契約
これで全てが終わる。よかった、の、かな……?答えなんてない。なくていい。だってもう死ぬんだから。たしかこのウルフは指名手配がかかっていた大物だったはず。報奨金がたんまりともらえたかな……。息が苦しい。そりゃそうか火の中だもん。
ウルフは緊縛を解こうと熱さも相まって暴れていると術が解けて炎は消え、ウルフは逃げて行った。
「どう、して? 完ぺきだったのに……」
絶望で心が支配された。ここまで来たのにどうしてこうも爪が甘いのか。体からは煙が上っている。背後からルイ先輩の声がした。
「ここまでだ」
「どうして邪魔をするんですか? ここまで来たのに?!」
「君は死んではいけない」
「先輩も憎しみからは何も生まれないとかきれいごと言うんですか?」
「さっきのウルフはうちの店員の式神なんだ。殺されては困る」
「でもあれは指名手配されているはず!」
「表向きはね。過激派には君みたいなあやかしを憎む人がたくさんいて人員、戦力、金が足りているんだ。だが穏健派は人が少なくて彼らに対抗するためには力が必要だった。だからあのウルフ、ジャクライと契約をしたんだ。そうすれば報奨金も彼らに取られなくて済むしね」
「私がこのまま穏健派を辞めたいと言ったら?」
「この事実を知った以上ただでは解放できないね」
「この場を誰も見なかったことにすればいいはずだ」
「式神と俺の二対一、ただでさえ君のほうが不利なのにましてやその体でやるのかい?」
ルイはポケットに手を突っ込んだままこちらを俯瞰している。状況は理解している。禁忌を犯しているから戦闘はさっきのでかなり疲れた。でもここで捕まるわけにはいかない。気合で立ち上がって構える。
「やるのかい」
「もちろん」
こちらから攻め込むのは不利だがそんなのは承知でナイフ一本で懐に乗り込む。がナイフをはじく乾いた音が響く。
「そんなものかい?」
先輩は一歩も動かずに私をかわす。こんなので倒せるとは思っていない。だけどこんだけ先輩との距離が近ければ式神も攻撃のしようがないだろう。
「雷」
頭上に暗雲が立ち込めごろごろと不気味な音が鳴り始め私のすぐ右に落ちた。
「この距離で?」
下手すれば自分に当たってしまうのに。ここまで制御が可能だとは相当の手練れ。
「雷とはSランクの契約を結んでいるんだ」
Sランク……。契約上では最高ランクに位置する。これは自分の体の一部をあやかしに差し出す代わりに強い力を発揮してくれる。何千とあやかし退治者がいる中で百人しかいない選ばれし者。
「怜は何ランクだっけ?」
馬鹿にされたように問われるのには腹が立ったが反撃できない。思わず唇を噛む。
「ランクなんてどうでもいい。勝てばいいんだろ」