初任務3
「えみはいらない子なんだ……」
えみはしくしくと泣き始めた。一人泣き始めたその姿に怜は狼狽してしまう。子供の扱いに慣れていないのもあるが無責任に「そんなことないよ」なんて気やすめでも言えない雰囲気だからだ。先ほどぶたれたことが事実である。母親の怒りの矛先がえみに向いただけで嫌いなわけではない。大事に思っているからのこそだとなぜ伝わらないのか? どうして怒ってしまうのだろうか……。
「ちょっとままは機嫌が悪くてえみちゃんのことまで手が回らないみたい」
返答はなくぐずっている。それもそうだろう。さっきの光景だと日常的にそういうひどいことを言われているようだった。だからこの一言だけで泣き止んで納得するはずがない。
「もうやだよぉ」
その声に心の叫びを感じ取った。かけではあるがダメもとで一つの提案をしてみる。
「その言葉ままに言いに行こう?」
「どうせ無駄だよ。また「あんたが勉強できないせい」って怒られるもん」
「いま、ままはね大変な状況になっててえみちゃんの言葉でしか助けられないんだ。力を貸してくれないかな?」
「どうせ怒られるからいやだ」
ここでぐずるとルイ先輩に危険が及ぶしここでながながと子供と格闘している暇はないので腹をくくった。
「わかった。ままにはえみちゃんのこと怒らないように言っておくからお話ししに行こう?」
「どうやって?」
「ままに怒らない魔法をかけるの」
言っている意味が分からないだろうが単にお母さんに口を封じる術をかけるだけである。きっとこれだけでも反撃されないとわかったえみちゃんは話してくれるだろう。
「絶対に私の事怒らない?」
「絶対」
絶対の意味が子供にとってどれだけ重いか。ここで破ってしまったらきっとこの子は絶対なんてないと知ってしまい絶望してしまうだろう。だからここは誓いの代わりに術でままの口を一時的に封じなくてはならない。
「わかった」
えみの手が重く感じられた。信用の重さだと感じた時には絶対に成功させてやるぞと思った。
ルイさんは術でお母さんを縛り付けて、私が来た時にはやっとかという顔をしていた。
「すみません遅くなりました」
怜は口封じの術をかける。
「えみちゃん。ままに魔法をかけたからお話してみて?」
にわかには信じられない光景が彼女の前には広がっている。うねうねと動く奇妙な物体。それを押さえているしらない男の人。心の内をすぐに言えるわけがない。
「えみちゃんはままに言いたいことがあるんだよね。ままにどうしてほしいのかな?」
小さく震えた声でつぶやく。
「怒らないでほしい」