第十章:「ヨガと借金と、曲がらないタクマのボディ」
午前10時00分、中野区・302号室。
「なあシン。俺、最近カラダが硬い気するんやけど」
「昨日ポテチの袋開けただけで手首痛めてたな」
「やっぱアカンな。もう若くないんや……」
「……25歳でそれ言うのは早い」
タクマはソファで前屈を試みるが、指先がスネにも届かない。
「見てやこれ……地面が遠すぎて、もう地球って他人やん」
「今日のターゲット、ヨガインストラクターだ」
「どこの地続きの話やねん!」
任務内容(社長からのメッセージ):
「ヨガ講師の藤森ダン(ふじもり・だん)、借金額12万。本人曰く『借金もヨガも“心の歪み”』だそうよ。だったら“姿勢”から正してきて♡」
「なんやこのムカつくメタファー!?」
「……仕事行くぞ」
午後12時15分、新宿・高層ビル内ヨガスタジオ「TAMASHII FLOW(魂フロー)」
中に入ると、
・全員白いピチピチのウェア
・BGMは延々「チーン〜〜チーン〜〜」という鈴の音
・天井から“宙に浮く布”
「シン……ここ絶対、ワイら場違いやぞ」
「お前のTシャツ、焼きそばのシミついてるしな」
「服の話すな!!魂で見てくれ!!」
現れたのは、完璧に整った腹筋、微笑む歯の白さMAXの男。
──藤森ダン(34)
自称:「チャクラ界の使者」
「ナマステ〜〜〜♡借金の話しに来たって聞いてるよ〜〜〜♡」
「テンションが無理やねん!!」
ダン:「お金はね、“物理的存在”じゃなくて、“エネルギー”なの。だから……返す必要は、ない!」
「なんでやねん!!物理的に払えぇぇ!!」
「じゃあ、君たちが“チャクラチェック”に合格したら、払ってもいいよ♡」
「ふざけんなやあああああ!!」
チャレンジ①:深呼吸30秒チャレンジ
→ タクマ、3秒で咳き込む。「タバコの煙と戦ってる体やねん!!」
チャレンジ②:ねじりのポーズ
→ シン、難なくこなす。タクマ、足が絡まりその場で倒れる。
チャレンジ③:空中ヨガ
→ 天井から吊るされた布にぶら下がりポーズを取るが──
「ぎゃあああ!!足つったぁぁあ!!」
「チャクラが悲鳴を上げてるよ〜〜♡」
「黙れぇぇぇ!!」
最終手段。
シン:「君が“チャクラで守ってる財布”、これだな」
(カーテンの裏からサッと財布を奪取)
ダン:「うわぁぁぁああ!!それ俺のチャクラの中心!!」
「チャクラごと13万円回収やあああ!!」
帰り道。
「なぁシン……もうヨガ、二度とやらん」
「お前、開始5分で“うどんみたい”になってたからな」
「身体より精神がねじ切れたわ……」
通知が鳴る。
【鬼社長】:
「ダン君、私が昔ヨガ体験で通ってたクラスのインストラクターなの♡あの頃、腰をやったのよ♡」
「だからやたらヨガ推しやったんかぁぁぁ!!」
「社長の元通い先=全員地雷説」
──借金もチャクラも、最後は強引に整えるしかない。