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4・1818年 パリ⑦


 ジェニーがアパルトマンに戻ると、しどけないガウン姿のフェリが「おかえり~」と眠そうに出迎えてくれた。

「……まだ寝てたらいいじゃないですか。朝帰りだったんだから。朝までどこでなにしてたんだかしりませんけど!」

「ワルイコトなんかな~んにもしてないも~ん」

「いつか嫉妬に狂ったアルベールかジョルジュかベルトランに刺されますよ!」

「だいじょうぶ、みんな美意識の高いダンディーだもん。嫉妬に狂うなんて醜いことプライドにかけてしないわ。自分が美しくあることが一番大事な男たちだもの。それにみんなあたしを誘うのは、アクセサリーとして自分を彩るためだしー」

「……アクセサリー扱いされて楽しいですか?」

「楽しいわよ~」

「人間の男の人とあそぶために天界を出たんですか?」

「やーね。今日のジェニーってば変よ。なんでそんなに突っかかってくるのよ?」

 ジェニーは唇をかみしめた。

 なんでと言われたら、二十世紀末に帰りたくなったからだ。一九九九年なら愛する友樹がいる。友達もいる。マンガもアニメもゲームもある。

 フェリだってこんないいかげんじゃなかった。ぶっとんだところもあるけれど、優しくて物知りで頼りになった。

 ジェニーが任務のために未来の天界から二十世紀末の日本へ行くことになったとき、日本語やら日本の文化やら、ジェニーが戸惑わないよう丁寧に教えてくれたのもフェリだ。

 だからジェニーはすぐに二十世紀末に溶け込むことができたし、趣味もすぐ見つけることができた。趣味を通してたくさん友達もできた。

 なのにここではフランス語も慣れない身で、ひとりでほっとかれたまま……。

「やーだやだ。ジェニーが機嫌わるいからやっぱり寝よーっと」

「『時越え』の研究しないんですかっ」

「あとでー。今日は夕方から舞踏会なのよん」

 フェリはジェニーから逃げるように、寝室に消えた。バタンとドアの閉まる音が、拒絶されたように響いてさみしかった。

(友樹くんに会いたい……。友達に会いたい……。このフェリじゃない未来のフェリ様に会いたい……)

 鼻の奥がつぅんとして、ホームシックで涙が出てきた。やっぱりこんなところ、五十年もいられない。はやく『(はく)』を集めてフェリに扉を開けてもらうか、『時越え』を完成してもらうかしなければ。

 ジェニーはどうやったらフェリに本気を出してもらえるか、床の一点を見つめ思案に暮れた。

 フェリの様子を見ていると『魄』を集める気も研究にいそしむ気もないように見える。

 堕天使というより駄目天使。

 もしかしたら『時越え』の研究のために魔界に堕ちたなんて単なる見栄で、本当は任務がいやで、天界を逃げ出して来ただけなんじゃないの?

 フェリにやる気を出させなければ二十世紀末に帰れない。

 一体どうしたらいいんだろう……。

 ぼんやり廊下に立ちつくして考えごとをしていたら、よほどしょぼくれて見えたのか、女中のエデがひょっこり顔をのぞきこんできた。

「……どうしました?」

「フェリなんてぜんぜん当てにならないのに、フェリに頼るしかなくて、もうどうしたらいいかわかんない……」

「当てにならない相手は当てにしないで、自分の力でどうにかするしかないでしょう」

 エデは無表情のまま、すばらしく当たり前の正論を口にした。


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