仇
「いたたた……」
ルイはしりをさする。
「僕に当てるなんてひどいじゃないかー」
危機一髪噛みつかれる前にルイと久保田の間に結界を張ることができた。がその反動でしりもちをつくルイ。
「そんなこと言っている場合じゃないですよ」
あやかしの残党が久保田を飲み込みつつある状況を見てルイも真剣になる。
「そうだね」
ルイは再びあやかしに乗っ取られ「殺す」といながら暴れる久保田を緊縛する。
「誰を殺すんですか?」
怜が質問をするとルイのほうを向いてダミ声で答える久保田。
「誰を?……」
「久保田様は殺すと毎晩ささやかれて気味悪いとおっしゃいましたがどうして今、殺すなどというのですか?」
ルイは驚いた顔で怜を見る。
「どうして殺される立場から殺す立場にいるのですか?」
久保田様はきっと殺されるのではなくて「殺す」と自分に言い聞かせていただけなのかもしれない。でも誰を殺すのだろうか?
「誰を殺すんですか?!」
久保田の目が一瞬見開かれた気がした。そして動きを止める。
「娘?……そうだ、娘さえいなければ私は苦労しなかったのにィィィ」
「どうして娘さんを殺そうとまで憎んでいたんですか?」
堰が切れたように話し出す。
「塾行かせているのに一向に成績が良くならない。そのせいで塾の先生からは呼び出しを食らうし、うちの子は危機感がない。御三家に入らなくては意味がないのに。勉強はやったぶんだけ結果が出るのになんでうちのこはこうもバカなのかしら。知り合いの子はとても頭がよくて特進クラスなのにうちは一番下のクラス。ああ嫌になってしまうわ」
原因はやはり娘さんの事だったのか。娘さんと和解しない限り綾あやかしは久保田様から離れない。
「ルイさん。娘さんと久保田様を合わせてはどうでしょうか」
「危険すぎる。あの子だって今さっき母親に叱られたばかりで、しかもあやかしに取りつかれている母親の姿を見るなんてふたんが大きい。それにこの状況に連れてくるのは危ない」
「でも。僕では説得できません。やはり娘さんの言葉でないと響かないと思います」
「わかった連れてきて。ただし時間危険だと判断したらすぐにリビングに戻すから」
「今ねお母さんとお話していたんだけど、お母さんと何かあったのかな? 話せる範囲でいいから教えてくれないかな?」
「おかあさん、私の事嫌い……。べんきょうできないから」