追放
『私を殺した後は野となれ山となれか……。人間とは愚かだな』
「愚かだろうが何だろうが構わない」
氷の矢を懐から出したナイフで折り飛ばす。割れた音から戦闘が再開する。ウルフから距離を取って術で矢を一斉に放つが奴は無傷でこちらに猛進してくる。緊縛をかけるも鎖は噛み千切られ一直線に向かってくる。
「こなくそっ」
0距離になる前に結界を張ると破れずにそこに八つ当たりをしている。四方から結界で包囲すれば捕獲できて上からとどめを刺せば終わる。ならやるしかない。チャンスと思って四方を包囲した。ここから上からナイフで急所を一突きすればすべてが終わる。
「終わりだっ!」
結界に無意味な八つ当たりを繰り替えしている奴に近づく。ジャンプをして渾身の力を込めて上から飛び掛かる。
頬を引かかれその爪は深く刺さるが急所にはナイフが届いていた。頬に返り血が付き、あたりにはじわじわと紅が広がって行くーーと思われた。が実際は違った。
『ここまで愚かとは思わなかったな』
ウルフは結界を破ってジャンプした怜に飛び掛かり、利き腕に噛みついて床に押し倒した。ナイフで反撃しようとしたがその衝撃でナイフが手からこぼれる。
『観念して私に食われるんだな』
あきらめて目を閉じようとーー
「母さんごめん」
その一言が脳に響きわたる。ここで死んでたまるものか。凛久の無念を晴らさなくては。手土産にウルフの体の一つや二つ持ち帰んないと。なんとか術をかける。
『おまえ、自分ごと私を緊縛するとは正気か?』
干からびた笑いが漏れる。
「はは、これでもう逃げられないよ。逃がさない。一緒に死んでもらう」
右腕はもう使い物にならない。あやかし業はもうできなくなるだろう。ならばせめてこいつだけで殺っておかなくちゃ。術を唱える。怜とウルフは火だるまになって燃えた。