表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/48

8・1827年 敵⑥

 戦いが終了して、ジェニーは肩で大きく息をついた。

 頭領の男爵を速攻で仕留めたから、配下の雑魚たちは楽に始末できた。フェリとふたりっきりの静かだった領地に、累々たる悪魔の死骸が転がっている。

 生死をかけた戦闘らしい戦闘は、ジェニーにとってはじめての経験だった。

 男爵クラスの悪魔が狙ってくるほどに、ウジェーヌの『泉』は有望株なのだろうか。周囲に多くの泉を湧かす、価値ある源泉とみなされたのだろうか。

 ジェニーは静けさの戻った岩場を見渡した。

 動かないダークラスの顔が、こちらを向いている。開かれたままの目が自分を見ているように感じてしまう。ダークラスだけではない。横たわった配下たちが皆、なぜ殺した、なぜ殺したと、うらみのこもった目で自分を見ている気がした。

 ジェニーは目の前の惨状を呆然と眺めていた。

(『泉』を賭けた死闘だなんて、わたしもう完全に堕天使になっちゃったな……)

 上層の許可なく魔族を殺めた。もう天界には戻れないだろう。

 でもいい。

 もう一生、魔界暮らしでもいい。

 悪魔の手にウジェーヌの『泉』が渡ったらと思うとぞっとする。悪魔に限界まで情熱を煽られて、狂気の淵に沈む人間は大勢いる。ウジェーヌをそんな目にあわせたくなかった。

 たとえこの手が血塗られようとも、天界魔界すべてを敵にまわそうとも、彼の魂の炎は決して誰にも渡さない。

 ジェニーは翼をしまうのも忘れ、死骸の転がる中に立ちすくみ、目を閉じた。

(ウジェーヌが好き……守りたいの)

 彼の淡々とした努力の歩みを守りたいの。

 彼の画業を。

 画業に託した彼の熱い魂を。

 守りたい。守ってみせる。

 守りぬいて歴史に残してみせる。

 自分の心を確かめて、目を開く。すると、岩山の陰にびくりと動く影が見えた。

(まだ残ってた)

 再び槍を構えて目を凝らす。

 しかし、それは敵ではなかった。

 天使に見つかりあわてふためく人物に、ジェニーは唖然とした。

「う、ウジェーヌ!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ