リサ~異世界㉙天・使・降・臨~
王国では、魔物の王とされた理沙討伐に向けた動きが進もうとしている中で、理沙たちは森へと戻ってきた。
「あー。やっと帰ってきたぜー。」
どこのオジサンだと思ってしまうセリフを口にしながら、リビングのソファーに飛び込むメタきちさん。出発してから一晩も経っていないのだが、メタきちさんの言う通り、やっと帰ってきたという感じは否めない。
「ふぅー。」
私もメタきちさんに倣って、息を大きく吐き出しながらソファに座った。
メタきちさんに、年寄りくさいと笑われてしまったが、年齢的に言わせてもらえば、メタきちさんの方が間違いなくおじいちゃんだ。
一息ついて、これからの話し合いを行ったのだが、未だに眠り続けている精霊を放っておくわけにはいかないということで、精霊が目覚めるまでは動けないという結論に至った。
本当に、この精霊はいつ目覚めるのだろうか。
「ふわぁー……」
ログハウスの窓からはすでに朝陽が差し込んでいる。おそらく、この世界の人々はこれから活動を開始するのだろうが、私の眠気はすでに限界だった。
地球にいた頃は、徹夜くらいなんてことはなかったのだが、今回の徹夜に関してはかなり堪えた。
「マスター。少しお休みになられてはいかがですか?」
そんな中でも他のみんなは元気だ。どうやら、人間とは違って、魔物は1日、2日くらいなら眠らなくても問題ないらしい。
便利な体だ。
それを聞いた私は、精霊をみんなに任せて、シャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。
「起きたら……お兄ちゃんを捜して……」
今後のことを考えているうちに、私は眠りの世界へと誘われていった。
「理沙?」
どこか聞き覚えのある、優しさに満ちながらも、気怠さを含んだ声で私は目が覚めた。
どれくらい眠っていたのだろうかと目を擦りながら辺りを見回すと、そこには見覚えのない景色が広がっていた。
「うわぁ……真っ白な空間だー……って!どこ!!」
あまりにも異様な空間を目の前にして、寝ぼけていた私の意識も、完全覚醒を果たした。
「ちょっ!ここ!どこ!」
「落ち着いて。」
慌てふためく私に、さきほどの声が再び聞こえてきた。
「大丈夫だから。落ち着いて?」
少しだけ落ち着いた私は、目の前に佇む少女の姿を認識した。
「え?ラファエルさん?」
「うん?」
私の目の前には、超絶美少女天使のラファエルさんが立っていた。
「なんでこっちにいるんですか?」
「その認識は違う。今はあなたの夢の中。天・使・降・臨。」
私の質問をスルーして、ピースサインでポーズを決めるラファエルさん。これはこれでかなり可愛らしいのだが、こんなキャラだったかなと思いながら、私は目の前の天使に拍手を送った。
「ん……リアクションがイマイチ。この降臨ポーズはボツ。」
こんな降臨ポーズで一体、誰の前に降臨するつもりなのだろうかと思いながら、私はもう一度尋ねた。
「それで、ラファエルさんはどうして私の夢の中にいるんですか?」
「出番が少な……じゃなくて、神のお告げ。」
今、目の前の天使はとんでもないことを言った気がするんだけど、とりあえず気のせいということにしておくことにした。それに、出番が少なのはラファエルさんのせいではない。
「神のお告げ……ですか?」
キリスト教の聖書なんかにも書かれており、かなり有名な現象だが、実際に私が聞くことになるなんて微塵も思っていなかった。
「そう。あの変態が、「頑張ってる子を助けるのが神の役目」とか、仕事ほったらかしてテンション上げてきたせいで、私がこんなところまで来るはめになった。」
ラファエルさんの話す調子に特段の変化は感じなかったが、言葉の端々から、内側に溜めた怒りは相当なものだなという印象を受けた。
しかし、ここで何か言ってしまうと、藪蛇になりそうなので、私は乾いた笑いを浮かべることでその場をしのぐことにした。
それにしても、変態=神という図式を成り立たせることが出来るなんて、ラファエルさんは怖いもの知らずにもほどがある。
「本当に、あの変態は変態で十分。あんなのが神とか、本当に世の中終わってる。私をどうにかしたら仕事が滞ってどうしようもなくなるんだから、何も出来ない。」
ラファエルさんの発言で、ここも人権無視空間であることが分かった私は、ただ苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
「とりあえず、あの変態からのメッセージを伝える。「気をつけて。危険が迫っている。」だって。まったく……これだけなら、自分で伝えればいいのに……。地球の大掃除の時も、600歳のジジイに船を造らせるとか本・当に横着。人選とかに気を遣うっていう発想はないのか……」
最後の方の台詞は、公の場で言わない方がいい気がする……なんてことを思いながら、私は前半の台詞の意味を考えた。
『危険って……ログハウスにはメタきちさんたちがいるから安全だし、王様とも約束したし……新しい敵かな。魔物がいる森だから、冒険者とか?』
敵になりそうな相手を一通り想定してみたが、どれもしっくりこなかった。というよりも、今のみんなのステータスからすると、敵になりそうな相手が見当たらない。
ミシェルさんが5人くらい襲ってくれば危険な気がするけれど、逆に言えば、それ以下であるならば相手にならないということである。
「具体的に何が危険かは分からないんですか?」
「あの変態なら分かってる。けど、それを教えてくれないから鬱陶しい。一度それについて聞いてみたんだけど、『内容が分かっちゃうと楽しくないでしょ~』って言ってた。本当に、死ねばいいのに。」
確かに、先に内容を知っていれば回避することが出来るだろうが、それをしてしまうと、本当の意味で成長しない。
神様はそういうことを言いたいのだろうが、目の前の天使はまたも恐ろしいことを口にしている。
『神様って死んだらどうなるんだろ?っていうか、死ぬの?』
「神も死ぬ。ただ、神殺しの武器がたくさん必要。あと、あの変態はそこまで深く考えてない。」
ラファエルさんが私の思考を読んだように話し出した。
本当にここはとんでもない空間だ。
この空間にいること自体、何のメリットも感じない。
そう思った私は、ラファエルさんにとっとと異世界に戻してくれるようにお願いすると、ラファエルさんからまさかの言葉が返ってきた。
「理沙。大変?」
一体どうしたのかと思ったが、その表情を見る限り、本当に心配してくれているようなので、私も真剣に言葉を返した。
「大変じゃないです。でも、ラファエルさんのおかげで兄のいる場所にいることができるんだから、今はとても楽しいです。けど、向こうのことも心配……かな。早く兄を見つけて、戻りたい……けど……」
言っているうちに、私は心の中に引っかかりを覚えた。
元の世界に戻るということは、せっかく仲良くなったみんなともお別れすることになるということだ。
「理沙。人の心は変わる。その時、思ったことをすればいい。人が愚かなのは、後悔してしまうこと。短い人生なのだから、何でもやればいいのに。」
ラファエルさんが良いことを言っているのだが、みんながみんな好き勝手やってしまったら、滅茶苦茶になりそうだ。
「ふふ。その考えは嫌いじゃない。けど、今はそんなこと気にするような世界にいないよね。」
そう言って微笑むラファエルさん。
またしても心を読まれてしまったのだが、天使の笑顔の破壊力はすさまじく、思わず見入ってしまった。
「まぁ、頑張って。神の加護もついたみたいだし。大概の事はなんとかなっちゃうから。」
「え?それって……」
途中の単語が気になって、ラファエルさんに尋ねようとしたところで、目の前からラファエルさんが消えた。




