あやかし業
「今日、怜君には例のお客様の同行が許されているからその時にわかるよ」
「はぁ」
開店時間になり人でにぎやかになり始めたころ、大きな宝石のネックレスに紫のシャツ、緑のズボンという奇抜なおばさんが現れた。ぎょっとする怜だが営業スマイルを作った。お辞儀をして左手を軽く後ろに、右手を胸に当てる。これがうちのスタイルだ。マスターは執事風喫茶にすることで女性の客を増やそうと考えている。
「おかえりなさいませお嬢様。お席へご案内します」
椅子を引いて座らせてテーブルのわきに添えてあるメニュー表をそっと目の前に開く。
「本日のおすすめは季節のケーキになります。ごゆっくりおくつろぎください」
軽くお辞儀をしてカウンターに戻る。カップを磨いていると立花先輩に声をかけられた。
「怜もだんだんいたについてきたじゃねえか」
「ありがとうございます。やっと一通りの仕事を覚え終わったばっかりなのでこれからです」
「律儀だなぁ。もうかわいい。お兄ちゃん褒めてあげちゃう」
「子ども扱いしないでください!」
頭をごつごつとした大きな手で無造作に撫でられる。怜は自分の手を見やる。
「私の手は小さいな……」
「何か言ったか?」
「立花さんの手は大きいですね」
「?」
「うらやましいです……」
オーダーの呼び出しが入ったので怜は逃げるように去った。
「なんだいまの?」
男女の格差だから仕方がないのはわかっている。だけど私が大きくてもっとしっかりしていれば守れたのものもあったのに……。ぬぐえない過去が頭をよぎる。
「ご注文はいかがしますか?」
「これを」
テーブルクロスにから手を出しSECRETと書かれたカードがちらりと見える。
「ご注文は……」
気まずい空気が流れどうすればいいのか冷や汗が流れる。そこに颯爽とタキシードの帯がはためき通る。
「うちの者が失礼いたしました。では確認させていただきますので少々お待ちください」
お辞儀をして怜はバックヤードに入っていくマスターについていく。
「申し訳ありません」
「秘密保持のため私があなたに黙っていたのであなたが謝る必要はありません。ではこれから教えますので覚えてくださいね」
怜が返事をするとマスターがカードをパソコンに付属しているスキャナーでスキャンするとOKの文字が表示された。
「このカードはいったい何ですか?」
「あやかし退治の依頼人がもつメンバーカードです」