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プロローグ

 精霊という名の精神生命体を人間が認知できるようになった時代。

 人々は精霊と同時に認知せざるを得なかった怪異に怯えていた。

 だが、そこに一筋の光が差し込んだ。

 精霊を生身に憑依させ、霊術を扱える『精霊師』が現れたのだ。

 始まりの精霊師を皮切りに、拳道の精霊師や剣道の精霊師など様々なヒーローが現れた。

 そこで日本は世界初の精霊師を育成するための学園。国立精霊学園を、北海道、東北、関東、近畿、中国・四国、九州の六ケ所に設立したのだった。

 学園には少なからず特待生が存在した。上位の存在である精霊王をその身に宿す強き若者たちの中でも彼らは最高特待生と呼ばれる。


 北海道校最高特待生、二階堂アン。憑依精霊『暴食精霊王(グラトニー)

 東北校最高特待生、冨満イヅル。憑依精霊『月魔精霊王(ツクヨミ)

 関東校最高特待生、風宮スイレイ。憑依精霊『????(アンノウン)

 近畿校最高特待生、成瀬レンタロウ。憑依精霊『暗魔精霊王(ルシファー)

 中国・四国校最高特待生、西藤アキラ。憑依精霊『神魔精霊王(ヴィシュヌ)

 九州校最高特待生、瀬﨑チシオ。憑依精霊『音魔精霊王(サラスヴァティー)


 だが、ここに一人の少女が投入される。

 さながら静まっていた水面に異物が混入するかのように、波紋が広まっていった。

 しかもそれが関東校最高特待生である風宮によって投下されたのだから。

 5校の最高特待生たちは面白がった。散々チヤホヤされ続けた学園生活において、異物の混入というのは彼らにとって遊戯に等しかった。

 そしてそれを議題にした、第32回全校特待生合同会議が開催された。


 会議室は無言による静寂に包まれていた。6人の最高特待生たちが顔を合わせ、静かにしている。

 やがて耐えきれぬかのように黒髪黒目の美少女――瀬﨑チシオが口を開いた。

「皆さん、お久しぶりですね。今回もそれぞれ変わりないようで」

 それに色素の薄い白髪緑眼の美少年――風宮スイレイが反応した。

「うん僕も変わりないよ。学校も関東地方も至って平和、いやー平和って良いね!」

 この会議の議題を作った張本人が何を言ってんだか―と恐らく全員が思ったであろう。

 だが彼に意見するもの好きはいない。いるとすれば平和主義者の瀬﨑か、戦闘狂の冨満ぐらいだろう。そして案の定、

「何だと!? 大体このくだらない会議をするハメになったのはお前が持ち込んだ案件だからだぞスイレイ!!」

 茶髪碧眼の青年――冨満イヅルが机をバンと叩き、風宮に異議を唱えた。

(( よく言ってくれたイヅル! ))

 これには瀬﨑と風宮を除く全員がガッツポーズを取った。表立って文句を言えない最高特待生たちは冨満を文句製造機として有効活用している。

 風宮は不服そうに口をとがらせた。いや実際事の発端は彼なのだが。

「えーそれじゃあ僕が戦犯みたいな扱いになっちゃうじゃん」

「っていうかそもそもの話、なんで一般人が精霊王を宿すことになるのよ。まぁ確かにそんなレア事例も実際にはあるけど」

 金髪金目の美少女――二階堂アンは顔を顰めながら議題の話に無理やり戻した。

「通常、精霊王が人間に力を与えるのはレア中のレア。適性がある特待生でも持ってるのは最高特待生のみだと言うのに」

 二階堂の話を引き継いだ黒髪赤目の美青年――成瀬レンタロウが目を細めて風宮を睨んだ。

「……俺、スイレイのことは一応信じてる。何か……あったのなら……教えて欲しい」

 今まで机に突っ伏していた金髪緑眼の青年――西藤アキラはようやく顔をあげ、風宮のほうを見た。

 全員風宮の方を向いた。それぞれやや心配そうな目で風宮を見ていた。

「フッフッフ、今回は話せばちょっと長くなるからねぇ。まっ入学式を期待しといてくれ!」

「あの私たち一応、他校の生徒なので入学式入れませんよ?」

「………」

 瀬崎が申し訳なさそうに言うと、風宮は一瞬フリーズし、

「じゃあ無理! 諦めて!」

「なわけあるかボゲェ!! このクソスイレイが!」

 二階堂が風宮の顎に綺麗なアッパーカットを決めた。しかも霊術の一つである身体強化を取り入れているため、威力マシマシの超痛いやつである。

「わっ痛いっ」

「なんで殴られてないシオちゃんが感じてるの?」

「チシオが痛いと思うのは当然だぞアン」

「スイレイが死屍累々と化しているからな! 俺もぶん殴りたい!」

「やめろ」

「……痛そう。普段……血を流さないスイレイが……」

 風宮は二階堂に殴られた顎を押さえ、悶絶していた。

「おっま……。殴るなら殴ると言え、防御するから」

「防御するから言わないんだよこのクソボケが」

 おしとやかとも取れるその姿で暴言を吐く姿は慣れぬ者が見たら二度見する光景であろう。

「しかし意外だねスイレイ」

「え?」

 成瀬がクスクスと笑いながら風宮を見下ろした。

「他人に興味を示さない君がただの一般人に興味を示す素振りをみせるなんて」

「……僕たちってさぁ、さんざんチヤホヤされ続けていたじゃん。だからこれはある意味転機なんだよ」


 我らは最強で最高。だからこそ改革が必要だ。

 我ら最高特待生は同じ志を持つ同志。学園を変え、全く新しい存在へと生まれ変わらせる。


「だから彼女は必要なんだ。精霊に運命を狂わされた哀れな生徒たちを変えるために」

 そうだろう、と風宮はゾッとするような顔で言った。

 瀬﨑は静かに笑みを浮かべた。

 二階堂は鼻を鳴らした。

 成瀬は爛々と目を光らした。

 冨満はなんのことだか分からない。

 西藤は肘をついてぼーっとしていた。

 そして風宮は―――。

「さぁ僕らで変えるんだ。この腐った世界を」

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