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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第2話 なにはともあれメシ

新しい高校生活を迎えても航平の生活リズムは変わらなかった。


いつも通りにメルを起こすとメタルスライムが好む金属を専用の皿に盛る。


ミストやメースの好みに味付けした料理を盛り付けテ大きな大テーブルに盛り付けておく。


若い頃はそもそも彼らを魔物ではなくただの家族だと思っており、数年前に東京郊外に越してきた時は随分常識の違いに面食らったものである。


父から一般常識を教わっていて本当に良かった。


一緒に朝食を平らげた後、流石に学校にメタルスライムやミストバードを連れていくわけには行かないので、諦めてもらう。


学校まで電車に揺られて数時間かかることを考えると、寮に移るべきだが家族と触れ合えなくなることを考えると諦める。


確かハンター大学には大きな牧場が存在しており、使い魔登録をした魔物ならばそこで預かって貰えるはずだ。


しかしもはや食べ物の好みにいちいち煩いうちの家族を預けても絶対納得しないだろう。


しばらくはこの生活が続くことを覚悟する必要がありそうだ。


「行ってきまーす。今日は遅くなるかもー。」


母さんも父さんも寝ているので返ってきたのは人の声ではなかったが航平はエネルギーを十分に貰いバスに乗った。


午前中のHRが終わると各自仲の良い連中で集まりだし

グループを作り出す。


この辺はどんな高校生でも変わらないだろう。

航平はさてどうしたものかと思い、周りを見回す。


すると一人の純人がこちら目指してやってくる。


黒髪黒目で自分に近いが、他種族と比べても遜色のないルックスを誇っており、エルフの隣に立っても許されるだろう。


しかし本人はそこまて容姿に気を払っておらず、髪は無造作に切られている。


そんなものよりこちらが大事と、愛用の真剣を大事そうに背負っている。


明らかに侍の一族であり、昨日見た純人の片方であった。


「麻宮航平だったよな?なあ一緒に飯くわね?」

裏表のない表情で非常に気安く誘ってくるそのコミュ力は航平にとっても有り難いものだった。


こういうのを陽キャというのだろう。


「おう、いいぜ。名前は確か三間坂鏡月だったよな。

取り敢えず弁当なんて持ってきてないから食堂で食べるか。」


「いやあ助かったぜ。同性の純人がお前しかいないからな。俺はこの通り侍の出だから同族がこんなにもいない場所は心細くってな。」


「嘘つけ。昨日も普通に他の人に話しかけてたじゃんか。陽キャめ。」


幸いにして、中学の後半はしっかりと学校に通えたので最低限のコミュ力はある。


がっははは、バレてたかと言われながら食堂に向かっていくと、やっぱり彼女の周りには大きな人だかりができていた。


今回もあまりいい絡まれ方をしていないのが分かる。


「なぜアリアさんはハンター科なのですか。こう言っては悪いですがあなたには明らかに釣りあっていませんよ。今からでも特進科に移る気はありませんか?」


特徴的な内側に捻れた角を持つ美貌の金髪の魔族は、完全に鼻の下が伸びている。


その狙いは丸わかりであるが彼女は意にも介していない。


「私は自分の意思でハンター科を選んだんです。もうこれ以上つきまとわないでくださいね。」


「ちょ、ちょっと待て。私が君に釣り合っていないということか。

流石にそれはいくら君でも無礼というものだ。世界でも珍しいこのエルフと魔族の混血(ハイブリッド)を受け継いだ私の才は、貴方にも十分匹敵するはずだ。」


「そもそも婚約の届け出は全て断っていますからね。

ゼルクさん。いい加減諦めてください。」


そんなことを言って他に先を越されたらたまったものではない彼は諦めるつもりなどそうそうなかった。


いくらコキュートスという神龍の威光があっても個人の感情までは無視することはできない。


そもそも親にもなんとしてでも渡りをつけるように言われている。


しかし嫌われるわけにもいかないという中々難しいものがある。


同じクラスであれば色々やりようはあったがまさかハンター科に行くとは思ってもいなかった。


今日は諦めて次の機会にするかと思い自らの教室に戻ろうとすると、明らかに彼女に釣り合っていない連中とつるんでいるのが見える。


こんな屈辱を毎日味合わなければならないかと思うと虫唾が走る。


しかし現状は打てる手もないので彼にしては大人しく引き上げるしかなかった。


あそこまで付き纏われると美形も大変だなと思い、唐揚げ定食を注文して空いている適当な席に座る。


「ここの食堂はマジで旨いからな。食堂の旨さだけでここに入りたいって生徒がいるくらいだからな。」


「ほんとだ。うまっ。この唐揚げに使われてる油安物じゃないぞ。てことは寮生は朝からこんな旨いもん食えるのか。このボリュームで500円て凄すぎだろ。

絶対バックに竜人いるだろ。」


「違いねえや。この値段でこんな旨いカレー食ったことない。こりゃうめえ。」


航平は鏡月と一緒に予想以上に美味しい昼食に舌鼓を打っていると、明らかに胃袋に入る体積ではない量の

カレーとフライドポテトを抱えた竜人が、彼らと少し離れた席に座った。

 


ツムギ・ヒナタは心の中でガッツポーズをしていた。


持ち前の人懐っこさと陽気さで、神龍の名を冠する子とお近づきになれたのは、自分を100点満点で褒めてあげたいくらいのパーフェクトムーブだった。


癖のない茶髪にショートカットが似合っているが、あまりオシャレをする余裕がないのか年頃の女の子にしてはお金をかけられていないのが分かる。


しかしまさか他の人があまりにも大食い過ぎて、自分の食欲が無くなる経験は人生で初めてであった。


「あ、アリアちゃんそれホントーに、一人で全部食べるの?」


流石に普通のカレーライスの皿ではなく、鍋のような丼に山盛りいっぱい積まれているのを見れば他人の食欲が下がるのも当然だろう。


「うん、こんなに美味しいカレーがこの値段で食べられるのなんてここだけだよ。ほらツムギちゃんも一緒に食べよう。嫌なことがあったら美味しいものを食べてストレス発散するのが一番です。」


食べながら喋っているのになぜか汚くならず、行儀が悪そうに見えないのは竜人マジックか何かかもしれない。


(これ絶対普通の竜人の食べる量じゃないよー。)


流石にお腹が鳴りだしたので食べ始めることができたが、毎日この光景を見るのは同じ竜人でもキツイのではないかと思う。


しかし元来難しく考える方ではないツムギはそういう事もあるかとスルーした。


先程のエルフっぽい魔族とは手洗いに行っていたせいで何を話していたかは分からなかった。


しかし明らかに鼻の下が伸びていたのでそういうことかと判断していた。


「でもアリアちゃん。大人気だねー。流石神竜様のお墨付きといえどもこんなに美人な人同級生で初めて見たよー。」


本人に全く悪気がないためアリアも言われて悪い気はしない。


「私は魔族と雪人(スノーマン)と竜人の混血ですからね。もっと褒めてくれてもいいですよ。」


きゃいのきゃいのとお喋りに花を咲かせていると、


「そういえばツムギちゃんは純人なんですか?その割には苗字が後ろですけど。」


「私は実はこう見えても天人(エンゼル)と純人の混血なんだ。残念ながら落ちこぼれなんだけどね。」


「へー。初めてみたよ。天人って言えばジパングの純人たちよりも国の外に出てこないことで有名だし。そういえば宗教的タブーって何かある?」


天人と言えば宗教である。神の奇跡を扱う代わりに毎日祈りを捧げることで有名だ。


「あ、大丈夫だよ。私は残念ながらあまり奇跡は扱えないし。あんな引きこもって奇跡の詳細をいつまでも秘匿している国なんて好きじゃないもの。」


皆苦労しているなと思いながら彼女達の話を小耳に挟んでいると、


「俺も実は刀がないと碌な魔術使えないんだよなー。

お前は大丈夫なのか?」


「俺も固有魔術は使えるんだけど他はまともに使えないんだよね。」


一芸がある方が器用貧乏よりはましなのかもしれないが。


「へー。聞かせてくれよ。どんな魔術を使うんだ。」


「どうせ授業でいつか使う機会が来るだろうからその時までのお楽しみにしとけ。」


ずるいぞー教えろよーそりゃお互い様だ等と罵りあっていた。


「そういえばツムギちゃんはどんな魔術を使うんですか?奇跡があまり使えないのにハンター科に来たってことは何か他で魔物を狩るんでしょう?」


「私はね、光魔術を使うんだ。奇跡も多少なら扱えるしね。」


「へえー。あまり聞かない魔術ですけどどんなふうに使うんですか?」


「実はどうやって使うかまではあまり考えてないんだよねーあっはっは!」


実はそもそもまともな高校に行くお金がないので、将来ハンターになるのがほぼ確定するが、学費もあまりかからないハンター科を受けるしかなかったとは言えない。


「そんな感じで大丈夫?不安なら私が少し教えてあげようか?こう見えても私は一端の竜人ですし。魔物を狩った経験もありますから。」


「ありがとうアリアちゃん。お願い!」


お喋りをしながらも、目の前のカレーの山がすごい勢いで消えていくのを眺めていた。


(本当に全部食べちゃった。あの細い身体のどこに入ったんだろう。)


「ふふふ、気になりますか。実は私魔族でもあるので食べ物をすぐに魔力に変換できるんですよ。これのおかげでお腹いっぱいどころか何倍食べても問題ないんです。すごいでしょ。」


流石に嘘だよね?


半分は本当かもしれないが。


この短期間で冗談を言える程度の仲になれたことが、ツムギは本当に楽しかった。


こうして賑やかな昼食は過ぎていく。



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