第二章:「妹と債務と、タコ焼きの逆襲」
午後1時15分。中野区。
「……なあ、何で俺らってさ、いつも“家族ごと”借金背負ったやつらに当たんの?」
「……類は友を呼ぶ、だな」
「それ、俺らが類やったらヤバいやん」
タクマはカラアゲ弁当の残りを口に入れながら歩いていた。
シンはいつものように無言。弁当は食べ終わっていた。
コンビニの袋からタクマがもう一本ウーロン茶を取り出して渡そうとするが──
「……それ、賞味期限切れてるぞ」
「うっそん」
目的地は、昨日逃げた債務者の「妹」のアパート。
名前は「マユミ」。
年齢は22歳。職業は……「謎」。
「なぁシン。もし妹がめっちゃ美人だったらどうする?」
「……警戒する」
「そこはトキメキとかないんかい!?」
階段を上り、呼び鈴を鳴らす。
チーン……
出てきたのは、ジャージ姿で髪ボサボサ、タコ焼きを食べてる女だった。
「……借金取り?」
「お、おう……君、マユミちゃんか?」
「うん。兄貴が逃げたって連絡来た。で、代わりに私が返すって流れ?」
「え、返すの?」
「まぁ、“返す気があれば返すかも”って感じ?」
「どっちやねん!!」
部屋に通されると、床にタコ焼き器が置いてあった。
ジュウジュウ音を立てながら焼かれる粉とタコ。
「……お前、なんで昼からタコ焼きしてんねん」
「大阪の血や。いや、行ったことないけど」
「血だけ関西!?DNAどっから来たん!?」
マユミはタコ焼きを一個シンの皿に置く。
「……返済は、まぁその……“交渉次第”かな」
「交渉って?」
「このタコ焼き、食べてから考えて。そしたら気分で返すかも」
タクマが小声でシンに囁く。
「……なぁシン、これって色仕掛けとかじゃないよな?」
「……見ろよ、マヨネーズが4本ある」
「交渉力高すぎぃぃ!!」
──10分後。
「うまっ!!なにこれ、外カリ中トロ!?」
「ふふん。返済したくなってきた?」
「うん、気持ちだけな」
「気持ちだけかーい!!」
その時、ドアが「ガチャ」と開いた。
「ただいまー……って、うわっ!また来てる!!」
ピンクパーカー男、再登場。
「お前また逃げとったんか!!」
「違うの姉ちゃん!今日はちゃんと返す予定だったの!昼寝してただけで!!」
「嘘つけぇぇぇぇええ!!」
「よし、まとめて取るぞ」
「二人分やぁぁああああ!!!」
15分後。
2人の兄妹は、3万円分のタコ焼きと引き換えに、1万円だけ支払った。
利息?知らん。
「なぁ、シン。今日の仕事って、なんやったんやろな」
「……タコ焼き試食会だな」
「ワイらの職業、絶対間違えてるわ」
帰り道、空を見上げるタクマ。
「なぁ……東京って、意外と人情あるよな」
「……たこ焼き、また食べたいな」
「お前が言うと、感動台無しやねん」
──借金の回収は、胃袋から始まる時もある。