7・1827年 パリ⑤
ウジェーヌから新しいアトリエの場所をきき、天使ふたりは彼と別れた。
フェリは「うちの『泉』たちの作品を観に、官展にいくわよ!」とはりきっている。
「ウジェーヌの作品は酷評にさらされてるみたいですよ」
道すがら、ジェニーはフェリにその情報を伝えた。
「酷評こいこいどんとこーいよ。荒波に揉まれたほうが情熱って燃え上るでしょ。燃え上がれ! あたしの『泉』ー!」
「なんですかそれ。すっっっごい他人事! テオドールにもそんなこと言ってたんですか!」
「テオドールには言わなかったよ。だってウジェーヌはジェニーのだもん。励ますのはジェニーの仕事だもん」
「わたしのってなんですか」
「ジェニーの恋人」
「そういう関係じゃないって何度言ったらわかるんですかー! わたしには友樹くんが」
「友樹って名前、ひさしぶりに聞いた。あんた魔界でウジェーヌの話ばっかりしてたじゃない。もういいでしょ、友樹なんか。ウジェーヌに乗り換えちゃえば」
「魔界でウジェーヌの話ばっかりしてたのは、目の前にいつもウジェーヌの『泉』があったからですよ! そりゃ話題にするでしょ。普通するでしょ!」
「なんかムキになってる~。あっやし~い」
「あやしくないあやしくない!」
「いや、あやしいね。髪なんかなでてやっちゃってさ~。ウジェーヌもウジェーヌで、おとなしくなでられてるしさ~。いいわね~。ふふっ」
「……! 見てたんですか!」
「見てましたとも! がんばってね、ジェニー。芸術の情熱に恋の情熱が加われば、ウジェーヌの炎はもっともっと燃え上る!」
そういうことかあ!
ホント計算高いな、この堕天使!