HAPPY END
僕はお城で生まれました。
僕のお父さんはとても大きくて、強くて、かっこいい。
僕のお母さんは僕を生んだ時に死んでしまったらしいけど、お城には大きな写真が飾ってあった。
とても綺麗な人だ。
僕は幸せな家庭に育ったと思う。
お城にいるみんなは、すごくお世話をしてくれる。日常生活から、戦いの指導まで。
僕は剣のスジが良いと褒められた。
でも行儀はあんまり良くないみたい。
特に食事中はよく怒られた。
「ストローを噛むくせは、いつになっても直らないようだな」
なんていわれる始末。
それでも楽しい毎日だった。
ある日、お城の庭で遊んでいると、門からたくさんの兵士さんが出ていくのが見えた。
何があったんだろうとお父さんの部屋に行くと、お父さんは執事さんとあわただしく話をしていた。
じゃなくて、あわただしかったのは執事さんだけで、お父さんはどっしりと構えていた。
やっぱりかっこいい。
しばらくするとお城の中も落ち着いて、いつもの日々が戻って来た。
でもそれから何日かして、剣や斧を持った人たちがお城に入ってきた。それはどう見てもお客さんじゃなくて、倒すべき敵だった。
僕は震える手で剣を握りしめたけれど、怖くて陰から見ることしか出来なかった。でもお父さんがあっという間にやっつけてしまった。
お城に響くお父さんの笑い声が、心地よかった。
そしてまたある日、お城に人が入ってきた。
それを見て、僕はすごくびっくりした。
だって、その人たちはお父さんが倒したはずだったから。
またお父さんがやっつけてくれると思った。
でも、相手はすごく強かった。
負けそうになっても、知らない薬ですぐ元気になる。
死んだと思っても、光に包まれると生き返ってる。
そしてとうとうお父さんは倒れてしまった。
僕の耳に、お父さんの最期の言葉が聞こえた。
「死んでもバッドエンドにしてやる」
「お前が死ねば、それが俺らにとってのハッピーエンドだけどな」
そう言い放った勇者は、お父さんの――魔王の首を斬った。
こうして世界はハッピーエンドになりました。