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暗黒龍を助けたい! 2

 シリアス回です。


 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!

 山道は険しい。


 落ち葉が重なり、湿っている山道は滑りやすく、気を抜くと転びそうだ。


 額には汗が浮かび、息も上がる。


 一度岩に腰掛けて、ふぅと息をついた。

 今半分ほどのぽってきた。あと半分である。

 鞄の中から水筒を取り出し、一口、口の中に含むとゆっくりと飲み下す。

 

 この1年鍛錬を重ねてきた。

 アイテムの精製方法などはよく覚えていたので効率的にスキルアップしてきた。

 六歳にしては体力もあると思う。

 自分の体に回復魔法をかけ、岩から腰をあげる。


 やっと会いに来られた。

 ずいぶんと待たせてしまった。早くすこしでも早くしなければ。


 何度か転んで泥はついたが怪我をすることなく、そこへたどり着くことができた。


 闇を飲み込むような大きな岩穴がそこにはあった。

 中からは大きな恐ろしい唸り声が聞こえる。


 岩穴の中へ入ると、ひんやりとした冷たい空気が広がっていた。

 天井からは水滴がポタポタと落ち、足元には水たまりが広がっている。


 目の前に大岩が立ちふさがり、行き先を塞ぐ。

 手で触れ、魔力を流すと岩肌に青白い古代文字が浮かび上がる。


 フィリアはゆっくりと古代文字を詠唱し、扉を開く。


 その先にもいくつかの罠があり、間違えないようにしっかりと、冷静にその罠を解いていく。


 この先に彼がいる。


 やっとだ。やっとここまでこられた。


 大きく息を吐き、呼吸を整える。下手をしたらその場で殺されてしまうかもしれない。


 気は抜けない。

 

 目の前に大きな龍の文様の扉が現れた。これは昔はエフェクトでみたことがある。


 ここでゲームの知識が有り難い。

 封印の扉。この扉を開くためには古代語で封印解除の歌を詠唱する必要がある。


 ゲーム内ではアイテムを入手し、歌のかけらを集めていかなくてはいけないが、それも必要がない。何故なら覚えているから。

 つい歌とか呪文とか覚えるのが楽しくって、覚えまくっていた。

 ゲームをやりこんでいた自分を褒めたい。

 オタク万歳!


『この扉、禍の者へと通ず道なり。我、魔を払いし力あるもの。禍の者へと道を開きたまえ。』


 次の瞬間、体が浮き上がるような浮遊感に包まれる。

 そして、体中に熱を感じる。


 痛みに耐える、苦しい声が


 涙さえ枯れた、漆黒の瞳が


 炎の中に、埋もれる大きな体が


 悲痛の叫び、痛み、苦しみ


 そして、裏切りへの強い悲しみ


 寂しさ。


 全身が震える。

 これはゲームではない。現実なのだ。


 奥歯がカチカチと音を立てる。

 必死に力を入れておかなければ、倒れてしまいそうだ。


『、、、、、人間?子ども?』


 くぐもった声が響く。


 目の前にいるのは闇よりも深い、仄暗い闇を纏った龍。


 怖い。この人をこれ程までに苦しみに縛り付けられる人間達の業が、恐ろしくて堪らない。


 だが、逃げるわけにはいかない。


 ゆっくりと、膝を付き、その場に頭を垂れた。


「私の名前はフィリア。貴方様をこの地より解放しに参りました。」


 すると、龍の口が大きく開き、笑い声をたてる。 


 嘲笑うような、ふざけるなと怒りを込めた笑い声。


『ちび。どうやってここまできた?さっさと帰れ。ここは危ない。』


 それでも、彼は憎しみの言葉は口にしない。心までは黒く染まらない。


 それは彼の信念。


「私は、貴方を助けられる。、、、今まで苦しめて、悲しい思いをさせてごめんなさい。」


 頭を地面に擦りつけて謝る。


「謝った所で許されないのはわかるの。でも、私が、貴方を暗黒龍から聖龍にもどしてみせる。」


 その言葉に、漆黒の瞳がこちらをのぞく。


『ここは、災い地。ここより吹き出す災いを我は身に宿している。その災いが消えぬ限り、我は戻れぬ。』


 フィリアは顔を上げ、暗黒龍の瞳を見つめる。


「私、まだ小さくて、貴方をすぐには聖龍へは、戻せないの。でも、18歳には力が完全になるから、それまで待っていてほしいの。」


『ちびが大きかろうと、この災いは消せぬよ。昔、我が友と奮闘したが、無理だった。』


 悲しげに暗黒龍はそう言った。


 そう。彼は昔、友とここへやってきて災いの魔力を消そうとした。しかし、その力は大きく、消すことは叶わなかった。


 そして、友は彼を裏切った。

 彼だけをこの地に縛り付けた。

 人間を守るために。


「ある程度は消せるわ。でも、完全では無いから、18までまってくれる?」


『そうか。そうか。わかったから早く家へ帰りなさい。』


 幼子をあやすような優しい口調。今も苦しみは続いているはずなのに。


「ありがとう。優しい人。この災いの魔力を私の力をもってはらってみせる。」


 フィリアは、大きく息を吐き、そして吸って呼吸を整えると歌い始めた。


 それは聖なる歌。


 緑の風が一気に吹き抜けた。


 聖魔法は今ではお伽話。その力を使える者はいないとされる、幻の力。


 フィリアの体は光に包まれる。そして、暗黒龍の周りをただよう仄暗い闇が少しずつ消え始める。


 暗黒龍は目を見張り、その光景に息を呑む。


 過去千年、皆が待ち望んでいた聖女がここにいると、暗黒龍は知った。


 世界が災いの魔力で闇に落ちそうになった時、皆が望んだが、その者は現れなかった。


 それが今目の前にいる。


 金色の豊かな艷やかな髪。

 金色の大きな瞳。


 重い、吸うたびに苦しくなる空気が、爽やかな風に包まれる。


 体の痛みが、薄れていく。

 悲しみが癒やされる。

 胸の痛みが消えていく。


 今、目の前に希望がいる。


 小さな体。

 幼い幼女。


 暗黒龍の黒い瞳から一滴の涙がゆっくりとこぼれていく。


 体が何百年かぶりに、幸福で満たされるのを感じた。


読んで下さりありがとうございました!

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