第九章:「狂気の病院と、まともじゃいられない取立人」
午前9時45分、中野区・302号室。
タクマはいつものように、冷蔵庫の前で悩んでいた。
「シン……なんでやろ。冷蔵庫開けても、唐揚げが“湧いてこーへん”ねん」
「それは冷蔵庫じゃなくて、箱型の現実だな」
「うわ……その言い方、余計に冷えるわ」
テーブルにはインスタントコーヒー。
テレビには“朝ドラの再放送”。
隣ではシンが無言で新聞を読んでいる。
「なぁ……たまには“心が温まる依頼”とか来てくれんかな」
「来ないよ。うちは借金取りだ」
「夢がねぇぇぇ!!」
その瞬間、スマホが震える。
画面の名前:「鬼社長」。
「……ほら来た。心が凍るやつ」
数分後。
任務内容:
「依頼人:三浦タダシ(42)。借金額:13万円。現在、“某精神科病院”に入院中。
※情報筋によると、“偽装入院”の可能性大。突撃して確認してね♡」
「いやいやいやいやいや!!精神科って!!ヤバいやん!」
「気をつけろ。今回は、"常識が通用しない場所"だ」
「いや、それって毎回やろ!!」
午後12時10分。都内某所、「はるひの杜メンタルクリニック」。
門をくぐると、まず出迎えてきたのは──
うさぎの着ぐるみを着た“受付嬢”。
「こんにちはぁ~♡今日も心、ふわふわしてるぅ~?」
「シン……帰ろ?」
「ダメだ、進め」
院内。
壁は全部ピンク色。
BGMはなぜかヨーデル。
廊下を歩く看護師たちは、全員“キャラクター着ぐるみ”を着ていた。
「ここ……本当に病院か?」
「いや、たぶん精神的にはこっちがやられる」
病室にたどり着くと、対象の男・三浦タダシがベッドで逆立ちしていた。
「うぉっ、噂通りかよ!」
「私はカエル~ピョンピョン~お金は宇宙~ピョンピョン~」
「……シン、たぶんコイツ“演技”や」
「確実に演技だな。演技が下手すぎて逆に怪しい」
タクマが前に出る。
「三浦さーん、俺ら、借金回収の者なんですけどぉ……」
「うぎゃあああ!!タヌキが金を取りに来たあああ!!」
「タヌキ!?ワイ、どこからどう見てもタヌキちゃうわ!」
その時、医者(らしき男)が登場。白衣の下にアロハシャツを着ていた。
「おやおや、彼は今、“月と交信中”なんですよ〜。借金の話は宇宙法でNGなんで♡」
「いやいやいや!!どこの法律やそれぇぇえ!!」
「君たちが“もっとヤバい人”に見えてきたぞ……」
その後も、三浦は:
看護師に唐突に「俺はアメーバだ」と訴える
食堂でスプーンを耳に当てて「テレビが入ってる」と言う
トイレで5分間だけ正気に戻って「返す気ない」宣言
「やっぱり確信犯やないかーーーい!!」
最終作戦:“もっとヤバい奴”作戦
タクマが精神崩壊キャラを演じる。
「ワイも宇宙から来たやで!でも“宇宙金利”は年利98%なんやで!!」
「う、宇宙金利!?怖ぇぇ!!」
「返さな、ブラックホールに吸い込まれるやでぇぇぇ!!」
「うぎゃあああああ!!払うぅぅぅぅ!!」
──こうして、タクマの迫真の狂人芝居により、回収成功。
帰り道。
「なぁシン……俺、演技うまくなったと思わん?」
「お前、もうそのままで“入院”できるレベルだった」
「褒めてんのか貶してんのか分からへん!」
通知が鳴る。
【鬼社長】:
「その病院、私の元婚約者が建てた施設なの。変な趣味だとは思ってたわ♡」
「なんで社長の元カレ全部“地雷”やねんんん!!」
「むしろ俺たちが療養必要だな」
──次にあの療養施設に入る者は…入った時のままでは出てこられないかもしれない。