依頼人
光沢のある茶色のカードに金の文字が光っている。
「この客様を奥の部屋へお連れして怜も同席しなさい」
怜は久保田様のところに赴きお辞儀をした。
「先ほどは失礼いたしました。用意が整いましたのでご案内いたします」
「ええ。よろしく頼むわ」
上から目線の久保田様をエスコートして奥の間にお通しする。大きなシャンデリアの下に赤い円卓。その上には季節の花が飾られている趣のある空間となっている。ベロア調の緑のクッション椅子を引いて座らせコーヒーをお出しする。
「マスターが参りますので少々おまちください」
部屋の隅に待機しているとマスターが現れて怜はお辞儀をする。
「お待たせいたしました。当店をご利用いただくのは初めてですよね?」
「ええそうよ。普通に看板にあやかし退治専門店とでも書いてくれればもっと楽に依頼できるのにどうして面倒くさい会員制なのかしらね? そこから説明してくださらない?」
「かしこまりました。あやかし退治業界は私共を合わせまして大きく2つの勢力に分かれています。あやかし撲滅派と我らあやかし穏健派。撲滅派はあやかしを悪とみなし発見次第手当たりに殺します。我々穏健派はあやかしにも人権があると考えております。すべてのあやかしが人間に害をなすものではなくて一部のやらかすことです。言葉が交わせるあやかしとは契約を結んであやかし退治の手伝いをしてもらっています。撲滅派にとってはあやかしと契約を結んでいる人物は危険なので排除対象となっております。それゆえ彼らに誰があやかしと契約を結んでいるか漏らさないためにもこうしてひっそりと活動をしているのです」
久保田はふぅんと相槌を打つ。
「撲滅派は堂々と店を構えているってことかしら?」
「いいえ。彼らも我々に知られたくないことがあるようで表向きには活動をしてはいません」
「その知られたくないことって?」
「私にはわかりかねます」
久保田は足を組んでコーヒーに口をつける。
「なんとなくわかったわ。家の中で毎晩寝ていると耳元で『殺す』と何回もささやかれるものだからもう気味が悪かったのよ。友達の咲子に相談したらここを紹介されたのよ」
「本来ならば一見様はお断りなのですが、ひいきにしてくださる江崎様のご友人ですから特例で引き受けさせていただきました。なので約束があります」
「この私が信頼に値しないっていうの?!」
「念のためですよ。あやかし退治の現場は録画録音禁止、そして他言無用ということですがいかがでしょうか?」
「なによ。それくらい平気よ。この私をバカにしているの?」
「滅相もございません。早速ですが今からお宅に伺わせていただきますね」
「ええ。あんな醜いもの早くおっ払って頂戴」
マスターの目が一瞬暗くなったがすぐに元に戻った。
「店の車で移動しますので裏口へご案内します」