リサ~異世界㉗王との闘い~
「あれ?」
魔法の詠唱が終わってもリリエルさんに特に何の変化も見られなかった。てっきり、足元から木の根が出てくるのかなと思っていたのだが、そんな現象が起こる気配すらない。
「あの……悪魔さん?私、失敗しちゃった……」
そう言いながら振り向いて悪魔さんを見ると、悪魔さんが口を開けて固まっていた。
どうやら、相当衝撃的なものを目にしているようだ。
横にいるメタきちさんとキラー君も口を開けてポカンとしていた。
一体何が起こっているのかと思い、再びリリエルさんに目をやった。
「えっ!?」
私は驚きのあまり声を出してしまった。
なんと、さきほどまで何も無かった空間に、無数の触手が現れていたのだ。
しかも、その触手はリリエルさんの手足をしっかりと拘束し、口までも塞いでいた。
さらに、残った触手が……その……服の中に入って胸のあたりで何かをまさぐっていたり、下半身を前後していたり……なんというか……
「ごめんなさい。」
私は思わず謝っていた。これはもはや拘束魔法ではない……いや、広い意味で拘束魔法なのだが、私がイメージした拘束魔法ではない。しかし、目の前で黒髪美少女が凌辱される姿というのは、存外に興奮するものだ。
そんなことを考えていると、悪魔さんが口を開いた。
「マスター……これが精霊魔法ですか?」
「えっと……」
こんな効果を期待したわけではないので、悪魔さんの問いに対して即答できなかった。これほど妙な魔法があることがどうかと思ったが、これを兄が身につけた日には、バイオハザード級の災害が起こるに違いないだろう。
「ぷっ……あっはっは!」
顔を上気させながら身悶えるリリエルさんに向かって手を合わせていると、突然ミシェルさんが笑い出した。
「分かりました。信じましょう。精霊魔法がこんな効果だというのはかなり残念ですが、あなたが詠唱していた言葉は、この世界の言葉ではありません。精霊語というものを聞いたことはありませんが、きっとあれが精霊語なのでしょう。」
ミシェルさんの言葉に、私は肩の力を抜いて大きく息を吐いた。
「さて、話もついたことですし、リリエルを解放してください。ずっと見ていても良いのですが、さすがに……これでもこの子はそれなりの立場の人間です。他の人に見られるのは恥ずかしいでしょう。」
「は、はい!」
そう言われて、私は慌てて解除を試みた。
「あれ……?」
「どうしました?」
ミシェルさんが不思議そうにこちらを見る。
「解除の仕方が……分からないんですけど……。あ、口の拘束が外れた!」
偶然拘束が外れたのだが、それが更に事態を悪化させたのだ。
「あっ……ん……は、早く……はっ!外してください!!あぁ!」
今まで口を塞がれていて発せられなかった黒髪美少女の喘ぎ声が、王様の寝室の前に響き渡ったのだ。
同時に、ミシェルさんの爆笑も響き渡ることになったのだが、私は慌てすぎて、それどころではなかった。
結局、悪魔さんに助言をもらいながら、精霊魔法は解除できたのだが、それはリリエルさんが悶絶しまくった後だった。
「こ、殺す……。」
私は、涙目で息も荒く、上気した体をピクピクさせたリリエルさんにそんなことを言われ、違う意味で恐怖を覚えたのは言うまでもあるまい。
「とりあえず、動けないリリエルは置いておいて、王の下へ行きましょう。こんな時間で無礼極まりないですが、非常事態です。大目に見てくださるでしょう。」
そう言って、ミシェルさんは扉のノブに手をかけた。
「お目覚めでしたか?」
部屋に入ると、キングベッド以上はありそうな大きなベッドの中心で、老人が枕を背もたれにして座っていた。
「お目覚めも何も、寝室の前であのような声が聞こえてくれば、嫌でも目が覚めるじゃろうに。で、リリエルのやつは無事か?」
王様の言葉を聞いて、私は小さくなる以外の方法を思いつかなかった。
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。
『だって!あんな効果の魔法だって知らなかったんだもん!』
「リサ?」
キラー君が心配そうに覗き込んでくれたので、頭を撫でてあげると、嬉しそうに尻尾を振っていた。
「リリエルは無事……ではありませんが、命に別状はありません。少しばかり気持ちよくなりすぎたようです。」
ミシェルさんの、隠しているんだかなんだか分からない言葉を聞いて、王様はあからさまに大きなため息をついた。
「まぁ良い。して、お主らは何者だ?魔物を共に連れておるところを見ると、儂の命でも取りにきたか?」
王様なりの冗談なのだろうけれど、今の私からすれば、その冗談はあまりにも笑えない。
私は慌てて否定する。
「ち、違います!王様にお願いがあって来ました。」
「ほぅ。余に願いだと?」
その一言で、今まで目の前にいた老人が、一国の王へと変わったことを感じた。
そして、その言葉と同時に、ミシェルさんがその場にしゃがみこみ、片膝を立てて臣下の礼をとった。
「魔物を従えし者よ。そなたの願い、申してみよ。」
王様の言葉に対して、私は精一杯の気合を入れてその場に立っていた。
本物の王様の威圧感に負けて、思わず頭を下げてしまいそうだったのだ。しかし、私としてはあくまでも対等の立場で話がしたかった。
お願いと言いながら対等というのもおかしな話だろうが、ここは引くわけにはいかないと直感で思ったのだ。
「森への侵攻を止めていだだきたいのです。もし、聞き入れられないようであれば、この国を滅ぼします。」
それを聞いた王様はミシェルさんを見た。
王様の視線を感じたのだろう。ミシェルさんは顔を上げると小さく頷いた。
「なるほど。一体何のことを言っているかは分からぬが、この国が滅亡の危機に瀕していることは間違いないようだな。ミシェル説明せよ。」
「はっ!」
王様に命令されて、ミシェルさんは私たちがここに来た目的と、冒険者たちによる森の侵攻について、さらに精霊の存在と、自分はそんな作戦を聞いた覚えはないということを説明してくれた。
「ふむ。森への侵攻については余も覚えはないな。まぁ、この国も一枚岩ではない故、勝手に動き出す輩もおるじゃろう。」
その発言に、ミシェルさんがピクリと反応する。
「王。そのような発言はお控えください。」
国が一つでないということを、王自身が言うのはどうなのかということなのだろうと私も思ったが、私が併せて注意するのもどうかと思ったので、とりあえず黙っておく。
「はっはっは。公の場ではないのだ、気にするでない。」
そう言われたミシェルさんは、再び沈黙した。
王様を諫めたのも、きっと形だけなのだろう。
「それで、返事をいただけますか?」




