胸の内に
「あなたの式神なんですよね? なぜ久保田様の家で暴れていたのですか?」
「私も驚いてね。いつもなら私の言うことを聞くんだけど何故か逃げ出してしまってね。手間をかけさせてしまって悪かったね」
店長は穏健派の偉い人だ。それなりのランクがあるのだろう。なのになぜあやかしを制御できないなんてミスをしたのだろうか? に丸焦げになって倒れているあやかしに意識を集中させる。
『ウルフはどうしてここにきたのか知っている奴はいる?』
一匹から返答が来る。
『逃げ出したんじゃねえよ。命令されてここに来たんだよ』
『どうして?』
『監視をするためだとよ。わいが言えるのはそこまでや』
監視? 式神の気配なんて先輩の雷しかなかったはずなのに? 何のために? あたりを見回したかったが挙動不審になっては詮索されかねない。
「結界は張っていましたが派手な戦闘をしてしまったので一応ですが家の中に異常がないか見回りしてきます」
これを口実になにか手がかりがつかめるかもしれない。しかしそれはすぐに打ち砕かれた。
「それはいいよ。全部状況見てたから何も異常ないことは確認済み」
「えっと、店長の式神はウルフで、僕と先輩の戦闘時にはもう逃げたはずなのでは?」
「言ったろう? 全部状況を見ていたって」
ニタリと意味深笑みを浮かべると頭上から嫌な圧力を感じた。全身がぴりぴりする。逃げろと頭が警鐘を鳴らしているが大きな獣に捕まったように体が動かない。黒い霧が天井に立ち込めてその真ん中には大きな目が現れた。
「これは……」
「私と契約したあやかしだよ」
「ありえない! 契約は一人一匹までしかできないはず!」
何匹までというルールはないが大抵の人は一匹だ。なぜなら2匹以上と契約した人はほぼあやかしに生気を奪われて死ぬからだ。過去にそれで死んだ人が何人もいる。
「そんなことはないよ。だって私は半妖だから」
次々と告げられる情報に頭が追い付かない。
「半妖だから契約を結んでいるというよりお友達だから力を貸してくれるのさ」
「おかしいです! だって僕たちはあやかしを退治するのに見返りなしでそれに協力するあやかしなんているはずありません」
「おっとこれは話しすぎた。ということだ。怜も女子だってことは周りの人にばれたくなかったらおとなしく私の言うことを聞くんだね。そうすれば悪いようにはしないさ。それに先ほどの戦闘を見て君の力、期待しているよ」