プロローグ
命の尊さは、人間も動物も同じと思うのですが。
プロローグ
夏の山は気まぐれだった。
ここ2・3日、盛夏には珍しく穏やか陽光と快い軽風が、終日、木立の先を小さく揺らしていた。
今は盛りと鳴き頻る蝉の音と、集だく虫の音が全山くまなく鳴り響いていた。その音は耳を聾するほどだったが、それさえも、無辺に拡がる紺碧の空と、風光り、たわわに繁る緑葉に染み入り優しく調和していた。
緑樹が鬱蒼と茂る夏山は、ただ寂然とその山陵を遠く連なっていた。
山は終日静かに佇み、山に棲息する生き物たちが居るのか居ないのか、ときおり木々間から微かな羽音を発てる数羽の鳥のほか昼下がりのおだやかな日差しの下、山間は閑としてなにも窺えなかった。
遠く連なる尾の上で爛々と燃えていた日輪が、奥山の頂から肩口にかけてゆっくりと傾き始めた夕間暮れ。日は、燃えて膨らみ抱え切れなくなった赤い余滴を山肌に落とし始めた。滴は山襞に沿って滑り落ち、山と宙を暗紅な色合いに彩った。
しばらくの間、宙と山間は薄墨色の景観に覆われていたが、残照の届かない深山の谷懐から徐々に仄暗い夕闇が漂い始めた。
日の余光が山々の稜線にわずかに残る夕映えのなか、宙のどこに潜んでいたのか遠山の頂きにオレンジ色に彩られた大きな月が浮かんだ。その傍らで、気の早い一番星がキラッと瞬いた。
日が山の陰に没してからの寸刻、宙と山は明暗のはっきりしない薄紫の色合いに染まっていたが、浅黒い夜気に包まれはじめた山並みは暮れ泥ずみ、宙との垣根が無くなった。宙と山は溶けて融合し一つになった。と、同時に繁る木立の間に暗い闇が急速に浸透し山間は暗澹とした。
山中は黒々とした夜陰に阻まれ足元さえ覚束無くなったが、真っ暗な夜空を背景に冴えた望月の光明と、きらめく星群の強い光輝を浴びて、連なる山々の背の上が線で描いたようにどこまでも続いていた。
山は翌日の良好を暗示し、静かに夜更けて行った。
しさしぶりに小説家になろうさんに投稿します。しさしぶりなので、投稿手順を忘れ一からはじめています。今回投稿したものは、以前投稿したものですが、誤字脱字が多すぎるとのご批判を多く頂きましたので、今回は十分に注意をし、内容を加筆し再投稿しました。
お暇がありましたらページを開いてくれるようにお願いいたします。