんのことだったんだな」
そう言いニカっと笑う青年を見て、俺は彼が誰だったのかを思いだした。
「ああー! 最初にマッチ買ってくれた冒険者のひとだ!」
「覚えててくれたみたいだな。客の顔を忘れないなんてさすが商人だ」
「いやぁ、ライヤーさんは一番初めにマッチを買ってくれた人ですからね。そりゃ忘れませんって」
「そうかい。腕っこきの商人さまに顔を憶えてもらえて光栄だよ」
「煽ててもなにも出ませんよ。それに俺なんてまだまだ駆け出しの商人です」
「マッチなんて凄いものを売ってるのにか? まあ、いいさ。まずは仲間を紹介しよう」
ライヤーさんが順番に仲間を紹介していく。
「コイツは神官のロルフ」
「はじめましてシロー殿。道中よろしくお願いしますね」
「こちらこそですロルフさん」
「あんちゃん、神官つってもロルフを甘く見ない方がいいぜ。神官は神官でも、メイスを力任せにぶん回す武闘神官だからな。優しそうな顔をしてるけどよ、怒るとおっかないんだこれが」
からからと笑うライヤーさん。
なるほど、メイスか。
ロルフさんは身長が190センチはありそうで、体格もムキムキ。
着ている神官服(?)がはち切れんばかりだ。
もっと大きいサイズなかったのかと、ツッコミを堪えるのが大変なレベルで。
怒らせたら怖いというのは、たぶん本当だろうな。
「次に、こっちの眠そうな顔してんのが魔法使いのネスカだ」
ライヤーさんがとんがり帽子をかぶった女の子の肩を叩く。
「……」
「ほらネスカ、シローに挨拶しろ」
「…………ども」
「よ、よろしくですネスカさん」
「見ての通りネスカは無口でな。でも魔法の腕は確かだから安心していいぜ。ちっとばかし詠唱がゆっくりなのが、仲間としちゃハラハラするけどな」
「…………余計なお世話」
「そう思うなら詠唱をもっと速くしてくれ」
「……考えておく」
「はぁ……。お前いつも考えるだけで終わるんだよな」
ライヤーさんは深いため息をついたあと、気を取り直したように顔を上げる。
「そんでこのちっこいのが、」
「キキだにゃ」
キキと名乗った少女が被っていたフードを取ると、そこには逆三角形の耳がピコピコと。
「ま、まさか獣人ですか!?」
「うん。ボクは猫獣人なんだにゃ」
「ケットシー!!」
俺が鼻息を荒くしていると、
「ん? ひょっとしてあんちゃんは獣人が嫌いなクチか?」
とライヤーさんが訊いてきた。
これに対し俺は首をぶんぶんと左右に振り全力否定。
「まさか! こんな可愛い種族を嫌うわけがありませんよ!」
「そ、そうか」
「そうですよ!」
「初対面なのに『可愛い』だにゃんて……ボク照れちゃうにゃ」
キキさんが頬に両手を当て、くねくね身をよじる。
「……キキ、あんちゃんはお前を可愛いって言ったわけじゃないからな」
ライヤーさんのツッコミも、くねくね真っ最中のキキさんには届かない。
やれやれとばかりに、ライヤーさんは困った顔を俺に向ける。
「いや、変に疑って悪かったな。依頼人の中には獣人ってだけで嫌う、クソみたいな連中がたまにいるからよ。てっきりあんちゃんもそんな連中の一人かと疑っちまった。すまねぇ」
「獣人を嫌う連中ですって? 世の中には酷い人たちもいるんですね」
「あんちゃんの言う通りさ。だからおれたちは、その手のクソ野郎共からの依頼は受けないようにしてんのさ」
ライヤーさんが誇らしげに胸を張る。
「おれたちが辺境にあるこの町に来たのだって、そんなクソな連中に嫌気がさしてだからな」
「はにゃっ!? ねーねーライヤー、そういえばボクの紹介が終わってないにゃ」
正気を取り戻したキキさんから、ライヤーさんへ指摘が入る。
「おっとそうだったな。悪ぃ悪ぃ。……えーっと、どこまで話したっけ?」
「もういいよ。ボクが自分でするから」
そう言うとキキさんは、コホンと咳ばらいをひとつ。
「ボクは斥候をやってるにゃ。偵察したり罠を見つけたりするのがボクの役目なんだにゃ」
「もちろん、キキは戦闘もするぜ。ダガーも弓も使う」
「おおー。凄いですね」
「にゃっはっは。それほどでもあるんだにゃ」
キキさんが得意げに薄い胸を張る。
「ま、キキの一番の得意技は逃げ足なんだけどな」
「それは言っちゃダメなやつにゃ」
ライヤーさんとキキさんの掛け合いに、この場にいるほぼ全員が楽しげに笑う(ネスカさんだけ眠そうにしていた)。
「さて、そんじゃ早速森へ行くか。あんちゃん、準備と覚悟はできてるよな?」
「はい!」
「いい返事だ。なら出発するぞ」
体格のいい武闘神官のロルフさん。
無口な魔法使いのネスカさん。
斥候のキキさん。
この3人に、リーダーで戦士のライヤーさんを入れた冒険者パーティ、『蒼い閃光』。
俺はこの4人に同行し、いまから冒険者体験をはじめるのだった。
どうか道中危険な目に遭いませんように、と祈りながら。