第十二章:「可愛い借金女と、甘い嘘と、始まりの伏線」
午前10時20分、中野区・302号室。
「シン……今月の回収額、ギリ赤字やねんけど」
「“ギリ”じゃない。“真っ赤”だ」
「くっそ〜〜!このままじゃ社長に“ソフト鉄拳”喰らうやん!!」
「“ソフト”では済まないだろうな」
「よし……今日こそ“ヌルめの依頼”来い。お願いや……神様仏様ゆうパック様……」
そのとき、スマホが鳴った。
画面には、見慣れた地獄の名:鬼社長。
「新しい依頼よ♡ 港区の高級マンション。名前は“涼宮ことね(すずみや・ことね)”
借金額:たったの3万円。
でも気をつけてね、女の“ちょっとだけ”は信用できないから♡」
「……なんやこの言い方、意味深やな」
「今回は、いつも以上に“地雷臭”がする」
午後12時45分、港区タワーマンション前。
オートロックを通ると、受付の美人がすぐに案内してくれた。
部屋のドアが開いた瞬間、ふたりは固まった。
そこには──
・完璧なロングヘア
・透明感すぎて画面から出そうな肌
・フリル付きのエプロン姿で、笑顔を浮かべる少女
──涼宮ことね(23)
「はじめましてっ♡取立人さんですよね?ようこそっ」
「……え、天使?ここ、地上?」
「お前すぐ騙されるな」
「お茶、淹れてありますよ♡それから、手作りクッキーも♡」
「うおおおお!?こんなん……回収じゃなくて“癒しイベント”やんけ!!」
「クッキーがトラップかもしれんぞ」
「そんなんでも食う!!」
会話は進む。
ことね:「お金は……今すぐじゃないけど、ちゃんと返すつもりです♡」
タクマ:「返済意思があれば、それでええねん……な、シン」
シン:「甘い」
ことね:「……でも、ちょっと聞いてほしいんです。私、今とある“プロジェクト”の資金集めしてて……」
「ん?」
ことね:「……未来のために、お金を“効率的に集めてる”だけなんです♡」
「……あれ?なんか今、言い方ヤバくなかった?」
部屋の棚には──
・“宇宙意識開発”という謎の本
・“光エネルギーで目覚めるビジネスモデル”というDVD
・“パワーストーン財団会員証”
「シン……これってまさか……」
「詐欺師予備軍だな」
ことね:「あら?どうかしましたか♡?」
「ちょっと今、クッキーが喉に詰まってん……ちゃうわ!!」
「タクマ、帰るぞ」
「待て待て待て、まだ話聞こうや!いや、“聞かされてる”だけかもしれんけど!」
結論:返済は「明後日までに振り込みます♡」で終了。
が、帰り際──
ことねがスマホで呟いた。
「……フフ、あの二人……使えそう♡“こっち側”に引き込むのもありね♡」
帰り道。
「シン……俺、惚れたかもしれん」
「お前、それは“洗脳”だ」
「……目が覚めへんのやけど」
通知が鳴る。
【鬼社長】:
「ことねちゃん、“詐欺系投資サロン”の中心メンバーらしいわよ♡
うちの事務所を勧誘しに来た過去もあるから注意してね♡」
「もはや敵じゃなくて“ボス”やんけぇぇ!!」
「フラグしかない一日だったな……」
──甘い笑顔の裏には、計画的な嘘と、もっと深い企みが隠れている。
そしてこの出会いが、“何か”の始まりだった――。