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(21)

作者: 東谷

(21)───この記号があなたには何に見えるでしょうか。⋯⋯え?なに、(21)は(21)にしか見えないと?まあ、私も昔は『そちら側の人間』でした。しかし、今となって (21)は(21)だけでなく、別の意味も孕んでいることは当たり前の認識となったのです。きっと、この文章を読んだ後には、そのことが心に現れてしまうあなたがいるに違いありません。


 時は六年前に遡ります。当時、私は高校に入学したばかりでした。この時期のクラスは実に殺伐とするものです。皆、自分の新しい居場所を作ろうと必死なのですから。もちろん私も例外ではなく、この死活問題と向き合っていました。


 しかしながら、私の根暗な性格は人付き合いするのに向いていません。今回もまた、それが原因だったのでしょう。なかなか友達ができませんでした。

クラス替えをする度に思うのですが、周りが仲良くなっていくにつれて感じる孤立感は、驚くほどに人の心をかき乱します。



『誰か仲良くなれそうな子はいないか』



 焦りに追われながら送る学校生活は、とても苦しいものでした。



 しかし、そんな不甲斐ない生活を送る私にも、やがて転機が訪れました。

 私は中山という同クラスの男に声をかけられたのです。全く予想していない出来事でした。何故かといえば、休み時間中の彼はいつだって読書に耽っていて、他の子と馴れ合うような子ではないと思っていたからです。これが彼との出会いでした。

今思えばそれが運命の分かれ道だったのでしょう。私の中の(21)は、彼との触れ合いの中で大きく変わってしまったのです。


 前述の通り、彼は本が大好きな学生でした。出会った頃は「らいとのべる」というジャンルの、一風変わった小説に熱中していたようです。




 入学してから月日は経ち、蝉の鳴き始める初夏の頃、私は中山があんまり熱中してそれを読んでいるものだから、気になって、


「らいとのべるというものはそんなに面白いものなのかね?」


 と、問いかけました。すると彼は、熱心にキリストを信仰するキリスト教徒のように「らいとのべる」について柔らかに、かつ真剣な眼差しで語り始めました。


「ライトノベルというものはね、私の人生、いや命だと言ってもいい────」


 彼の語りはすべての休憩時間を使っても足りずに、放課後までに至りました。私は彼の真剣な語りを聞くうちに、────今思うと、この心の動きが私を『こちら側の人間』へと変える大きなきっかけとなってしまったのでしょう。────私はそれを読んでみたいと思いました。


 その旨を中山に伝えると、彼は嬉々として本を貸してくれたので、私はその夜、早速「らいとのべる」を読みました。今でも時を忘れるほどに惹き込まれたことを覚えています。現実にはない世界観。かっこいい主人公。さらに、尊くて、愛らしいヒロイン。それは私が読んできた本よりもずっと面白く、本はつまらないという私の概念を塗り替えるほど、衝撃的なものだったのです。


 私は中山と一緒にライトノベルの世界に没頭しました。ツンデレ、めがね属性、そういった数多くの言葉に馴染んでいったのも、この時期だったと思います。私と彼との絆はだんだん強固に固まっていきました。


「現実にもこんな世界があったらいいのにな……」そう思うほどに私はライトノベルに惹き込まれていましたが、いつということもなく私には諦めがついていたように思います。


 それでも私は、その空想世界に絶えず出かけていました。




 彼との出会いから二年と半年が過ぎたある日のこと。中山は唐突に一枚の紙切れを私に見せ、何か悟った様子でこう言いました。


「なあ、これ、何に見える?」


 紙には(21)と書かれていました。私は顔をしかめました。一体彼が何を言っているのか、わからなかったからです。しかし、私は彼の神妙な雰囲気からこの問には答えられなければならないと直感したのです。


 私は考えました。(21)が彼にどう映っているのか、(21)が(21)以外に、どのような意味を持つのか。


 しかし、私は結局、彼が何を悟ったのかを感じ取ることが出来ず、黙り込むしかありませんでした。


 二人の空間に長い沈黙が座り込み、それが私の体を締めつけました。


 彼は、すっかり黙り込んでしまった私に

「本当にわからないのか」と、問い詰めました。「⋯⋯⋯⋯解らない」と私が俯きながら言うと、彼はため息をつき、そして、





「ロリ」と呟きました。





『ロリ?ロリだと!?幼い子という意味である言葉、ロリータの略、ロリ、だと!?』


 私は動揺を隠しきれませんでした。手元にあったノートに(21)と走り書きすると、確かにそれは「ロリ」に見えました。いえ、「ロリ」にしか見えませんでした。こんな近くにこの素晴らしい言葉が隠れていただなんて、本当に信じられなかったです。


 それからというもの、私は計算問題などで(21)を見る度に、「ロリ」という言葉が心にチラつくのです。

読んでくださってありがとうございます。


リトルバスターズの(21)がロリに見えるというネタについては問い合せています。


問い合せた結果、現段階では問題ないようです。良かったです⋯⋯!

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