表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/48

4・1818年 パリ③


「あれがあたしの『泉』を湧かせてる新進画家、テオドール・ジェリコーよ。熱い男でしょ? ああゆうのは他人に伝染するの。ウジェーヌを見たでしょ、あんなおとなしい子まで影響されちゃって、感動でお目々うるうるよ。テオドールさえ押えとけば、周りにいくらでも情熱野郎が湧く。魔界のあたしの縄張りにもどんどん『泉』が増えるって算段よ」

 アトリエを出たのち、腹ごしらえするためフェリ行きつけの賄い食堂へ入った。テーブルクロスはソースが飛び散り、乾いたパンくずでざらざらしている。店は小汚いけれど、味は悪くなかった。

「それはわかりますけど、ひとつ質問していいですか?」

「なぁーに」 

 フェリは脂のしたたる肉にかぶりつきながら言った。

「……なんのために魔界にいるんですか」

「けんきゅー」

「研究? なんの?」

「言ってもどうせ信じないから言わない」

「……『時越え』ですか?」

 意表を突かれたのか、フェリは肉の咀嚼を止めた。肉で頬をふくらませた状態のまま、探るようにジェニーの顔を見る。

(やっぱりフェリ様だ)

 フェリが第二階級まで登りつめたのは、『時越え』の開発に貢献したからだと聞いている。天界上層が開発に乗り出す前から、たったひとりで研究に取り組んでいたことも。

(『時越え』の研究なんて、とてつもなくエネルギーが必要だものね。上層が天庫からエネルギーの援助をしてくれないなら、魔界に来て自力で『(はく)』を得るしかない)

 このフェリが上司のフェリなら。

 上司フェリは、ジェニーが十九世紀へ来ることをしっていたわけだ。

 ジェニーがここへ来るようこっそり仕組んだ可能性もある。

 過去の自分に協力させるために。

「……やられたー。チケットくれたのも、きっと策略だったんだ……」

「なんの話よ?」

 ジェニーは答えず、脛肉のシチューをかきこんだ。

 ほんっと、油断ならないんだからあの上司は! このままじゃいつになったら友樹くんと再会できることやら……。

(いや。ちょっと待てよ)

 たとえば。五十年間十九世紀で過ごしたとしたら、自分の見た目は二十五歳になる。

 そのときまでにフェリに研究の成果を出してもらい、五十年経ってから『時越え』で二十世紀末に跳ばしてもらえば、友樹のストライクゾーンの年齢で、再会できる。

 リンゴ~ン♪ 

 ジェニーの胸のうちで、金の鐘が高らかに鳴り響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ