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一章 入学編(2)

 そして私はハヅキちゃんと共に、入学式場に入った。

「わぁ……」

「大きいねぇ。年に二回しか使わない講堂でこの大きさだよ?」

 私は感嘆のため息を漏らし、ハヅキちゃんはやや呆れた表情で講堂を見渡した。

 中学校の時の体育館とはわけが違う。

 白くつややかな壁に、大理石がそのままあるような白黒の床。壁の上にある大きな窓からは燦々と太陽の光が降り注いでいた。

 ズラリと席が並び、そこにはすでに入学するであろう同級生たちが話しながら腰掛けていた。

 上の方には席があり、そこから上級生や中等部の生徒が面白そうに新入生を眺めている。

 私とハヅキちゃんは揃って入学証明書を渡し、前から3番目の列に座った。

「いやぁなんだか度肝を抜かれちゃうね」

「本当……なんだか夢の世界みたい」

「でもここの床は普通の土から作られているよ」

「えっ?」

 普通の土?

 床を見ると、大理石がツヤツヤと輝いている。到底あの土には見えない。

「土系霊術『金属操作(メタル・クリエイト)』か『地面硬化(アースロック)』だね」

「分かるの?」

 ハヅキちゃんは照れながら、

「うん。まぁ大体ね」

「凄い!」

 私は純粋に称賛した。例え霊術が分かっていても、恐らく私は見分けることが出来ないだろう。

 勉学で特待生候補に上り詰め、首席になるぐらいはある。

「どうして分かったの?」

「カササギに聞いたの」

「カササギ?」

「私の精霊は風系統の『風羽精霊(ブリーズバード)』って言ってね。全部の感覚をカササギと共有できるの。あ、カササギは名前ね」

 そう言うと、ハヅキちゃんは肩に可愛らしい鳥を乗せた。

 新雪のような白い羽根に、エメラルドのような美しい緑色の目。手のひらに収まるサイズだったが、細長に伸びた鋭利な爪やくちばしが精霊の証であることを示しているようだった。

 なぜか風宮さんに似ている。あんな風にかっこよくはないけど。

 そ・れ・よ・り・も!

「可愛い……。うわぁふわふわだ〜」

 もふもふの白い毛はとても肌触りが良く、とても暖かった。

 ハヅキちゃんは照れながらカササギのくちばしにチョンと触れた。

「フフッ。カササギも喜んでるよ」

 そう言うと同時に、フッと照明が消えた。

 思わずキョロキョロと辺りを見回していたら、上級生や下級生たちは落ち着いた様子でいる。

 どうやら入学式の通例のようだ。

 花見はこれから一体何が始まるのか、ワクワクとしながらも未知の世界に対する不安で心がいっぱいになっていたのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 講堂から数m離れた執務室。

 そこに風宮と瀬崎はいた。

 風宮は式の最終確認をするために資料をパラパラとめくり、瀬崎はスーツから紺色の上着に裾の長いスカートを着ていた。

 元々が美少年のような美少女だったために、いまや中性的な印象になっていた。

「やれやれ全く。あのような優しい花見サユリさんという人がいなければ、私は今頃キレていたところだったでしょう」

「いやもうすでにキレているでしょ?」

 資料から顔をあげた風宮の頭には大きなたんこぶが二つ程(小さなたんこぶ予備軍多少)が出来ていた。

 瀬崎はおやと片眉をあげ、

「風宮さん、頭の上に赤いダンゴムシでも飼い始めたのですか?」

「ツッコミというボケが鋭いッ!」

「小さな蛆虫も湧くといいですね」

「もはやボケじゃないだろ!! それどこで教わったんだよ!」

 風宮がキレながらも資料を叩きつけた。

「二階堂さんです」

「あの金髪毒吐き女狐がッ!!」

 端正な顔を歪め、風宮は金髪金目の美しい最高特待生(ツン9:デレ1)に対し心の中でありとあらゆる罵詈雑言を並べた。

 なぜ心の中でしか言わないというと、その特待生は以前自分に文句を言った生徒に対し、ボッコボコにしたという。素手で。

「よし二階堂さんに報こ――」

「シオちゃん! 前に君が欲しいって言ってた小説買ってあげるよ!」

「うわーい(棒)」

 本当にこの図太さ誰に似たのだろう、と風宮は遠い目をした。

 瀬崎はこんな風に考えているのだろうなーと完璧に風宮の脳内を読んでいた。

 はっきり言ってしまえば、瀬崎の性格が大変な方向(風宮オンリー)にねじれてしまったのは十中八九風宮のせいである。

 瀬崎が中学1年生の後半、当時未知の精霊だった『音魔精霊王(サラスヴァティー)』を従えていた。

 その時、噂を聞きつけた当時風宮が盛大にやらかしたのである。

 まぁ何をやらかして、のちに『非情の指揮者(コンダクター)』と呼ばれるはめになる瀬崎が風宮にどのような行為をしたのかは全て闇に葬り去られている。風宮の名誉にかけて、である。

(うん……まぁあれだね。鈍い冨満くんでさえも「あれはだめだ」って言う程だからね)

 だから許せと風宮は心の中で笑顔で謝った。

 許さんと瀬崎は即座に脳内シャットダウンをした。

「ふぅ――まぁ良いですけど。そろそろ時間でしょうか?」

「もうそろそろ迎えの人がやって来るんじゃない?」

 風宮がそう言い、ドアの方向を向く。

 つられて瀬崎も向く。

 ドアがきぃと開き、そこから黒い帽子を被った男がのっそりと入って来た。

「時間です……」

「はい分かりました」

 ついていこうとした瀬崎。風宮はスッと目を細め、彼女の前に立った。

「シオちゃんストップ」

「なんですか」

 怪訝そうな顔をして彼女は彼を見上げた。

 その瞬間――、執務室を巻き込む爆発が起きた。

number3 沢城ハヅキ


◯身長:165cm

◯体重:54kg

◯好きな物:担々麺(結構辛め)

◯得意霊術の系統:風属性と土属性

◯最近の悩み:何故か女子にモテまくること。

◯特徴:おかっぱの茶髪。若干つりがちな青みがちの目。青メガネはカササギと共有する際の超感覚を和らげるための特注品。

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