ウルフ
喫茶店に帰ってくるとすでに日は落ちておりごはん時で繁盛していた。バックヤードでデスクに向かって報告書を二人で書いていた。気になってちろちろとルイのほうを向くとルイも気づいたようで声をかけてきた。
「なに?」
「ルイさんはどうしてモデルもやりながらあやかし退治なんてしているんだろうなあって。だって有名人だからこんなところでバイトしているなんてばれたらファンの子が殺到しますよ?」
あやかし退治する人には何かしら事情があることくらい百も承知していたが気になって仕方がなかったので思い切って聞いてみた。
「あやかしに助けられたことがあって恩返しというか、過激派によって害のないものまで殺されている事実を知って救いたいと思ったからさ」
「そうなんですか」
「不満そうな顔しているけれど案外普通でがっかりした?」
そんなに顔に出ていたのかといつもなら気にするはずなのにそれを隠そうともせず嫌悪感を示した。
「いえ、私はあやかしが好きではないのでそういったことは理解できないだけです」
「俺も好きとまではいかないけれど、俺を助けてくれたあやかしには感謝してる」
いつも胸にある凛久との出来事がそのことばで触発されて爆発した。
「私の昔のパートナーがあやかしにやられて夢を絶たれたんです! あなたみたいな人ばっかりだなんて思わないでください!」
両手で机をたたいて立ち上がった目には涙が今にもあふれそうでルイをにらみつける。
「あやかしなんていなくなっちゃえっ!」
「じゃあなんで穏健派のうちに来たの?」
少し無神経だったかなと思いつつも人には十人十色思い出がある。責める気は全くない。そこまで憎いならば過激派に行くはずなのにそんなつらい思いをしてまでうちにいる意味は何だろうと気になる。
「凛久と約束したから。あやかしをむやみやたらに感情に任せて殺さない。って。本当は過激派にいってたくさん殺したい。凛久を苦しめた奴らを片っ端から打ちのめしたい。でもそれは凛久の望んだことじゃない。私がそんなことをしているって気づいたらかなしむから」
ルイは怜を包み込み逃げ場を防ぐ。いきなりの事に怜は心臓が流行うちする。きれいなヒスイ色の瞳が怜をとらえて離さない。
「な、なんですか?」
「ああ、怜はあやかしのことになると一人称が僕から私になっているのはなんで?」
「む、昔女の子にあこがれてた時期があって私って自分のことを言っていたなごりですよ」
「ふうん」
手から汗がじわじわと出てくる。納得していない疑いの目を見るとこれは通用していないのかと焦る。
「あとさっきの任務で母親は終始うなっていたがどうやって会話をしていたんだ?」
「きっと親子ならなにか通ずるものがあったんでじゃないでしょうか?」
「顔赤いけど?」
「それは先輩が近いからです!」
あっそ、とほざいてますます顔が近くなって触れ合うときーー
電話が鳴った。先輩が私から素早く離れて受話器を取る。
「もしもし、久保田様ですね。お目覚めになられたのですか? よかったです。よくない? どういったことでしょうか?」
しばらくやりとりを聞いているとなにやら問題が起きたようだ。
「狼が? 現れては消えて家じゅうを走っているおとがする……。かしこまりました至急向かいます」
狼――その単語に反応せざるを得ない。眠っていた記憶が鮮やかに呼び覚まされる。
体が勝手に反応して飛び出していた。
久保田様のチャイムを押すと恐怖で震えていた。
「こんにちは。まずは安全なところに。うちのカフェにいっててもらえませんか? 一般人は危ないので」
「わ、わかったわ」
えりをつれて久保田様はカフェへ行くのを確認すると結界を張る。ここから逃れられないようにするために。