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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第3話 まだ引き出しはある

午後は待ちに待ったVR訓練である。


アリアは身体を動かしたくてウズウズしていたので

気の置けない友人とお喋りしながら早めにVRコロシアムに向かっていた。


実際に身体を動かすわけではないのだが。

初日だし大したことはしないと聞いている。


点呼を取り、集団用のVRマシンに入り、準備をする。


(かなり初心者向けの設定になっていますね。初めて使う人もいるからでしょうけど。)


逆に言えば今回は楽しめそうにないなと残念がっていると、自由にVRを体験してほしいと言われたので

これ幸いと誰かと1戦しようと試みる。


しかしよく考えたら、まともに戦える知り合いなぞ

いないことに気が付き、どうしたものかと思った。


そういえばツムギはどこに行ったのかと探してみれば、どうやら純人の男子に話かけられていた。


悪い絡まれ方はしていないので友人としては問題ないと判断し近づく。


「どうしたのツムギー?なんかあった?」


「アリアちゃんごめん。私どうにもまだVRに慣れなくて。そこでこけちゃったから助けて貰ってたんだ。」


「いやあ俺はてっきり同じ純人だと思ってたんだけどそもそも違うって聞いてさ。そしたらVR慣れしてないらしくて。あ、俺は三間坂鏡月。よろしくな。」


自分にも一切臆することなく話かけて来るのを見ると種族差を気にしつつも変な偏見は持っていないらしい。


そこに現れたのが航平で、


「どうした?なんかあった鏡月?」


「おうこちら知ってると思うがツムギ・ヒナタさんとアリア・コキュートス・エリストールさんだ。そもそも純人と思って絡んだんだが天人らしくてな。」


「いいよ。いいよ。よく間違えられるし。天人なんて奇跡使える以外そんなに純人と変わらないしね。なんだったら私ハーフだし。」


「よろしくお願いします。三間坂鏡月くん。君は初めてではないですね。麻宮航平くん。」


「こんにちは。麻宮航平っていうんだ。あの時は挨拶してる余裕なくてごめん。こちらこそよろしく。」


「ん?初対面じゃないのか?こりゃあ隅におけないなーお前。」


「いやいやそういう感じじゃないよ。特別試験の日に少し見かけただけだから。」


「特別試験?そういや初日にVRBする羽目になったって言ってたな。」


「あの時は本当に疲れたけどな。まあ勝てなかったらここにいなかった訳だし。」


「あ、どうせなら少し私と1戦やりませんか?どうせ暇ですし君ならまともに身体も動かせるでしょうから。」


どうやら本気で言っているようだ。相変わらず竜人は本当に喧嘩っぱやい。


「え!アリアちゃん嘘でしょ?」


「お、まじか面白い物見させてくれよ。俺もVRBはやるのも見るのも大好きだ。」


どうしてこんなことになった。


というかいくらなんでも俺が彼女をぶん殴ったら問題になるのではと思ったが向こうは別に問題ないらしい。社会的には大分問題あると思う。


まあ初心者設定になっているので大丈夫だと思うが、絵面がひどいことになるので接近戦は絶対にやめよう。


本当は断りたかったのだがいつの間にやらギャラリーができている。これ公開処刑では?


本気で断ろうとしたら、


「戦ってくれたら私と友達になれますよ?」


という実益と年頃の男子高校生には抗いがたい誘惑によりなし崩し的にこうなった。


なぜか先生も止めないし?なんで?


竜人なのでむしろ戦わなかったら嫌われるのは分かっていたがこれどっちにしろ地獄では?


終わった後の男子と女子の目が怖いが本人がどうにかすると言っているので大丈夫だと思う。ホントによろしくお願いします。


ーーアリアはなんか自分が思ったよりも大ごとになってきたのを見て心の中で彼に謝った。


(別に軽くやるだけで見世物にしたかったわけじゃないんですけどね。)


他にも楽しそうな人はいるがまともな分別があるか分からなかったので実力を知っている人にしただけだ。


(なんの後ろ盾もなくて派閥の影響を考える必要のない練習相手としては適任ですからね。彼にも悪いしサックリと終わらせましょうか。)


審判はツムギと三間坂くんがしてくれるので大丈夫だろう。


ツムギの始めー!という適当な始めの合図が出ると同時に、航平は全力で斜め後方に飛んだ。


明らかに魔力が高まっているので初手は譲り、一旦様子見を行う。


始まると同時に彼女は溜めていた魔力から自分の十八番の魔術を放った。


氷結晶風(クリスタルストリーム)


相手が魔術を展開した途端、航平は最初の動きを間違えた事を理解した。


(これじゃレインという竜人の時と同じ羽目になる!)


叩きつけられる遠慮のない結晶の嵐に急いで鉄の壁を創り出す。


固有魔術はお互い様だがこれは流石に聞いていない!


本当に見た目通りの魔術を放ってきた相手の笑顔を見てある程度加減しているのを悟る。


(向こうだけ手の内を知っているのは不公平だということか。)


身体に叩きつけられた結晶は、そこまで多くないが

漂う冷気がこちらの体力を奪う。


(まあ小手調べだ。避けるにせよ、防ぐにせよ相手を動かすことから始めよう。)


最速で鉄を創り出すと照準もつけずに放った。


どう対応するのかと見ると自分と変わらない方法で防いでいた。


いきなり彼女の眼前に結晶の壁が出現し、飛んできた

ものを弾く。


詠唱は自分以上に早いかもしれない。

おまけにかなりの硬度を誇っているように見える。


少なくとも防御に関してはこちらの上位互換かもしれない。


さてどうしたものかと思っていると


‘‘撃ってきていいですよ。‘‘と口元が言っているのが見える。


あれをぶっ放していいのかと悩んだがそもそも全て見られているのだ。


ギャラリーに人ではないと思われるかもしれないが、相手は明らかに余裕である。


そもそも当たっても問題なしと考えているようで避ける気があるようにも見えない。


挑発しているのは向こうなので問題ないだろう。

竜人の強さは嫌と言うほど知っている。

VRだし万が一も何もない。


しかし当たらないと分かっている攻撃をするのも癪である。元来負けず嫌いでもある彼は一泡吹かせてやりたかった。


だから少し悪戯(いたずら)をすることにした。


どうせ校内VRBランキングに入るつもりなのでばれるのが遅いか早いかだけの違いである。


ハンター科ではVRBで好成績を残せば大学のVR設備を使わせて貰い、大学のランキングに入ることができる。


(手の内を見せるのはあまり良くないがこれぐらいしないとランキングで上に行くのは難しいだろう。)


特別試験で戦った推薦枠の竜人があの実力なのである。上にはもっとヤバいのがいるだろう。

負けたなんて日にはまた母さんにどやされる。


実はかなりの見当違いをしながら、創り出すのは普通の鉄の塊ではなく、造形から形にこだわる。


黒艶のある弾頭と装弾筒(サボット)を創り出す。


確実に人に向けて撃つものではないものが組み上がっていくが、彼女は理解しているかは分からない。


そして創造魔術が終わり幾ばくかの時間をかけて出来上がった砲弾は磁力によって撃ち出されていった。


APDS磁力砲発射!


彼女が咄嗟に分厚く作り出した結晶の壁は、その半ばまで弾頭を食い込ませながらも貫通することはなかった。


その瞬間何が起きたのかよく分かっていなかったギャラリーは、取り敢えず彼女が無事ならばどうでも良かった。


しかし親が軍人である彼女は大体何をされたのか理解し、同時に彼がまだ底を見せていないことも分かった。


しかしいくら温厚な彼女でも流石に()()()()()()キレた。


なので本気で魔術を行使した。


氷結晶吹雪(クリスタルブリザード)


もちろん事前に巨大な鉄の壁を展開していた航平はやっぱりやり過ぎたと後悔していた。


使われた魔術の規模を見てツムギと鏡月は彼女だけは絶対に怒らせないようにしようと心に決めた。


流石にVR空間一面が水色の結晶に埋め尽くされれば先生も動かざるを得ないようだった。


「流石にやり過ぎですよ。いろんな意味で。まあ今回は皆のある程度の実力を知るには丁度いい機会でしたが。」


他を見ると確かに各々勝手にやり合っているのが見えるので、元々そういう目的だったらしい。


当然ながら解放されると真っ先に彼女から非難の視線が飛んできた。


「戦車の貫徹に使われるようなものを人に向けて撃つような人とは友達になれません。」


残念ながら過去にそれを人に向けて撃ったことがある航平としてはぐうの音も出ない。


「ごめん。でも当たらないの分かってたでしょ。」


流石に竜人とは言え女性に向けて撃つものではない。

というか性別の問題ではない。


過去の経験から竜人ならむしろ喜ぶと思ったのだがそこまで彼女はバトルジャンキーではなかったようだ。


「まあ私は竜人の中では穏健派ですからね。許してあげますよ。確かに面白かったですし。ああいう方法があると知れたのはいい経験ですから。」


あやっぱりバトルジャンキーだった。


「私にはもはや何が何やらだよ。なんか創ってなんか撃ったと思ったらドバーって感じだし。本当にどっちも人間?」


「まじで面白かった。今度俺ともやってくれよ。」


それぞれの感想を聞きながら周りの反応を見てみると、そこまで引かれてはいないようで一安心した。


そもそも学生の身で何やってたか理解できる人間は少ないだろう。


彼女をみているとなんとか嫌われずに済んだようでホッとしていると、今日の授業の終了を告げる電子チャイムが鳴り、この日は解散となった。


ーー地味にこちらの思い通りにさせてくれない彼に、悪戯し返してやろうと思ったのだが大人気ないので辞めた。


「アリアちゃんが強いのは分かるんですが麻宮くんてそんなに強いんですか?」


「まあそこそこには強いですね。私ほどではないですが。彼の特別試験の時にたまたま見てたので。」


今日の分評価はマイナスである。


「そんなの見ていいんだ。試験なのに。」


「まあそこは私の人脈の賜物ですね。ああそれと三間坂くんでしたっけ。彼も相当強いですよ。接近戦だったら勝てるか分からないですね。」


「なんでそんなの分かるのー?まだ私達って高校生だよね?なんか私の想像してた高校生活と違うんだけどー!」


彼女は少しだけハンター科に来たことを後悔した。

他に選択肢がなかったのでしょうがないのだが。


「まあ三間坂家と言えば侍として有名ですから。その中では聞いたことは無い名前ですね。もしかしたら何か理由があるのかもしれませんが。」


知らない情報ばかり出てくるので適当に相槌を打つしかないツムギであった。


ーー帰りに航平と分かれた後、鏡月は今日見たものを思い出していた。


自分が戦った訳ではないが彼も侍の一族の出である。相手の大体の実力は見て取れる。


(ありゃあ結構どっちも修羅場くぐってんな。竜人はともかく同じ純人であそこまでやれるのが同級生にいるとは思わなかった。)


世界って広いんだなと思いつつ、同時に愛用の刀が無ければ何もできない自分を歯がゆく感じる。


兄弟の中でも期待されていた自分が、魔術障害を抱えていたのが判明したのは彼が小学校を卒業した時であった。


爺ちゃんに泣きついた時のことはよく覚えている。


いつも厳しい爺ちゃんがあの時だけは優しかったのだ。


跡継ぎを完全に自分にする気だったであろう彼も流石に落胆を隠しきれていなかった。


(兄貴達が跡継ぎになれりゃなあ。まあ頭でっかちな本家の連中が煩いだけでいざとなればゴリ押しできるだろ。)


それでも当主の座を諦めきれなかったからここに来たのかもしれない。


ーーあれを見ていた中には何をしたか正確に理解していたものもいた。


しかし派閥や個人の思惑から敢えて接触しないことを選んだのだ。


下手に神龍の名を冠する者と接触することを喜ぶものなどいない。


その中の一人、海人の甲殻人は三間坂家の三男とやってみたいと思っていた。


しかし本人の性分は天性の女たらしであり、最優先事項は女の子といちゃいちゃすることだった。


残念ながら全敗であったが。


(ま、いつかやり合う機会があるっしょ。)


他にも気になる連中はいるがVRBランキングで上り詰めていけばいずれ分かるだろう。


まだ高校生活は始まったばかりである。


彼にしてはゆっくりとした生活が送れていることを感謝し、同時にこれが束の間の平穏であることも理解できる程度には荒事に慣れていた。










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