なんてありきたりな魔法学園
なんてデカい城なんだ。このウィンディーラ魔法学園を見た人のほとんどがこの感想を抱くだろう。かく言う自分自身もその一人。
まず目の前に広がるのは黒々とした巨大な門。ここが紛争の絶えない国境地帯なのかと錯覚するほどのそれは悠然とした態度で見下してくるみたいだ。なぜそんな代物が魔法学園にあるのかは甚だ疑問だけど、わずかに施された装飾がそこんところの小さなプライドを感じる。
そして両脇に続く純白の塀。ここからでは端が見えない。まあこの中に寮からグラウンドから修練棟から全部入っているわけだから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。こんな大きさになる魔法学園は明らかに仕方なくないけど。
何よりも目を惹き付けるのはやはり城自身だろう。こんなの魔法学園の許容範囲を絶対超えてるだろ。規格外な門と塀を押さえつけるほど規格外な城は陽の光を浴びて世界で一番偉大な王が住んでいると言われても疑問を抱かせないほど煌煌と輝いている。丁寧にもてっぺんには端が刺されている。あれが学園旗なのかな。正直ださい。
こんなところで足踏みをしていても仕方がないからさっさと行こう。新入生にクラス分けの紙を配っているみたいだ。どうせ自分の名前はすぐ見つかるだろう。ルス=インファード。この名前で小さな恩恵を今まで数多く受けてきたので、親には少し感謝している。
ほらもう見つかった。D組の下から二番目。いつもなら一番下に自分の名前が書かれていたからいつもより手間取ってしまった。なんだこのレイカ=デ=ハーブックとやらは。なぜか自分の居場所を奪われてしまった気がする、悔しい。
新入生は教室に集合みたいだ。さあ行くか。
////////////////////////////
確かに適当に歩き出した俺が悪い。でもおかしいだろ、あんなにデカく見えてたのになんで門から城まで歩いて10分かかるんだよ。それはまあ良い。さて、俺は一体今どこにいるんだ?
普通適当に歩いていればそれっぽいとこについてなんとなく教室に着いてるはずだろ。まあそれも魔法学園だから特別に良いとしよう。
なんで拷問室なるものが魔法学園にあるんだよ。ここ教育機関だよな?教育的拷問なんてもの初めて聞いたぞ。どうやらこの学園にはとんでもないサディスト野郎がいるみたいだ。
「ぎゃああああああああああああああ」
おいおい使用中かよ、物騒だな。とりあえず走れ俺。風よりも雷よりも早く。ここは世界で一番危険な気がする。
////////////////////////////
ここまでくれば大丈夫だろう。さてここはどこだ?また奇怪な場所に当たるのはごめんだ。
1-D
どうやら目的の教室にたどり着けたようだ。良かった。途中にすれ違った自分と同じで新品らしき制服に身を包んでいた新入生は気のせいじゃなかったみたいだ。嬉々として教室に入る。
教室にすでにいる生徒は半分くらいみたいだ。ほぼ全員が初日ということもあり視線をこちらに向けている。人気者になった気分。
座席表は後ろにも掲示されてる。だけど何だこの貼り方は。綺麗な斜め、しかも上下まで逆。これ貼ったやつは良く言えば芸術肌なんだろう。いやいや前に貼られているやつのほうがひどいな。前後が逆って初めて見た。目をつぶってたんだろう、きっと。
それで自分の席は一番右の列後ろから二番目。番号順なら当然の結果だけど、いつもの定位置は一番後ろだった。やはり許せん、レイカとやら。机に突っ伏して寝ているみたいだけど蹴っ飛ばしてやろうか。まあこんな逆恨みにもなっていないことで気分を悪くしても人生の無駄遣いだからクールに席に着こう。
おっとここで痛恨のミス、腰のところをこいつの机にぶつけてしまう。もちろんわざとじゃないぞ。ここは全身全霊の紳士的な謝罪で乗り切ろう。
「すまん、悪いな。」
なんて完璧な謝罪なんだ、この謝罪で気を悪くする奴なんてまさかいないだろう。
「あんた、何すんのよ!!」
どうやらこいつは相当レアなタイプの人間らしい。だけど俺はこういうやつの対処法を熟知してるから大丈夫だ。
「さっき変なのに絡まれて疲れてるのに!」
まずは落ち着いて席に着こう。
「いきなり言い寄られてご飯に誘われて!」
そういえば今日はお昼はどうしようか。
「いくら断っても引き下がらないし!」
誰か誘って学食にでも行ってみるか。
「電撃浴びせてやっても全然効かないし!」
と言ってもこの規模だとたどり着けるかすら不安だな。
「学園の人が来てようやく解放されたわよ!」
とりあえずこの先一月は何度も学園内で迷子になりそうだな。
「というかアンタ、せめてこっち向きなさいよ!!」
そういえばこの後は入学式でもやるのかな?
「無視!?この私を?」
とにかく話が短いことを祈る。ん?何かが千切れた様な音が聞こえたぞ?
バリリィ!!!!!!!
「ぐああああああああ!! っててめえ何しやがる!!」
「あんたが無視し続けるのが悪いんでしょうが!!」
「お前ん家では魔力強化もしてない人に魔法を飛ばすなって習わなかったのかよ!」
「あんたみたいに礼儀のなってないやつに飛ばすななんて習わなかったわね!」
「碌でもない家だな!お前んとこは!」
「はあ!?ハーブック家を愚弄するつもりなら許さないわよ!」
ハーブック?有名な家なのか?うーん聞き覚えがないなあ。覚えるつもりがなかっただけかもしれないけど。しょうがない、隣のやつに聞いてみよう。
「なあ、ハーブックって聞いたことある?」
「お前、マジか。」
すごく驚かれてしまった。どうやら有名な家らしい。
「まあそんなものはどうでもいい。武器を取れ。お前にモラルを教えてやる。」
「面白いわね。獣は暴力で律するのが一番だもの。覚悟しなさい。」
久しぶりに本気を出せそうだ。来い、夕嵐。生意気な小娘に世界を教えてやろう。
「よう生徒共、元気そうだな。」
周りを見渡してみるともう時間らしくほとんどの生徒が集まっている。
「突然だがそこのお前、この後入学式があるから放送があったらみんなを連れて行けよ。じゃあな。」
多分こいつが担任なんだろう。生徒に仕事を押し付けることといい教室に片足しか踏み入れなかったことといい、座席表の犯人はこいつで間違いない。白羽の矢が立ったやつには同情するが、それも運命だ、どんまい。
さてほとんどの生徒が揃っているわけだがその視線は一箇所に集まっている。それも当然、武器を抜いてるやつが二人いるのだから。ここでこいつを叩きのめしてもいいけれど、
「覚えてろよ!」
「ふんっ!」
このセリフって使い道あるんだな。人生不思議なことが起きるもんだ。
ぴ〜んぽ〜んぱ〜んぽ〜ん
ちょうどいいタイミングで放送が入った。「担任」は生徒を体育棟に連れて行くように言ってる。やっぱりあいつは担任失格みたいだな。
「じ、じゃあ行きましょうか・・・」
頑張れ、このクラスの運命はお前にかかってるぞ。
「なあ、あの担任は大丈夫なのか?」
「きっとだめだろうね。」
隣のやつも不安に思ってるみたいだ。
「俺はメンダル=ヒンデルク。メルでいいぜ。お前は?」
「俺はルス=インファード。よろしく頼むぜ相棒。」
//////////////////////
入学式はスムーズに大体順調に進んでいる。なぜか担任の先導なく生徒だけで入場してきたのを見て何人かの講師が走って何処かへ行ったことや、どこか遠くで爆発音が聞こえてきたことを除いては。
「学園長ありがとうございました。」
やっぱり学園長の話はつまらないものだな。ずんぶんと綺麗な人だったから期待したけどこの世の真理は崩せなかかったようだ。
「続いて生徒会長お願いします。」
「どうも初めまして、生徒会長のガリア=ハモルズです。」
すごい好青年が出てきた。でもどこかでこの声は聞いたことがある気がする。
「おお、可愛い子がたくさんいるなあ。」
前言撤回、とんでもないクソ野郎だった。あ、舞台袖から魔法が飛んできた。直撃してんぞ、大丈夫か。
「ふふふ、腕を上げたな。だがその程度では僕の野望は止まらない!」
思い出した、この声は拷問室で聞いた声だ。
「まず初めに、この学園の女子は全員僕とデートする義務があります。」
おお、会場中から魔法が生徒会長に。これはこれで壮観とも言える。
「お前も魔法飛ばすんだな。」
「あいつよ、言い寄ってきたやつ。」
「そ、それはご愁傷様。」
番号の都合で隣に座っているこいつはすでに被害者だったらしい。
「生徒会長ありがとうございました。これで入学式は終わりですが、生徒部のハンザーク先生からお話があるようです。お願いします。」
岩に岩を足して岩をかけたようなやつが出てきた。もう岩だ。
「新入生のみんな、入学おめでとう。突然だがこの学園の風紀を乱すようなことはしないように。もし規律を破るとこうなるぞ。」
ああ、うちのクラスの担任が見るも無残な姿に。
「あとD組のやつはこれを教室まで運ぶように。」
もううちの担任はこれ呼ばわりなのか。でもそういえば名前すら聞いてないな。
////////////////////////
「えー。あー。どうも、担任のソーズ=リンピリンピだ。ハンズのやつあとで絶対ぶっ殺してやる。」
おーい、心の声まで出てますよー。
「おいそこのお前。お前をクラス委員に命じる。そして最初の仕事だ。進めろ。」
なんて横暴な。まあでもあの担任にクラスを任せるよりは安心できる気がする。選ばれたやつは眼鏡だし。
「なんで拷問室なんてもんがあるんだよ。」
それについては同感だ。
「おいルス、あいつ絶対大丈夫じゃないよな?」
「うるせえぞ、生徒一号。爆ぜろ火の玉-fireball-」
「メルうううううううううううううううううううう。」
短い間だったが今までありがとうな相棒。というか今までの常識はここでの常識ではないみたいだ。
「じ、自己紹介でもやりましょうか。」
あーあ、この先の学園生活に不安しかない。




