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再生死


 この町のはずれに、一人の魔女がいるという噂は何度も耳にしていた。むしろこの町に住んでいるのであれば、その名を知らない人はいないだろう。いや、語弊があった。魔女がいるということだけを知っているのであって、その名前までを知ってはいなかった。

 この町の人間か、はたまた立ち寄った旅人かを見分けるので最も簡単なのが、魔女の話をすること、とまことしやかに語られるくらいだ。なにせ、こちとら子供のころから親に言われていたのだ、「悪いことをすると、魔女に連れて行かれるよ」と。実際に行方不明者が出た時は、そりゃもう大騒ぎだった。自分たちで言っていたにも関わらず、その大人たちでさえあたふたしていたのをよく覚えている。

 さして大きくもない町なのに、子供が一人いなくなってしまったのだから。しかしその子供も、何日かで戻って来た。話を聞いても、何も覚えていない、としか言わないので、本当に魔女がいるものだと、町のほとんどの人間が信じた。

 冗談交じりでまことしやかに語っていた大人も、話半分で聞いていた子供も、みんなが魔女という存在を信じている。お年寄りの方たちだけは、元から信じていたようで、だから言っただろ、と言いたげな顔をしていたが。


 はたして、そんな魔女という恐ろしくも少し憧れる存在に、私は出会ってしまったのだった。



 それは私が、町の近くにある森に、薪を拾いに行っていたときのことだ。男一人で暮らしている今、さして収入が多いわけでもないので、こうして節約生活をしなければと、せっせと腰を折って、骨を折って、柴刈りに勤しんでいるときだった。

 ガサリと、そばで音がした。気がした。

 この時期に獣などいようはずがないが、しかし冬眠に明け暮れて、呆れて飽きてしまった熊か何かが、目を覚ましたのかもしれない。そう考えると緊張が走る。荷物になるので、猟銃の類は置いてきてしまった、持っているのもせいぜい大型のナイフくらいである。これでどうにかなるとも思えないけれど、護身にと、腰に携えたそれに手を添える。

 姿だけは確認しようと、ゆっくりと木の陰を窺うように、忍び足で近づく。そういえばそこにはアレがあったな、と思い至ったところで、音の出所が判明した。

 確認したのは、後ろ姿で、しゃがんで地面に何かをしている人だ。こちらからでは顔は見えないけれど、どうやら女性のようだった。

 しかし性別などこの際関係ない。

 私はそろりそろりと背後まで歩き、腰から抜いた大型ナイフを構えた。

「おい、お前、そこで何をしている。そこにあるのは魔女への供物だろう、勝手に持ち出していいものではない」

 そう、彼女がいるまさにその地点は、町の住民が、魔女からこちらに危害を加えられないように、心ばかりのお供えをしている場所であった。お供えと言えど、それは尊敬や信仰からではなく、畏怖や保身の気持ちからなのだけれど。しかし子供が攫われる(本当に魔女が原因かは判明していないが)という事態が発生した以上、何もしないということは出来なかった。

 聞けば今のお年寄りたちが子供の頃にも、似たような事件があったらしい。そのときには何も行動を起こさなかったようだが。

 しかし、この気持ちが届いているかどうかは不明ながらも、実際に供えられているものに手を出すなど言語道断だ。

 今まで供え物がちゃんとなくなっていたのは、まさか本当に魔女が取っていったとは思わないけれど、せめて小動物か何かの仕業だと思っていた。しかし思わぬ形で現行犯逮捕をしようとは。

 そして、座り込んでいた女性は、スッと立ち上がり、振り向きながらもこう言った。

「私にくれたものなのに、何で私が取っちゃいけないのかしら。貴方たちの気持ちを無下にしないようにせっかく――って! きゃあっ! 貴方、なにを向けてるのよ! しまいなさい、それ!」

 現行犯逮捕どころか、本人の登場だった。

 捕まるのは、私の方かもしれない。



「ふーん、へぇ、そお、貴方、ユカリっていうのね。なんだか女の子みたいな名前」

「遠慮なく、屈託なく言うな。それでどれだけ私がやんややんや言われてきたか、想像に難くないだろう」

「まーねー。想像力豊かなこの私をもってすれば、そんなことわけないけれど、魔女にはそんな人間みたいな仲間同士のイザコザはないのよ」

 そんな人間味はないの。

「ただでさえ数が少ないんだから、内輪揉めしてる場合じゃないの」

「仲間には優しく、敵には厳しいのかい」

「あら、別に優しくしているとも言っていないのだけれど。それに厳しくもないわ」

「出会いがしらに薬品をぶちまけ、挙句縛りあげて家に監禁するのが、厳しいの範疇には入らないのか」

「優しいくらいよ。本当だったら睡眠薬じゃなくて、もっと致死性の、即死性のあるものでもよかったのだから。それにわざわざ私の家にまで運んであげた。会話の自由を与えている。ああ、まるで聖母のよう」

 そう言ってけらけら笑う魔女が私の目の前にいた。

 たとえどんな数奇な人生の中でも絶対にないだろうと思っていた出来事、魔女との対面。

 そのまさに初対面は、最悪と言ってまったく問題のないものとなった。



「出会い頭に刃物を突き付けたのは悪いと思っている。しかしそれは魔女の……あんたの為を思ってのことだったんだ。あんたへの供物を盗もうとしている輩がいると思ったから、ああいうことをしてしまったんだ。害意も、ましてや敵意もない」

 だからこの縄を解いてくれ、と男、ユカリは言った。がんじがらめにされながら。

「はーん、まあ確かに、私が人前に出ることはないから、というか顔を見られたこともないから、誰だかわからなかった、という気持ちはわかる」

 魔女は名乗らないままに、縛り上げた男を、机の上に座りながら見下ろす。ユカリは現在床に転がっている状況だ。

「そうだろう。……よっと」

 さすがにこの体勢では話にならないと思ったのか、器用に座り直す。

 全身を縄で縛られながら床に座る男と、机に胡坐をかきながら、膝に肘をついて頬杖をする女性。はたから見れば、いったい何事かと目を疑うだろう。

「だからとりあえず、この縄だけでもなんとかしてくれないか。辛くてかなわん」

「そうね、そうしてあげてもいいと考えていたわ」

 言って、跳ねるように机から降りる魔女、見下ろす視線はそのままに、ぐるりとユカリの後ろ側へ回った。

「さっきまではね」

 グッと、ユカリの後ろに回された手を踏みつける。正確には、大きなナイフを握りしめる手を。

「私がそのナイフを取り上げなかったの、わざとだって気づかなかったの? それを腰に戻したらどういう行動にでるか、試したの」

 室内を静寂が支配する。しかしユカリは焦る様子も見せない。今まさに現行犯で逃亡するところを捕らえられたにも関わらず。いや、既に囚われてはいるのだが。

「――試されていることには、そりゃ気づいたさ。だが、このまま問答を続けていても話は進まないと思った。ならば行動を起こすしかないと。どうせ縄を解く気持ちがあったというのも、冗談なのだろう?」

 悪びれる様子も、許しを請うつもりもなく、ユカリは言い放つ。背中に回られているので顔を見ることは出来ないけれど、怖気づいてもいなかった。

 そんな男の態度に魔女は、

「ぷふっ」

 噴き出してしまう。シリアスな空気を壊して。

「あはははは! 面白いねあんた。何、人間ってみんなそんな感じなの? だとしたらもっと早く会っておけばよかったかも。まあ禁止されているんだけどね!」

 いいわ、危害を加えるつもりがないのも本当みたいだし。ほいっ、と魔女が指を振るうと、生き物のように縄は動き、瞬く間に身体を離れた。

 そしてその先端が、ユカリの顎を打ち付ける。ほっと一息ついた瞬間の出来事だ。

 彼は短時間に二度も眠る羽目になったのだが、薄れゆく意識の中、魔女の声を聞いた。

「だけど、こっちが何もしないとは、言ってないよね」





 さて、ここからの物語は、何の変哲もないそれである。いやさ、これまでの出会いの話に変哲があったかどうかはさておくとして。

 目覚めたユカリは魔女に気に入られ、瞬く間に仲を深める。毎日のように家を訪れ、話をし、時間を共有した。出会いが出会いなのでユカリも腹を割って話すようになるには時間がかかったが、しかしそれも一度開いてしまえば、あとはなすがまま、されるがままだった。

 お互い、はぐれ者ということで、気が合う部分もあったのだろう。ユカリは町の人間から、そして魔女は魔女の里から弾かれた。

 そんな弾かれ者同士、次第に惹かれ合うのも無理はない。なにより魔女は、類まれなる美しさを持っていた。町に住んでいる誰よりも美しく、しかしそれでいて、誰よりも気取っていなかった。美しさを鼻にかけることもなく、そんなものただの付属品と言わんばかりに。男はそんな彼女の心に引きつけられた。

 対する魔女は、何も恐れない男に興味を持った。今では魔女の存在を恐れる者も多い中、しかし男はまるで普通の人間と接するかのように、話していた。それがたまらなく嬉しかった。

 元々魔女たちは、人間たちのそういった負の感情が原因で、人々から離されていったのだ。そこからさらにこの魔女は、その仲間であるはずの魔女たちからも遠ざけられた。同士のイザコザはないと言っていたにもかかわらず、彼女以外の魔女には、人間味があったのだ。少なからず。

 しかしそんなはぐれ者、弾かれ者同士だからこそ、こうして出会うことのができたのだと思うと、それも悪くないと、思えた。


 そしてこの物語に、少しの変化が訪れたのは、そんな魔女が弾かれたその原因にある。



 彼女は天才だった。

 いわゆる天才だった。

 魔女の里にいる全ての魔女の頭脳を足し合わせても、魔女の里を統べるその長の知能をもってしても、それには敵わないほどに。

 彼女に叶わないことなどないほどに。

 だからこそ弾かれた。

 高すぎる能力は、周りとの軋轢を生む。完璧すぎた彼女と、人間味を残す魔女たちと、その間に潤滑油も入れずに機構が回るはずもなかった。

 彼女には他の魔女の気持ちがわからなかった。次から次へと魔術を閃き、新薬を開発し、道を切り開く彼女に対し、どんどん成果を上げる彼女に対し、周りは冷めていった。気づいたときには里の外にいた。

 今でもその気持ちはわからないままだ。

 しかし、一人になることで研究に集中できると思えば、それでもよかった。

 どうでもよかった。

 そんな魔女が一人の男に惹かれるとは、つゆほども思ってはいなかったけれど。

 ただ、そんな天才の彼女でさえも。いや、そんな天才の彼女だからこそ、男の気持ちはわからなかった。同族の気持ちがわからないのだから、異種族の気持ちなど、わかるはずもなかった。

 なまじ言葉が通じるだけに、本心は見通せなかった。それが原因なのだとすれば、高すぎる能力は、彼女に与えられた罪とさえ言えるのかもしれない。


 魔女と男は時を経るごとに仲良くなっていく。しかし、それと同時に魔女の中に不安が募っていった。それは、「ユカリは私の見た目を気に入っているのではないか」ということ。鼻にかけてはいないだけであって、魔女は自身が美しい容姿をしていることを自覚はしていた。

 だからこそ、この男は私という容れ物に関心があるのではないか。そう思わざるを得なかった。

 日に日にその不安は増す。それもそのはず、いくら魔女といえども、年月を重ねれば老いもするし、老けもする。いつまでも若々しい見た目ではいられないのだ。魔女は当然、男の中身を認めたうえで好意を寄せていた。だから彼が年老いたとしてもそれは構わなかった。

 しかし、彼も同じとは言い切れない。質問を投げかけたところで、返ってくるのは言葉であっても心ではない。

 たとえ言葉に心を乗せていても、魔女はそれに気づくことができないのだった。

 今はまだいい。しかしこれからのことを考えたとき、未来は恐怖で満ちていた。

 もしもこれが凡俗の魔女であれば、年老いたその時に、男からの気持ちによって、決して見た目に惚れたのではない、ということに気づかされたことだろう。言葉に乗った心に、心癒されただろう。

 しかし、彼女は天才だった。

 天才だからこそ、未来に対する恐怖を打ち砕く術を、知識を、持っていた。持ってしまっていた。

 ことは単純である。歳を重ねることで自分の美しさが失われるのであれば、歳を重ねなければいい。歳を、時を重ねなければ。

 つまり彼女は不老不死の薬を作り上げた。

 作ろうとした、ではなく、作り上げた。

 瞬く間に。

 いやさ、かかった日数で考えれば、それは瞬く間とは言えないかもしれないが、人間がそこまでの域に辿り着くのにどれだけかかるのかを考えれば、それはまさしく、瞬く間に、だった。

 これまでに培った薬学の知識と、独自で練り上げた魔術とを合成させ、それは完成した。

 そして一切の躊躇いなく身体に取り込む。

 躊躇も、葛藤もなく。

 そして永遠の若さを手に入れた彼女は、末永く男と暮らしたのでした。


 とは当然ながらならない。


 問題は次から次へとやってくる。免れない、問題が。

 これも至極単純。

 いくら魔女が永遠とはいっても、男はその限りではないのだ。

 人はいつか死ぬ。

 避けようのない事実。

 そこに彼女は気づいた。遅まきながら。

 不老不死の薬を与えればいいと、そう思ったときもあった。しかしそれは叶わない。魔術と合成されたこの薬を、魔術の耐性も心得もない人間に飲ませるとどうなるか、いかに天才と言われようと、わからなかった。

 焦る。焦る。

 考える時間など、自分にはいくらでもある。しかし考え付いたときに彼がいないのであればそれは無駄骨だ。

 しかしそれでもやっぱり、彼女は天才だった。

 運命を真っ向から叩き潰すことに、躊躇わない。

 肉体が滅ぶのであれば、その肉体が滅ぶ前に、魂を移し変える。写し、替える。

 魂の転写。

 それが彼女の答え。

 男が死ぬ前に、新しい肉体を持ってくる。そしてその肉体に男の魂を転写する。こうすることで男は生きながらえる。

 もちろん、身体が変われば記憶も変わるかもしれない。しかしそれでもよかった。男の魂が、本体が、本心が残るのであれば、それでよかった。

 私は彼の心を知りたいのだから、と。


 新しい肉体を用意するのは簡単だった。町から誰かを連れてくればいい。ついでに顔も男のそれに変えた。

 ついでといえば、その他にも何人か連れてきて、例の薬を与えてみたが、結果は芳しくなかった。繰り返される細胞分裂に耐え切れず、最後にはボロボロになって風に吹かれて消えた。

 しかし転写の方は上首尾に終わった。

 さすが天才、愛のためなら何でもできる。そう自分に言ったものだ。

 これでようやく、二人とも不老不死になれたのである。男に関しては定期的に転写を行わなければならないという条件付きだが、それは本物の不死者である魔女がやるので大丈夫だった。

 大丈夫なはずだった。

 天才の天才さゆえの破滅。

 それを彼女は思い知る。

 きっかけは何気ない会話。

 何度目の転写かは忘れたが、相変わらず二人は仲が良かった。写し替えのごとに多少の差異はあるけれど、しかし男の本質は変わらず、魔女はその違いも含めて好いていた。次はどんな彼に会えるのだろうと、それはそれは楽しみにしていた。

 しかしあるとき、会話中に男が魔女の言葉を聞き逃す、ということが何度かあった。それ自体はまああることだろうと、魔女もさして気にせずにいたが、しかしそれは転写を繰り返すごとに酷くなっていったのである。

 彼女がその事実に気づいたときには時すでに遅し。それはもう始まっていた。

 いや、魂の転写ということを始めた時点でそれは起こっていたのだ。

 何度も何度も繰り返される転写。それに魂が、いつまで耐えきれるのか。魔女はそこを考えていなかった。ヒントはあったのにも関わらず。

 繰り返される細胞分裂が、どんな最期を迎えたか、彼女は目の前で見ていたのに。

 成功に付随する失敗も、繰り返してしまった。


 男の魂は取り返しのつかないほどに劣化していた。見るも無残に、目を背けたくなるほどに。

 しかし彼女は転写を止められない。まるで自分の意思ではないかのように、身体が勝手に転写を繰り返す。それほどまでに男を失いたくはなかった。いっそ一緒に死にたかったのに、それすらもできない。

 何でも出来た魔女は、死ぬことができなかった。

 男が不老不死に耐えきれるような、新しい身体を作ろうと思ったこともある。しかし彼女が好きなのは、人間の彼であって、そうでなくなった彼をそれでも好きでいられる自信がなかった。肉体に引っ張られ、本心まで変わってしまうのではないかと、そう思った。

 結果として、彼女は延々と、永遠に、男の魂を削り取っていくこととなる。生殺しにもほどがあった。まさに生き地獄。

 男にとっても、魔女にとってもそれは生き地獄だった。ただ男にしてみれば、もはや地獄という意味も理解できるとは思えないけれど。今自分がどんな状況に置かれているのか、それもわからないだろう。

「ごめんなさい、ユカリ」

 もはや魔女も、この言葉を繰り返すのみだった。

 そうして繰り返しているうちに、さらなる変化が訪れる。肉体に引っ張られると思っていた魂は、逆に肉体を侵食し始めていた。

 新しい肉体に転写して、たった数年で老人のようになってしまう。仕方ないのでまたしても転写をする。それすらも朽ちる。

 やがて町からユカリに見合う男の人間はいなくなり、手あたり次第、男でも女でも子供でも老人でも、だれかれ構わず連れてきた。町から住人がいなくならないように、霧で覆い、結界として機能させた。入れはするが、決して出られない、地獄は二人の間だけには収まらなかった。

 住人がそれでも救われていたとするなら、死ぬことができる、ただそれだけだった。



 やがて彼女は辿り着く。

 天才ゆえに起きた悲劇を、解決する方法に。

 これを解決と言っていいのかは定かではないけれど。

 しかし少なくとも償いではあった。



 死ぬことができない、それはわかりきっていた。ただしそれは肉体に関してだけだ。魂は、その限りではない。己の魂を殺してしまえば、この生き地獄から解放される。地獄へと、死ねる。

 そしてその魂の殺し方は重々承知していた。なにせ、もう何回と繰り返してきたのだから。


 私はずっと、ユカリの心を殺し続けてきたのだから。


 彼女は、自身の容れ物となる肉体を、生成し続ける機械を作った。幸い時間はいくらでもある、それこそ永遠に。

 そして自分には、決して消えることない命令を課した。「自分の魂をも、転写し続けろ」と。



 かくして、魔女と男は、繰り返される転写のなか、生き続けるのだった。あるいは死に続けるのだった。ありえないほどの輪廻転写の中で。

 やがて魔女も言葉を失い、表情を失い、感情を失った。もしも彼女に心があったとしても、それすらも失われた。

 だが彼女はようやく救われたのだ。

 風化して、掬いようのない魂だけを残して。

 これで物語は終わる。

 魔女は優しい男に巡り合い、救われたのだった。

 そして彼らは末永く、末無く、暮らし続けましたとさ。


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